>連載「37.5歳の人生スナップ」を読む

「心と体を整えより良く生きるための術」。更科有哉(42歳)が...の画像はこちら >>

健康・美容志向の高い人々に人気のヨガ。一時のブームで終わることなく、いまや愛好者は国内600万人といわれるほど広く受け入れられている。

ヨガインストラクターとして活躍する更科有哉さん(42歳)も、そんなヨガの魅力にとりつかれたひとりだ。

「25歳でヨガに出会ったので……、ヨガ歴は17年目でしょうか。とはいえ、ヨガを仕事にしようと思ったのは30代に入ってからでした」。

取材当日は、ヨガの聖地であるインドから帰国したばかり。40代とは思えないすらりとしたスタイルに、ホリの深い顔立ち。褐色の肌は太陽の下で光っていた。まさにヨガの健康効果を体現したような若々しいルックスの更科さんが取り組んでいるのは、高い技術力を要する「アシュタンガヨガ」だ。

更科さんのヨガは、私たちが“ヨガ”というフレーズから連想するものとは少しかけ離れている。肉体の限界に挑戦したようなポージングは、もはや芸術の域。実は更科さんはアシュタンガヨガの聖地インドで、日本人としては最もポーズが進んでいる練習生なのだ。

いったい、なぜアシュタンガヨガの道を進むようになったのか。その人生に迫った。


俳優を志した20代。昼夜逆転の生活で体はボロボロに……

「心と体を整えより良く生きるための術」。更科有哉(42歳)がヨガと出会うまで

「子供の頃から体を動かすことが好きで、学生時代はサッカーばかりしていました」。

北海道・札幌出身の更科さん。高校時代、サッカーでは札幌代表に選ばれるほどの実力を持っていたが、幼い頃から常に競い合う世界にいることで、サッカー自体を楽しめなくなっていたという。

「19、20歳で俳優をやりたいなって上京したんです。でも俳優の仕事だけで食べていくのは難しくて、夜はほぼ毎日バーテンダーのアルバイトをしていました。朝まで働いて昼過ぎに起きてまた夕方からバイトに行って……、そんな生活を続けていたので当時は体が常に重いというか、ダルい感じでしたね。交感神経と副交感神経も逆転してしまっていたのか、自分を見失いそうになっていました」。

そんな日々のなか、25歳で出会ったのがヨガだった。友人から何気なく教えてもらったことがキッカケだったが、その友人以上に夢中になった。

「最初は見よう見まねですよね。ヨガスタジオに通うようなお金もなかったので、本やDVDを購入して独学で学びました。

毎日反復していたので、内容も完全に暗記しちゃって」。

基本的に、ヨガはひとりで完結できる世界。これまでやってきたどの運動とも違い、自分のペースで体を動かせるのが心地良かった。日々の倦怠感から抜け出せずにいたが、ヨガを始めると心身ともに体が軽くなる感覚があった。

「体にいいのはもちろん、なにより気持ちが安定するんです。20代のときって周囲と自分を比べて焦ったり、無性に寂しさを感じたりすることがあるじゃないですか。でもヨガをやっているときは心のザワザワから解放されて、穏やかな自分でいられました」。

気付けばヨガは更科さんの生活になくてはならないものになっていた。仕事を終え、朝方に帰宅。ひと眠りしたあと、まだ日のあるうちにヨガで体のバランスを整えてから出勤することが日課となった。そうやってヨガを学ぶうちに興味を持ったのは、紀元前に起こったとされるインドの伝統的な八支則のヨーガ、アシュタンガヨガだった。

「それから4、5年経った頃でしょうか。

ヨガの本場であるインドへ、旅に出たんです」。

聖地で鍛錬を積むべく、更科さんは30歳で単身インドへと飛び立った。


本場・インドでのアシュタンガヨガの鍛錬

「心と体を整えより良く生きるための術」。更科有哉(42歳)がヨガと出会うまで

日本で多くの愛好者を生んだアメリカ流のヨガと異なり、高い技術力を要する独創的なポーズの数々が特徴のアシュタンガヨガ。発祥の地・インド南部のマイソール地方には総本山である道場があった。初めて訪れるヨガの聖地で何を感じたのか。

「世界中からアシュタンガヨガを学ぶために人々が集まっていて、当然ながらモチベーションもレベルも高い。エネルギーをすごく感じましたし、自分の学びたいものが詰まっていると思いました」。

世界中から達人と呼ばれるヨガ指導者たちが集結するなかで、最初は修行についていくだけで必死だったという更科さん。しかし、不思議と辛くはなかった。

「集中力や技術力は求められますが、やるべきことは決まっているのでわかりやすい。継続的な練習を重ねて決められたシークエンスを進め、師から許されれば、より難度の高いポーズに挑戦できるいうシステマチックなところが面白いんです」。

以来、更科さんはインドと日本を行き来して修行を重ね、今から10年前、32歳で正式指導者資格である「Authorization」を与えられた。

インドでの過酷な修行を続けられたのはなぜだったのだろう。

「何のためにやるのかを明確にすれば継続も苦にはなりません。僕にとってヨガは、より良く生きるための術だし、やればやるほど心も体も満たされるもの。心と体は必ず繫がっているので、どちらか一方だけを鍛えればいいというものでもありません。自分にとって本当に大事なことがわかれば、判断にも迷いません」。

「心と体を整えより良く生きるための術」。更科有哉(42歳)がヨガと出会うまで

20代でヨガを始め、波だっていた心が穏やかになった。心が落ち着けば人生に客観的な判断を下せるようになり、本当に自分に必要なものは何かがわかるようになる。無駄なものを削ぎ落とした日々の先で、更科さんはヨガを仕事にすることを決意した。30代からスタートしたヨガ講師としての歩みは後編で。

 

藤野ゆり=文 小島マサヒロ=写真

編集部おすすめ