看板娘という名の愉悦 Vol.86
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。
「江戸っ子だってねぇ」「神田の生まれよ」でお馴染みの神田。そんな街にも看板娘はいた。
6階に目指すダーツバー、「Darts Cafe GROVE 神田店」がある。

訪れたのはラグビーの日本代表がアイルランドに歴史的な勝利を収めた日の夜。

店内には看板娘の姿。

さっそくドリンクメニューを拝見。

今回の看板娘は「甘いお酒は飲めない」「炭酸も好きじゃない」ということで、お気に入りの「お茶ハイ」をいただくことにした。
看板娘、登場

こちらは大阪は羽曳野市出身の智子(さとこ)さん、24歳。

高校卒業後の智子さんの人生が波乱万丈すぎて面白いが、それは後述する。

「あ、生姜焼き丼も美味しいですよ」。
それだ。


さて、智子さんは高校時代に軽音楽部に所属し、エレキギターなどを担当。そのときに顧問の先生に言われた「音楽は人となりが出るから、人間性を磨かないといけない」という言葉がずっと頭に残っていた。
「卒業間近のタイミングで、近所の美容室でピースボートのチラシを見かけたんです。元々海外には興味があったので、説明会に申し込みました」。

説明会では周遊コースや船内イベントについて聞いた。その場で即決して、申し込んだという。
85日間のコースで費用は約100万円。これに自分のお小遣いと別途ツアー代がかかる。
「出発は7月なので、それまでにいろんなお店にピースボートのポスターを貼るボランティアスタッフをしました。3件貼るごとに1000円の船賃割引。私は1000枚ぐらい貼りました」。
さらに、居酒屋でアルバイトをして実質のローン金額を60万円まで下げた。
「24カ国くらいまわったんですが、いちばん印象的だったのはアウシュビッツの収容所です」。

「ガイドさんがいろいろと説明してくれて、最後に『質問はありますか?』と言われたので『どうすれば世界が平和になると思いますか?』と聞きました」。
ガイドの回答は「まず、自分の周囲から平和にすることです」。そのときはピンと来なかったが、今ではよくわかるそうだ。

10月に帰国したが、今度は「日本のことも見てみよう」と思い立ち、ヒッチハイクの旅に出る。

「甘え心が生じないように、財布は大阪の実家に置いていきました。ヒッチハイクでは意外と怖い目に遭いませんでしたね。ご飯を奢ってくれた優しい男性に『ホテルどうですか?』って聞かれたけど、丁重にお断りしました(笑)」。
宿は駅や公園のベンチ。寝袋で野宿だ。念のため顔まで寝袋を閉じて、靴を隠すなどの用心はしたそうだ。

こうして、沖縄を含む日本一周も完遂。
「そろそろ人間性も磨けたやろと思って上京。音楽塾に通い始めました」。
NEXT PAGE /この店は知り合いの紹介で3年ほど前から働き始めた。よく見ていると、お客さんもスタッフもダーツが異常に上手い。

「ダーツボードの中心に3本入れることを『ハットトリック』というんですが、2回に1回はできますね」。

カウンターの常連さんに智子さんの印象を聞いてみると、「おじさんにも優しくて一緒に飲んでくれるところ」。さらに、「お風呂に入らないところが面白い」という意見も。智子さん、「そんなこと言わないでよ」と照れていた。

世界平和を願う看板娘に最近のトピックを尋ねると、とんでもない事件に巻き込まれていた。
「住んでいた大塚のアパートが全焼したんです(笑)。隣の部屋から出火したみたいで、ギブソンのギターが水浸しになったのはショックでしたね……」。
現在は知り合いのシェアハウスの押入れを借りて暮らしているという。なんとも波乱万丈だが、人間性を磨きまくったおかげでたくましく生きている。

いろんな意味でごちそうさまでした。最後に読者へのメッセージをお願いします。

【取材協力】
Darts Cafe GROVE 神田店
住所:東京都千代田区内神田3-20-6
電話番号:03-3251-5999
www.facebook.com/DartsCafeGrove