職業柄、年を重ねてみて、あるいは所帯を持つようになって……。理由は人それぞれだとしても、大なり小なり“社会”と折り合いをつけることで今となっては気楽に髪を伸ばせる人は少ないかもしれない。
でも、だからこそロン毛にはロマンがあり、僕らはそれを信じて疑わないのだ。若気のいたり、俳優に憧れて、ファッションの影響でロン毛に魅せられた男たち。ここでは彼らの過去と現在を紐解きながら、ロン毛の魅力を改めて考える。
今もしっかり愛用している、自分をロン毛に変えた“贈り物”
自営業 二川健司さん Age 40
元来、髪型に頓着しないという二川さんは、切るのが煩わしくなってしまったことも重なり、期せずして長髪になったという。「ちょうどその頃、友人からドライヤーをプレゼントされたんですが、それがまた超高性能で。使い始めてすぐに髪がツヤツヤになるわ、傷まないわ、おまけに長髪を下ろすとボリュームが出てまとまらない猫毛が、驚くほどストレートになってストレスないわ、といいこと尽くめ。3年間放ったらかし、でも最高のロン毛ライフを謳歌しましたよ(笑)」。

短髪にしたのは3年前、何か変化はあったのか。「身だしなみという意味では、ロン毛時代よりもはるかに清潔感のある印象に変わったと思います。それは仕事面でも大きな利点。やめて良かったのかもしれません(笑)」。
仕事が増えることはなくとも与える印象はガラッと変わった!?

ヘアメイク 小林雄美さん Age 40
高校時代にBMXにハマり、海外のプロライダーが宙を舞い、長い髪をなびかせながら大技を繰り出す姿を見たことが、ロン毛に憧れる第一歩だった。「1970年代の西海岸、ビデオや映画で観た当時のライダーたちがとにかく格好良かったんです。そうしたカルチャーに根ざしたファッションも真似ていました」。

現在のミドルヘアに落ち着いたのは数年前。「色褪せない青春時代の思い出とともに、長髪を束ねて働いていたのですが、あるスタイリストさんに『“大和感”が強い=古代人っぽい』と指摘され(苦笑)、信頼や誠実な印象を大切にするなら絶対に短髪がいいと諭されたのを機に断髪。髪型で仕事量は変わりませんでしたが(笑)、周囲からの評判も良く満足しています」。
今、夢見ているのはマイク真木風の“白髪ロン毛”

「アドナスト」代表 角田泰博さん Age 42
多感だった高校時代、お洒落な渋カジに身を包んだ地元・横浜のクールな先輩に感化されてロン毛の道へ。以降20代後半まで、長髪との付き合いは続いた。「僕のファッションの原点がゴローズやアメカジだったので、コーディネイトもヘアも、どこかネイティブアメリカンを意識したスタイルになっていましたね。ちなみに当時は女性ウケ、最悪でした……」。

大人らしくという意味でもミドルヘアに落ち着いたように見えるが「ロン毛を卒業したわけではない」と角田さんは続ける。「卒業というより休学ですかね。将来的にはまた長く伸ばして、俳優のマイク真木さんみたいな白髪のロン毛になるのが理想なんです。ただ、肝心な白髪が増えないことが目下の悩みなのですが(笑)」。
ロン毛にしたことで気付いた自らの愚かさと人の温もり

モデル HIROさん Age 49
1980~’90年代、スケーターやバイカーに多かったイカしたロン毛。HIROさんもそれに憧れたひとりだ。

「でも仕事で海外を訪れたとき、言葉も通じず何もできない自分にひどく落ち込みました。ルームメイトだったイタリア人が落ち込んでいる僕を見て一生懸命日本語で話しかけてくれて。その優しさに触れた瞬間、横柄に振舞っていた自分が恥ずかしくなり……。帰国後、“戒め”としてすぐ短髪に」。その後も髪を伸ばすこともあったが、当時を思い出すと今でも背すじが伸びる思いだという。