車のトリセツ●走行に関するトリセツはダッシュボードの中にあるけれど、各メーカーの車の魅力を紐解くトリセツはなかなか見つからない。だから始める、オートマティックで好きになったあの車を深掘り、好きな理由を探るマニュアル的連載。


ガソリン車を発明したメルセデス・ベンツ

1886年に世界最初のガソリン車を発明したカール・ベンツ、それにわずかに遅れてガソリン車の開発を発表したゴットリーブ・ダイムラー。

彼らが興した「ベンツ&カンパニー」と「ダイムラー・モトーレン」が合併して、1926年に誕生したのがダイムラー・ベンツ、現在のメルセデス・ベンツだ。

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ちなみに「メルセデス」とは、ダイムラー・モトーレンの販売代理店を経営していたイエリネクが、ダイムラーという堅苦しい名前よりも人々に好まれる名前をと、自らの娘の名前から取って販売する車に付けた名前だ。のちの合併の際にブランド名の「メルセデス・ベンツ」として残り、今に至っている。

ちなみに合併時にはすでにゴットリーブ・ダイムラーは亡くなっており、技術面の責任者には、のちのポルシェの創始者であるフェルディナンド・ポルシェが就いていた。

【ベンツのトリセツ】車を発明した責任感=圧倒的な信頼感
ダイムラーが同じく1886年に開発した世界最初の4輪ガソリン車。後ろがゴットリーブ・ダイムラーで、運転しているのは彼の息子。

大衆車から、世界のVIPが愛用するラグジュアリーカーまで開発する傍ら、1939年には世界に先駆けて車の「安全性」を研究する専用施設も設け、現在に至る同社の安全思想の基礎を築いた。

第二次世界大戦後も、石原裕次郎が所有したことでも有名な300SLも含むSLクラスや、現在のEクラスの祖となるミディアムクラス、Cクラスの祖である190シリーズなど次々とヒット車や名車、画期的な技術を生み出し、車種バリエーションを増やしていく。

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レースカーとして開発された300SLの、市販バージョンである300SL クーペ。ガルウイング(カモメの羽)が大きな特徴だ。

モータースポーツに対しては「ベンツ&カンパニー」「ダイムラー・モトーレン」の頃から積極的で、ベンツやダイムラーの知名度を高めたのは、数多のレースでの活躍だった。

1894年に開催された世界初の自動車レースではダイムラーのエンジンを載せたレースカーが勝利を収めている。現在もF1に参戦しており、特に2014年から5年連続で年間王者に輝いていた。

 


取るべき選択は「最善か無か」

同社の祖のひとり、ゴットリーブ・ダイムラーが遺した言葉に「Das Beste oder nichts(最善か無か)」がある。技術者である彼が、妥協を排して完璧を目指す強い意思を表した言葉だが、今や同社に関わる従業員一人ひとりの判断や行動の指針となっているという。

W124と呼ばれたモデル(1985年~1995年)を例に取って説明すると、例えばドアミラーの大きさが左右で異なっている。

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ミディアムクラス(後にEクラスと呼称が変更)として登場したW124。写真を見ると分かるように、左右でミラーの大きさが異なる。

同じカタチにしたほうがコストを抑えられるのだが、運転席側は横に広く、助手席側は縦に広いほうが運転の際に視野を最適化できるからというのが当時の判断だ。また、リアのコンビネーションランプも敢えて表面に凹凸をつけて、たとえ走行中に汚れても凹の部分には泥がつきにくいから後続車が車を認識しやすいなどなど……。

こうした分かりやすい例以外にも、数多の「妥協なき追求」を続けてきたのが、現在のメルセデス・ベンツなのだ。

■主な現行モデル■

Aクラス(2018年~)

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同社で最もコンパクトなハッチバック。AMG社が手掛けるハイパフォーマンスモデルのほか、クーペやカブリオレ、セダンも用意されている。エントリーモデルではあるが、「ハイ、メルセデス」と呼びかればカーナビなどを操作できる「MBUX」や衝突被害軽減ブレーキ、ウインカーを出せば自動で車線変更できるなど、フラッグシップのSクラス同等の先進機能が用意されている。

CLSクラス(2018年~)

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セダンをクーペ風にデザインした「4ドアクーペ」というカテゴリーを創った3代目。パーツの多くを共有するEクラスよりスポーティ&ラグジュアリーなモデルで、2LディーゼルターボのFR(フロントエンジン・リアドライブ)と3Lターボの4WDのほか、AMGのハイパフォーマンスモデルも用意されている。4WDモデルは小型モーターが加速や低燃費をサポートする。

GLEクラス(2019年~)

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車名の「GL」はSUVを、EはEクラス相当の車格を表す。このモデルから3列目シートを備えた7人乗りとなった。エンジンは2Lディーゼルターボと3Lディーゼルターボ、3Lガソリンターボがある。

3Lガソリンターボ車は小型モーターが発進等をサポートする。全車4WDだが、3Lガソリンターボ車の4WDは前後0:100~100:0の間でトルクを自動配分する新システムを採用。

Gクラス(2018年~)

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先代は軍用車両を民生化したモデル。2018年、約50年ぶりのフルモデルチェンジが行われたが、ほかのSUVとは異なり、ラダーフレーム構造は先代と同じ。ただし足回りやステアリング機構は一新され、最新の安全機能を装備。エンジンは3Lディーゼルターボ、4Lツインターボがある。急勾配や一輪しか接地しないような地形でも走行できるオフロード性能も備えている。

EQC(2019年~)

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新世代のメルセデス・ベンツを示す、同社初の電気自動車。車名の「EQ」は電気モーターで走るモデルを、「C」はCクラス相当の車格を意味する。GLCクラスより少し長くて幅が狭く、同じくらいの高さというプロポーションだ。前後に電気モーターを搭載し4輪を駆動させる。最高出力は408ps、最大トルクは765N・m。

満充電での航続可能距離は400km(WLTCモード)だ。

メルセデスAMG GT

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メルセデス・ベンツのハイパフォーマンスモデルを手掛けるメルセデスAMG社が、完全自社開発した2人乗りのスーパースポーツカー。4Lツインターボで後輪を駆動させる。最高出力476ps~585psまで4グレードがあるほか、オープンカーのロードスターもある。Eクラスをベースに同様のカスタムを行った4ドアのAMG GT4ドアクーペもあり、こちらは4WDとなる。

 

世界初の実用的なガソリン車を開発したメルセデス・ベンツ。社内では「我々には、発明した責任がある」という言葉が受け継がれているという。その責任感が、現在も巨大グローバル企業として躍進している理由と言えるだろう。

 

籠島康弘=文

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