連載「20代から好かれる上司・嫌われる上司」 Vol.2
組織と人事の専門家である曽和利光さんが、アラフォー世代の仕事の悩みについて、同世代だからこその“寄り添った指南”をしていく連載シリーズ。好評だった「職場の20代がわからない」の続編となる今回は、20代の等身大の意識を重視しつつ、職場で求められる成果を出させるために何が大切か、「好かれる上司=成果がでる上司」のマネジメントの極意をお伝えいたします。
デジタルネイティブどころか
今の20代、特に20代前半から下の世代は、アメリカで言われ始めた世代名称では「Z世代」(おおよそ1995~2009年生まれ)と呼ばれています。ちなみに、その前がY世代(1975~1994年生まれ)、そしてその前が私も属するX世代(1960~1974年生まれ)です。
Y世代は物心ついた頃からデジタル機器に触れているので「デジタルネイティブ」、Z世代はさらに、中高時代にすでにスマホを持っており、インターネットやSNSが当然で「ソーシャルネイティブ」と言われています。社会人になってしばらくしてやっとパソコンが普及した上司世代とはITリテラシーに雲泥の差があるのはある種当然です。
ITリテラシーが低いだけでは嫌われない
さて、そんなデジタルネイティブ、ソーシャルネイティブである20代は、ITリテラシーの低い上司世代について、どう感じているのでしょうか。
どんな能力においても、できない人を見下す人はいるものです。英語が話せる人は話せない人を、数字に強い人は弱い人を見下し、忌み嫌うこともあるでしょう。
ただ、誰にも得意不得意はあるわけで、単純に自分が持っているものを持っていないだけで見下したり、嫌ったりする人はそんなに多くはないと思います。
むしろ、自分も完璧でもないくせに、自分が得意な領域だけで人を評価する人なんて、あまりロクな人ではありません。
ITリテラシーをなめているのがムカつく
つまり、ITに弱い上司が部下から嫌われるとすれば、それはITリテラシーの低さ自体ではないのです。では何か。いくつかの嫌われるポイントがあります。
まずひとつは、自分がITに弱いことを「たいしたことない」「仕事の本質ではない」と考えていることです。仕事とは問題解決や創造性の発揮等であり「ITはツールにすぎない」というような発言です。
そういう時点でITスキルを身につける努力を低く見ているところがムカつきます。
ITは人間の能力を拡張する
今どきはだいぶ少なくなったと思いますが(と言いながら、たまに見ますが)、例えばExcelをいまだに表の清書ツールだと思っているとすれば勘違いも甚だしい。
Excelはデータ分析を行い、問題を発見し、解決策を見出す作業をする「場」です。むしろExcelなしでどうやって相関を調べたり、データから傾向を発見したりするのでしょう。超天才でもない限り、そんなことは逆立ちしても無理です。ふつうの人の認知限界を超えています。
ところが、PCのパワーを使えば、動物としての人間では実現できない問題解決力や創造性を得ることができるのです。Power Pointでも、Wordでも、その作業は思考のプロセスの一部なのです。
NEXT PAGE /非効率を押し付けてくるのがムカつく
もうひとつのポイントが、昨今の働き方改革により、「効率的に働いて生産性を向上せよ」と言ってくるのに、正反対の非効率を押し付けてくるところです。
例えば、チャットツールやメールすら使わずに、頑なに電話ばかり使う上司。「電話は突然相手の時間を奪う失礼な手段」というのが常識になってきているなか、結構イタいかもしれません。このほか、スケジュール管理で紙の手帳しか使わない、クラウドストレージを使わない、何でも印刷するなども、似たようなものです。
組織のハブである上司のITレベルに合わせ組織全体の効率は下がります。それでいて、「早く帰れ」「残業するな」と言えば「お前のせいなんだよ」と皆思うでしょう。
向上心の無さがムカつく
最後にもうひとつ、もしかするといちばん嫌われるポイントをあげたいと思います。それは、向上心のなさ、成長意欲のなさです。20代にアンケートを取ると、会社や仕事を選ぶ理由として常にトップクラスなのは「成長できるか」です。それぐらい若者は、成長することを重視しています。成長しようとしている人には、すごいなと自然に敬意を抱きます。
逆に、成長しようとしていない人は、軽蔑するかもしれません。ITリテラシーが低い上司でも、少なくとも何とか改善しようとする姿勢が見えれば許せるのですが、できないことを開き直り、挙げ句の果てにはITリテラシーを過小評価しているのは、許せはしないでしょう。
最低限、理解とリスペクトの努力をしましょう
組織は適材適所ですから、ITリテラシーの低い上司が非常な努力をして、若手並みになれということではありません。各自の強みを活かし補い合いながら、組織全体としてうまくいけば良いのです。
しかし、その際に必要なのは、できないことをできる人、つまり自分を補ってくれる人に対する理解とリスペクトです。
若者の使うIT用語ぐらいは勉強して理解し、会話ぐらいはできるようになる。
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。