看板娘という名の愉悦 Vol.87
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。
昨今、将棋や囲碁に関するニュースをよく目にする。しかし、同じ頭脳ゲームの「麻雀」も盛り上がっているのだ。
昨年7月にはプロリーグの「Mリーグ」が発足。従来の不健全なイメージを払拭し、女流プロも続々と誕生している。

渋谷には今こういうカルチャーがあるのだろうか。確かにコンビニが目の前にあるので、「お代わり」もすぐできる。

今回訪れたのは「麻雀 Bar Citrus」。

看板娘にオススメのお酒を聞くと、「えー、やっぱりシャンパンですか」。

そこへすかさず、「冗談ですよー。私はふだん角ハイばかり飲んでいます」。それをいただきましょう。
NEXT PAGE /看板娘、登場

角ハイボール(700円)を運んできたのは、店長の柚花ゆうりさん(29歳)。プロの雀士でもある。
「さっきまで夕刊フジ杯の生中継ありの対局で、倍満を2回上がってきました」。
倍満とは野球で言えばツーランホームランのようなものだ。

「私が家で作って持ってくるカレーが人気ですね。今日はビーフですが、日によってチキンだったりキーマだったり」。

ゆうりさんはNPM(日本プロ麻雀協会)に所属しており、麻雀が本業だ。出身は新潟県長岡市。
「新潟の女子高生ってスカート丈が異様に短いんです。共学でしたが、私を含めてみんなパンツを見せながら校内を歩いていました(笑)」。
麻雀の原体験は家族麻雀。家族も親戚もみんな麻雀が大好きで、ゆうりさんも中学生ぐらいの頃から見よう見まねで参加していたという。

高校卒業後は長岡市内のキャバクラで働き、客らと麻雀卓を囲む日々。やがて、本気で極めたいと思い、22歳のときに雀荘が多い東京に引っ越した。
「当時はめちゃめちゃ弱かったです。だから、武者修行のつもりで都内の雀荘を巡りました」。
しかし、負け続ける日々。それが悔しくて、本を読んだり強い人に教えてもらったりしながら腕を上げてゆく。やがて、雀荘の社長の目に留まり、試験を経てプロになった。
NEXT PAGE /印象的な対局を聞くと、2015年の「姫ロン杯 麻雀ブル エンプレストーナメント」の決勝戦。

「役は南のみ、300/500。これで優勝を決めました。写真は和了(あが)り牌を待っている瞬間です」。

ところで、雀卓はどこにあるんですか?
「キョロキョロ探すお客さんもいますが、うちは麻雀好きが集まるバー。実際にプレイするわけじゃないんです」。

「一番好きな役は?」という質問の回答に痺れた。「それ、よく聞かれますが困っちゃうんですよね。プロなので、その時々に和了れる役がベスト。逆に言えば全部好きです」。


麻雀漬けの生活を送るゆうりさんに素朴な疑問をぶつけてみた。麻雀って要は確率のゲームじゃないですか。将棋や囲碁みたいに人間がAIに勝てなくなる可能性はありますか?
回答にこれまた痺れた。

「今日もニコニコ動画の中継観てたよ。約束通り、『ゆうりかわいい』って10回コメントしたから」。
ちなみに、この店は2018年12月にオープンしたばかり。渋谷のハロウィンは経験していない。
「ハロウィンの日は怖いから閉めます(笑)。あ、去年のクリスマスの写真ならありますよ」。

店内は麻雀トークで楽しそうに盛り上がっている。皆さん、本当にお好きなのだ。追加でレモンビール(800円)を注文しよう。

店内にカラオケセットもあるが誰も歌う気配はない。


ゆうりさんは言う。
「麻雀にハマったきっかけは『人と人を繋げるゲーム』だと思ったこと。だって、普通に暮らしていたら絶対に会わない人たちと交流できるから」。
深い言葉をたくさん聞いたところでお会計。最後に読者へのメッセージをお願いします。

【取材協力】
麻雀 Bar Citrus
住所:東京都渋谷区道玄坂1-13-1 Mビル3F
電話番号:03-6416-3373
https://citrus-shibuya.owst.jp
>連載「看板娘という名の愉悦」をもっと読む
石原たきび=取材・文