連載「20代から好かれる上司・嫌われる上司」 Vol.5
組織と人事の専門家である曽和利光さんが、アラフォー世代の仕事の悩みについて、同世代だからこその“寄り添った指南”をしていく連載シリーズ。好評だった「職場の20代がわからない」の続編となる今回は、20代の等身大の意識を重視しつつ、職場で求められる成果を出させるために何が大切か、「好かれる上司=成果がでる上司」のマネジメントの極意をお伝えいたします。

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「オレはほめて伸ばすタイプだ」とかいう上司は20代から嫌われ...の画像はこちら >>


「え、ほめて欲しいんじゃないの?」

「最近の若者は承認欲求が高い」とよく言われています。「承認欲求」とは「他者から自分を価値ある存在として認められたい」という欲求のことであり、「若者はほめて育つという人が多い」ということになっています。

そのため、世の上司たちは自らの部下のモチベーションを上げるために「なんとか機会を見つけてはほめなければ」と思う人が多いようです。素朴に考えて、ほめられること自体はマイナスではないと思うのですが、ところがそれを苦々しく思っている若者は少なくないようです。上司の動機は善だとは思うのですが、なぜこんなことが起こるのでしょうか。


なぜ、若者は「承認欲求」が高いのか

そもそもなぜ若者が「承認欲求」が高いのかというところから考えてみましょう。
今の20代の価値観についてさまざまな社会調査などを見ていくと、ひとつの特徴として「価値相対主義」というものが浮かび上がります。

「価値相対主義」とは、ひとつの価値観を絶対視して「これ以外はダメ」と考えることを嫌い、「みんな違って、みんないい」「ナンバーワンよりオンリーワン」と多様な価値観を並立して認めていくというものです。

そうなった要因は、戦後のリベラルな教育や、グローバル化によるダイバシティの進展などさまざまです。このように多様な価値観を認めることは良いことでしょうが、そこには重大な落とし穴があります。


人は結局何かを頼りたくなるもの

それは「価値相対主義」の最大の副作用である「虚無主義」(ニヒリズム)です。「虚無主義」とは、価値の相対化が行き過ぎて、「絶対に正しいものなど何もない」「なんだって、どうだっていいのだ」というように真理の存在を全否定する考え方です。極端に言えば、「働かなくてもいい」「人を殺してもいい」「人生に意味なんてない」というような考えにもつながります。

しかし、人間はそんな考えに耐えられるほど強い存在ではありません。「なんでもいいのだ」という自由を与えられると、逆に孤独と自己責任の重さに押し潰されてしまうことが多いのです。

その結果、結局は何か自分の頼りになるものを探すようになります。


半径3m以内の世界で生きている

そこでもう一度、絶対主義の世界に戻る人も中にはいるでしょう。「出世」や「お金」や「名誉」などの既存の価値観に戻るのです。ただ、そういう人は目立つのですが、少数派です。一度、相対化してしまったものを再び絶対視することはなかなかできません。ニーチェ風に言うなら「神は死んだ」のです。そうなると、あとは「溺れる者は藁をもつかむ」で、目の前にあるものにしがみつくことになります。

つまり、自分から半径3m以内にいるような身近な人たちとお互いに「自分たちのやっていることは正しいよね」と肯定し合う、これが今の若者がよく言われる「承認欲求」の正体ではないかと私は思います。

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上から目線でほめられてもうれしくない

さて、そう考えると冒頭で上司が言っている「ほめる」は、彼らにとっての承認欲求を満たすものではないことがわかります。上司が「ほめる」のは、たいていの場合、会社が「こうなって欲しい」という人物像に若者達が近づいているというときです。

しかし、そういう何かの基準に合わせてイケてる/イケてないと評価されるということは「価値絶対主義」であり、多くの若者はあまり気分良くはならないものです。上から目線で「お前もようやくわかってきたな」などと言われても、「オレはそんな基準でなんか判断されたくない!」と思うのがオチでしょう。


認めて欲しいのは「存在」

若者が承認して欲しいのは、そういった世間的なモノサシによるレベル感や順位などではありません。むしろそういう順位づけをされることは嫌がります。そうではなく、彼らが承認してほしいのは、自分という「存在」自体なのではないでしょうか。

「評価」=「価値判断」されるのではなく「あなたはその状態で大丈夫ですよ」と言ってもらいたいということです。もっと言えば、「(オレの基準で)オマエはすごい」ではなく、「オレはオマエのこと、なんか好きだな」「なんかいいと思っている」とただ単純に言ってほしいだけのではないでしょうか。


自信を持つことが困難な時代

人をほめるとき、誠実な人であればあるほど、その理由も言いたくなるもの。しかし「こういうことをして、こんな成果を上げたから偉い」と理由をあげてほめることは、存在を肯定しているのではなく、行動や成果を他人と比較して評価しているわけです。

今の若手はソーシャルネイティブであり、ずっと他人と比較されて生きており、「結局、上には上がいるからな」「自分なんてたいしたことない」と自信を持つことが困難な時代に生きています。だからこそ、オンリーワンの存在として認めてもらうことが、また競争の世界に飛び込んでいくパワーとなるのです。そこをサポートしてあげるのが上司の役目ではないでしょうか。

曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。

石井あかね=イラスト

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