俺のクルマと、アイツのクルマ
男にとって車は名刺代わり。だから、いい車に乗っている人に男は憧れる。
■8人目■
「US」代表 植村 肇さん(45歳)
■植村さんの愛車■
シボレー・エルカミーノ

初めて見たときから、もう決めていた
1980年代半ば、植村さんがまだ小学校の高学年の頃だ。当時すでにBMXに乗っていた従兄弟のお兄さんがいたという。見たこともない自転車を自在に操るそのお兄さんから聞く海の向こうのカルチャーは、植村さんの心を鷲掴みにした。

まだアメリカンカルチャーを扱う雑誌があまりなかった頃だ。従兄弟のお兄さんがこの映画が面白いと言えば見に行き、このバンドが最高だと言えばCDを聞いているうちに、次第に自らも情報を集めるようになった。
なかでも西海岸のファッションに興味を抱いた植村さんは、服飾系専門学校を卒業後、大手セレクトショップに就職。その後有名古着ショップを経て、26歳で独立した。

自ら立ち上げたUSの買い付けで、ロサンゼルスを中心に駆け回るようになってから、何度も現地で目にしたのが、シボレー・エルカミーノだという。
おそらくほかの車のほうがもっとたくさん走っていたはずだが、「何度も目にした」と口にするのは、それだけLAを走るエルカミーノがカッコ良く映ったのだろう。
「確かにとにかくカッコ良かったんです(笑)。仕事が軌道に乗ったら、いつか買おうとそのときから決めていました」。
そして独立から4年後、30歳になった植村さんに、その時がやってきた。
骨董品ではなく、毎日乗るもの
それから15年。今ではヴィンテージアメカジショップの有名店にまでUSを成長させた植村さん。
これまでも仕事で大量に載せる商品の運搬や、家族を乗せるためのバンやワゴンタイプの車は何台も乗り継いでおり、現在もダッジ・ラムを所有している。
ほかにも好きなバイクは買い足しているうちに5台になったが、15年前に買ったエルカミーノだけは、未だ手元に置き続けている。

「通勤はバイクのほうが楽、仕入れた荷物はダッジ・ラムで運搬したほうが便利」だけど、古着をクリーニングに出しに行くときや、三軒茶屋店と原宿店の往復など、なんだかんだで毎日1回は必ずエルカミーノに乗っている。
「この車はリクライニングしないから、ロングドライブはしないですね。毎日の足にしています。今乗ってるもう一台のダッジ・ラムは3年前に買ったのかな。その前はランクルの60に6年乗って、その前がタコマ、さらに前がシボレー・タホでしたね」。
それだけほかの車は乗り換えているのに、エルカミーノだけは手放さないのは何故だろうか。

「なんででしょう。最初にガッツリお金をかけたというのも大きいのかな」と笑う。
「エンジンも6.2Lのホット・ロッド仕様に載せ替えました。速いっすよ。燃費は最悪ですけど(笑)」。
確かにかけたお金がほかの車とは違う。しかし裏を返せば、そこまでしたくなるほどの“愛”は、どこから来るのだろうか。
着古しても味がある服、錆びても味になる車
植村さんのエルカミーノは1966年(ロクロク、と植村さんは発音する)式。エルカミーノは1959年に登場後、長くて4年、下手すると1年という短いスパンでモデルチェンジを繰り返した。

「70年代中期から、プラスチックパーツが使われるようになったんですよ。プラスチックは劣化が激しくて、ちょっと古くなるとバリッと割れたり、風化したり。その点この車もそうですけど、それ以前のアメ車は外装もインテリアも鉄でできている。だからちゃんとメンテすればほとんど劣化しないんですよ」。
一般的に、新しいほど品質が良くなるものだが、なるほど、古いアメ車にはそういう味もあるようだ。
「着古しても味があるというか。ほかの服ではそう簡単に出ない味が、アメリカの古着にはあると思います。プラスチックは割れて無くなりますが、鉄は錆びてもそれが味になる。それと同じかもしれないですね」。

変わらない“モノサシ”が必要
USでは1950年代~90年代後半まで、幅広い年代のアメリカの古着を取り揃え、今のシーンに即したアメカジの着こなし方も提案している。それが今、当時のことを知らない今の若い子たちにも支持されているという。
アメリカンカルチャーを大きな木の太い幹だとすれば、それは新しく芽生えた枝や葉と言えるかもしれない。

「時代とともにファッションが移りゆくのは必然です。“今”の気分に即した提案ができないと、お客さんに喜んでもらえない。しかし一方で、自分たちが提案するアイテムが、本当に元の幹から繋がっているのか? を問い続ける変わらないモノサシも必要なんです」。
植村さんには、それを見極める揺るぎないモノサシがある。
「昔ながらのアメカジがバカ売れする時代はもう来ないかもしれません。でも、自分のなかで変えられないこと、変えちゃいけないことはある。コイツに乗ってると、エルカミーノみたいな服を仕入れたくなるというか(笑) 」。

植村さんの土台には、エルカミーノが人気だった時代のアメリカ西海岸の空気がある。
15年間、環境や時代が変わるなかで変わらず乗り続けるエルカミーノは、彼の大切なモノサシを失くさないために、必要なアイテムなのかもしれない。
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鳥居健次郎=写真 籠島康弘=取材・文