時器放談●マスターピースとされる名作時計の数々。そこから6本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。
安藤 ティファニーと時計といえば、かつてはさまざまなブランドとのコラボが盛んでした。パテック フィリップやロレックスとのダブルネームは有名ですよね。
広田 ロレックスは1950年代から1990年代前半くらいまではダブルネームがあったと思います。デイトナとか、サブマリーナーとか。
安藤 1970年代に人気を博した、ハミルトンのパルサーというデジタル時計にもダブルネームがありました。これは聞いた話なんですが、世界初のデジタル時計としてパルサー「P1」が世に登場したとき、ティファニーの上顧客たちもこぞって欲しがった。でも、もともと限定100本だから、ティファニーが注文しても数個しか納品されないわけです。そこで、セカンドモデルである「P2」が出るとき、数を確保するためダブルネームを発注したらしいんですよね。
広田 パテック フィリップはほんの少しだけどまだやってると思いますよ、ダブルネーム。ニューヨークの本店でしか売ってないし、いきなり行っても買えないみたいですけど。
安藤 パテック フィリップも認めるティファニーのブランド力、ということでしょうか。
広田 「ティファニー CT60」というのを持っています。使いやすくていい時計です。
安藤 今日は「ティファニー イースト ウエスト」について話したいと思うんですが、この時計は文字盤が少し変わってて、90度回転している。通常3時のところが12時になってます。
ラグジュアリーブランドのスゴい時計【6】
ティファニー「ティファニー イースト ウエスト」

広田 ティファニーがかつて得意としていたクロックがモチーフです。1940年代のトラベルクロックが元ネタ。
安藤 なるほど。確かに腕から外して机に置くとクロックみたいにも使えますね。旅先でも良いけど、会議のときとかにも便利そう。デザインも軽快ですね。
NEXT PAGE /軽快さが魅力の「旅」する時計

広田 そう、軽快なんです。どうでもいい話ですけど、ぼくのすごく好きな歌手にジュリア・フォーダムってのがいて、その人の1997年の楽曲に「イースト・ウェスト」っていうのがあるんです。
安藤 ジュリア・フォーダムの「イースト・ウェスト」をこの時計の中に感じると?
広田 そう。えっとね、この曲って、男に振られた女性があちこちに行ってみたけどあなたのことが忘れられない、みたいな歌詞なんですけど、要は、あっちこっちに行くわけですよ。
安藤 ほう。あっちこっちと違う男のところに?
広田 違う違う、場所の話です(笑)。この時計も、トラベルクロックに範を取って、あちこち行くわけですよ。東へ西へと軽やかに。
安藤 つまりは「旅」がテーマということですね。
広田 そう言っちゃうとそこで話が終わっちゃうけど、まぁそういうことです(笑)。

安藤 ところで、時計の質という意味では広田さんはどう思いますか?
広田 先ほども出ましたけど、いろいろな意味で軽快で良いなと。
安藤 時計専業のトップブランドとダブルネームを続けてきただけに、さすがにツボを押さえているという印象はありますよね。
広田 多くのジュエラーの場合、宝飾品に関してもトップピースだけで勝負している感じがあるじゃないですか。
爽やかなティファニー ブルーに漂う気品

安藤 確かにシルバー製品には買いやすいものがある。学生時代、僕が彼女にあげた最初のプレゼントもティファニーの指輪でした。エルサ・ペレッティがデザインしたオープン ハート。
広田 ほほう(笑)。公式サイトを見ても、「おねだりボタン」とかついていたりするじゃないですか。ああいう感覚、すごくいい。良質なのに手軽に買える。
安藤 ティファニー イースト ウエストにはそういった良い意味での「手軽さ」みたいなところがあると?
広田 そう。価格もだけど、シーンを問わず使いやすいデザインなんかもそうです。例えば、この時計はインデックスにアラビア数字を使っています。
安藤 でも、文字盤の質感はかなり凝ってますよね。
広田 ですです! そこが大事。銀色の部分は、ティファニーが得意とする「プードレ」の技術を使っている。本物の金や銀のパウダーを使って仕上げているわけです。

安藤 だからか、ティファニー ブルーとの組み合わせで爽やかなんだけど、どこか上品さを感じるのは。
広田 あと、建て付けがいいですよね。ケースと文字盤のサイズがバシっと合ってて。普通のことのようだけど、高級ブランドでもときどきそういうところが疎かになっていることがあります。
安藤 機械としては自動巻き、手巻き、クオーツがありますけど、僕はこのデザインで選ぶなら手巻きかクオーツがいいかな。サイズも小さいし。
広田 どれもアリだと思います。シルバー製品と同じで、ティファニーの時計は比較的買いやすい値段なのにすごく真面目に作られている。軽快なのに品格がある。そういう時計ってありそうでなかなかないんです。今後ティファニーがどういう時計を作るのか。そこも楽しみですね。
[問い合わせ]
ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク
0120-488-712
※本文中における素材の略称:SS=ステンレススチール
関 竜太=写真 いなもあきこ=文