看板娘という名の愉悦 Vol.100
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。

雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。そんな看板娘に焦点を当てたドキュメンタリー連載も、今回で100回目。さて、記念すべき回に出会った看板娘とは?

秋葉原からつくばエクスプレスの快速で45分。つくば駅に到着した。地上に出ると筑波大学を中心とする研究学園都市が広がる。

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しかし、再び駅構内へと戻る。栄えある100人目の看板娘に会うためだ。

つくば駅構内の地酒バーで、弱者を助けたい看板娘が100点満点だった
改札を出て正面に注目。

2019年9月にオープンした「いばらき地酒バーつくば」が目に入る。県内の酒蔵をアピールするために県が開設し、「いばらき食文化研究会」が運営するスタンドバーだ。

時刻は午後4時前。看板娘が開店の準備をしていた。

つくば駅構内の地酒バーで、弱者を助けたい看板娘が100点満点だった
店舗デザインもモダンで洒落たもの。

ここは駅ナカで約30種類の地酒が味わえるという、酒好きの鉄道ファンにとっては天国のような店舗だ。

つくば駅構内の地酒バーで、弱者を助けたい看板娘が100点満点だった
オープニングセレモニーでは大井川和彦知事らが鏡開きを行った。

さっそく、いただこうか。看板娘に聞くと「いろんな銘柄を飲んでいただきたいので、まずは飲み比べセットはいかがでしょう」。

つくば駅構内の地酒バーで、弱者を助けたい看板娘が100点満点だった
3種類の銘柄が飲み比べできる8セットをご用意(純米酒 各800円、純米吟醸酒 各900円)。

さらに、「私は結城酒造の『結』が好きです。女性の杜氏が造っているお酒で、甘口でスッキリしていて美味しい」と続ける。

ならば、8番の純米吟醸酒セットだ。そちらでお願いします。

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3種類で計1合。なみなみと注いでくれる。

残る「一品」(吉久保酒造)と「秀緑」(坂東まちづくり)は、やや辛口だという。


看板娘、登場

つくば駅構内の地酒バーで、弱者を助けたい看板娘が100点満点だった
「お待たせしました〜」。

こちらは筑波大学に通う未来(みく)さん(22歳)。友人の誘いで、この店のオープニングスタッフになった。

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改札の目の前とは思えない風景。

米どころでもある茨城県は、必然的に日本酒の蔵が多い。なかでも、未来さんが勧めた「結」は日本酒レビューサイトの「SAKE TIME」が選ぶ「茨城の日本酒ランキング2020」で1位を獲得している。

茨城県には久慈川、那珂川、筑波山、鬼怒川、利根川という5つの水系があり、エリアごとに各酒蔵が個性的な日本酒を造ってきた。

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筑西市、つくば市、古河市など、県南・県西部の銘柄を中心としたラインナップ。

さて、お待たせしました。話を未来さんに戻す。出身は青森県弘前市。幼少期、冬の遊び場はかまくらだった。作るのが結構大変で、しっかりと山状に固めてから穴を掘るという。

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当時の未来さん。「昔も今も顔が変わらない人生でした」。

「正義感に満ちた子供で、女子に嫌がらせをするいじめっ子に果敢に立ち向かっていました。本気で怒ると引き下がるんですよね(笑)」。

大学2年生の冬には、知らない人たちとアメリカ横断を果たした。知らない人たち?

「インスタで旅の同行者を募集しているのを見て、面白そうだったので参加しました。

アリゾナ州の砂漠の中にあるセドナにも行ったんですが、全米一美しい街と言われているだけあって感動しましたね」。

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周囲を赤い岩山に囲まれた緑多き街をバックに。

幼稚園の年長からガールスカウトとして活動していた未来さんは、国際協力に関心を抱くようになる。大学では開発人類学を専攻した。

「途上国支援って経済や設備の面を重視しがちですが、本当はそこに住んでいる人たちの文化を理解しないといけない。つまりは、人間のバックグラウンドを見ようということ。文化人類学者のレヴィ=ストロースが提唱した概念です」。

アクティブな未来さんはフランスにも1年間留学し、そこでも文化人類学や心理学を学んだ。

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留学時代に知り合ったフランス人たちと土浦の花火大会に行ったときの写真(着付けも未来さん)。

ちなみに、フランス語で一番好きなフレーズは何ですか?

「うーん、『Qui ne tente rien,n’a rien』かな。日本語で言えば『虎穴に入らずんば虎子を得ず』です」。

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つくばのシンボル、筑波山にももちろん登頂済み。

料理は作るのも食べるのも好きで、小さい頃は自分で考えたオリジナルのレシピを冷蔵庫に貼っていたそうだ。今年の正月は日立のあるお祖母ちゃんの家で、豪華なおせち料理を食べた。

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チョーザメなど茨城の食材を取り入れたお重。

ここで、ひとりの男性がふらっと訪問。

聞けば、300年以上の歴史を持つ「来福酒造」のオーナー、藤村俊文さん(48歳)だった。

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「たまたま通りかかったから様子を見に来たんだよ」。

この店には代表銘柄の「来福」を置いているからだ。しかも、「来福 純米大吟醸 超精米8%」という究極まで米を磨いたもの。

つくば駅構内の地酒バーで、弱者を助けたい看板娘が100点満点だった
茨城県産の酒造好適米「ひたち錦」を究極に磨いた状態。

極少量生産の希少な銘柄で、市場価格は1本1万円を超える。

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超特選ショット60mlで1500円。

これもご縁だ。もちろん、いただきます。

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貴族の飲み物が登場。

酵母はアベリアの花酵母を使用し、フルーティーな香りとキレを演出。水のようにスッと入ってくる。

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次回は県産のつまみも堪能したい。

「弱者を助ける人生でありたいと、ずっと思ってきました。対個人の介護や障害者支援も大事な仕事ですが、私としてはそういう仕組みを作る側にまわりたい」。

未来さん、100人目にして100点満点です。最後に読者へのメッセージをお願いします。

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「Bonne dégustation !」とはフランス語で「どうぞお召し上がりください!」。

【取材協力】
いばらき地酒バーつくば
住所:茨城県つくば市吾妻2-128 TXつくば駅(改札正面)
https://twitter.com/jizake_bar

 

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石原たきび=取材・文

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