いつの時代も、名車には鮮烈なキャッチフレーズがつきものだ。そいつに刺激され、記憶し、やがて欲しくて欲しくて堪らなくなる、なんて経験、誰もがあるのではないか。
そんなクルマ選びの決め手ともなったであろうキラーフレーズを見ていけば、不思議と自分の好みも明らかになってくるかも。
前編では、世界にその実力を知らしめた海外メーカーのキャッチフレーズ。誰が言いだしたのかはしらないが、きっと「あっ知ってる!」と叫びたくなって、もっとその車を知りたくなるに違いない。
「シルキーシックス」
BMW 6気筒モデル
BMWのクルマの特色を表す「シルキーシックス」。これは1960年代から’80年代にかけて造られた直列6気筒エンジンを搭載していたモデル共通の呼び名で、絹のように滑らかにエンジンが吹け上がり、加速することから名づけられた。
そして、その特性から人気に火がついたのが初代6シリーズの635CSi。環境保護規制からエンジンはターボ化されてはいるが、その特性は5シリーズをはじめとする現在の“直6”モデルにも受け継がれている。

最新世代になりエンジンはターボ化されたものの、唯一無二の加速フィールは健在。5シリーズには3ℓ直6エンジン搭載モデルの540iが用意され、今なおその絶妙な味を堪能することができる。1017万円~。
「世界のベンチマーク」
フォルクスワーゲン ゴルフシリーズ

自動車史において、偉大なクルマのひとつに数えられるフォルクスワーゲンのゴルフシリーズ。そのすごさは大衆車に分類される価格帯で販売されるクルマとは考えられないほどのクオリティの高さにある。
実用性を追求した装備、高い走行性能、各部の作り込みの精密さなど、その圧倒的な品質を模範にしようと世界中の自動車メーカーがゴルフを購入し、解体して研究したといわれている。そこからつけられた名前が「世界のベンチマーク」。

第7世代に進化した現行型ゴルフ。走り、燃費、快適性、質感とどの部分を切り取っても「超優等生」。その完成度の高さは今も多くのメーカーが目指す指針となっている。253万9000円~。
「砂漠のロールスロイス」
ランドローバー レンジローバーシリーズ

荒れ地をものともしない本格オフローダーは、ボディやサスペンションの構造上、どうしても乗り心地は硬く、快適性は損なわれる。しかし、レンジローバーはオフロード性能をいっさい犠牲にすることなく、圧倒的な走破性を確保しつつも、街中では上質なサルーンのような走りを実現した。
その見事な出来栄えを表現するのに使われたのが、最高級の自動車メーカーとして知られるロールスロイスの名前を拝借したこのコピーである。中東やアジアなど未舗装の道が多い国で、多くの富裕層がレンジローバーを支持する理由も納得だ。

初代からのコンセプトを受け継ぎ、今もプレミアムSUVの頂点に位置する。エアサスなどの技術改良により、さらに快適になっている。1377万円~。
「世界一安全なクルマ」
ボルボ 市販モデル

’59年に3点式シートベルトを実用化し、その後もABS、エアバッグ、衝撃吸収バンパーなどを世界に先駆けて開発してきたボルボ。そんなボルボのクルマを表現する際によく使われるのが「世界一安全なクルマ」というフレーズだ。
’70年には世界で初めて事故調査隊を社内に設け、ボルボ車が関与した事故の分析や関係者へのインタビューなどを行い膨大なデータを蓄積。安全に対するこだわりはどのメーカーよりも強く、現在においてもどの価格帯のクルマも同じ思想で造られており、多くの安全機能が標準装備されている。

ボルボの最上位モデルとなるS90。「世界一安全なクルマ」という名前を継承すべく、「インテリセーフ」など、ボルボの持つすべての安全技術が詰め込まれている。644万円~。
「猫アシ」
プジョー 市販モデル

欧州の石畳の上を走っても、乗り心地はしなやかで柔らか。そして、まるで地面に吸い付いているかのように俊敏に軽快に走るクルマに対して使われるのが「猫アシ」である。これは日本の自動車専門誌から生まれた言葉である。
もともとは国やメーカーを問わずに用いられていたが、フランス車、特にプジョーの小型モデルが見事にその特性どおりだったため、今ではプジョーブランドを象徴するワードとして用いられている。’80年代に造られた205がその名を広く浸透させた。その独特の足回りは現行車種でも堪能できる。

現在のラインナップで最もプジョーらしい「猫アシ」を体感できるのが308。また、丸みを帯びた愛嬌のあるデザインや快適なシートなど、プジョーのDNAを色濃く継承している。
「羊の皮を被った狼」
BMW Mシリーズ

いかにも速そうなスポーツカーではなく、一見すると普通のセダンなのに実はスポーツカー並みの性能を備え恐ろしく速い。そんなことからこんな異名がついたモデルがBMWのMシリーズだ。
その起源は初代5シリーズに用意されていたM5モデルである。’80年代に造られたこの普通の乗用車に見えるスーパーサルーンは速度無制限で知られるドイツの高速道路アウトバーンでは、多くのスポーツカーをあっという間に置き去りにしたといわれている。「M」のバッジが付いているクルマは今も昔も侮ってはいけないのだ。

SUVを除くMモデルとしては初めて4WDを採用した最新型のM5。最高出力600psのV8エンジンを積み、0→100km / h加速は3.4秒と驚異のハイパフォーマンス。2WDモードでは後輪駆動による走りが楽しめる。1703万円。
「最新が最良」
ポルシェ 911シリーズ

’64年から同じ車名で造り続けられているスポーツカーの代名詞、911シリーズ。その911を語る際によく用いられるのが「最新が最良」のフレーズだ。いつからそう言われ始めたかは定かではないが、新型が登場するたびに「歴代のなかでいちばん素晴らしい出来だ」という評価が与えられてきた。
また、911の基礎設計をしたフェルディナンド・ポルシェも自負し、初代モデルがマイナーチェンジを繰り返すたびにそう語っていたという説も。「昔のほうが良かった」なんて囁かれるクルマも多いなか、ずっと支持されるのは非常にまれである。

現行の最良911である991型。エンジンはターボ化を図り、従来以上の速さ、環境性能を実現。ピュアな本格スポーツカーであると同時に普段使いもできる。まさに最良の911である。1244万円~。
そのフレーズに「まさか~」と疑うかもしれないが、いざ乗ってみると「ほんまや~」になる。しかもこちら、メーカーが発信したものではなく、ユーザーの経験に基づき、“誰か”が言い出しこれだけ世界に広がった言葉。だから妙に説得力があるのだ。
鈴木 新(go relax E more)=写真