「YOAK(ヨーク)」は、イセタンメンズが最もプッシュするスニーカーブランドのひとつ。海外からのオファーもひっきりなしだ。
今なら笑い話になるけれど、デザイナーの廣本敦が妻に会社を辞めることを伝えたのは2人目の子供がお腹にいるときで、立ち上げてしばらくは手探りの状態が続いた。
自らの手のなかで完結するスタイル
「ヨーク」はイギリスの公爵位からその名を採った。イギリスは、かつて留学したこともある思い出の国だった。公爵位の正しい綴りはYORK。“R”を“A”に変えたのはネット検索で埋もれないようにするためである。

「スタートして2年はオンラインのみで販売していました。僕は大手のスポーツメーカーと商社で経験を積みました。大きな組織だからできることもあるけれど、複数の人間が携わればスムーズにいかないこともある。自らの手の内ですべてを完結させたいと考えた僕にとって、オンラインは当然の選択でした」。
しかし、そうも言っていられなくなった。イセタンメンズが取り扱うのと前後して、国内にとどまらず、海外からもオファーが殺到したのだ。
NEXT PAGE /たった3型から始まったヨークの歴史
「コンセプトはジャケットやシャツに合わせるスニーカー。ちょうどビジネススタイルがカジュアル化したタイミングで、セットアップの足元にも収まりのいいスニーカーを作りたいなって思ったんです」。

ブランドを立ち上げるべく動き始めたのは妻の妊娠がわかった頃だった。
「相談すれば9割に止められ、1割にひかれました(笑)。ところがうちの奥さんは大したもので、反対らしい反対はしなかったんです。ならばやろうと。時代の潮目を感じていたし、勝算は、ありましたしね」。
ファーストコレクションは3型。現在もつづく「ユリス」「スタンレー」「リリー」だ。

昨今のトレンドに慣れた目には拍子抜けするほど飾り気がないが(だいたい、ファーストコレクションが3型しかない、というのも驚きだ)、素通りできない引っかかりを感じる。引っかかりの正体は、生産背景、素材、そしてパターンの妙にある。
「ヨーク」のスニーカーは東京の下町、北千住の工場で作られている。そのエリアからも想像できるように、スニーカーの工場ではなく、革靴のそれである。
操業して半世紀を越えるという、商社の時代に知り合った工場だった。

「とにかく嫌がられました(笑)。スニーカーも同じ靴じゃないかと思われるかも知れませんが、白底はちょっと汚れただけで使い物になりません。革靴に比べればパターンも複雑です。それでも引き下がらなかったのは、ビジネスシーンで履けるという前提をクリアしようと思えば、革靴で培われたその工場の技術、感性が欠かせないと考えたからです」。
型紙の切り方、革漉き、ステッチワーク……ひとつひとつ仔細に観察すれば、廣本が惚れ込んだのも最もな老練の職人技が感じられる。
見逃せないのが「オパンケ」と呼ばれる製法だ。
後編は何やら聞き慣れないこの製法の話から始めるとしよう。
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YOAK
https://store.yoaktokyo.com
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竹川 圭=取材・文