看板娘という名の愉悦 Vol.108
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。

雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

桜のシーズンを前に、じつに心ときめくスポットを見つけた。3軒続きの古民家を再生して2015年にオープンした複合施設で、その名も「上野桜木あたり」。

最寄りの日暮里駅から向かうと徒歩10分。谷中霊園の桜並木を通るコースだ。上野駅からだと徒歩15分。こちらは上野公園の桜が迎えてくれる。

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敷地内には、ビアホール、ベーカリー、オリーブオイル専門店、そしてイベントスペースが入居している。

訪れたのは「谷中ビアホール」。

上野桜木のビアホールで、青森出身の看板娘が満開の笑みを咲かせた
「ビアホール」とはいえ、この佇まい。

店内を覗くと、看板娘の姿と8つのタップ(樽に繋がった注ぎ口)。そう、ここでは本格的なクラフトビールが楽しめるのだ。

上野桜木のビアホールで、青森出身の看板娘が満開の笑みを咲かせた
イチ推しは店オリジナルの「谷中ビール」。

取材日の3月18日は最高気温が18度というポカポカ陽気。桜も満開に向けて一斉に蕾を膨らませる気候である。

上野桜木のビアホールで、青森出身の看板娘が満開の笑みを咲かせた
こんな日は路地に面したテラス席一択でしょう。

なお、1階は土足で上がれるが2階の座敷は靴を脱ぐスタイル。

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ビール好きの宴会には打ってつけの場所。

壁にはこの家が建てられた昭和13年に起きた出来事をまとめたパネルが掲げられていた。いわく、「小石川後楽園が開園」し、「東京駅構内の人力車が廃業」となり、「チャップリンの映画『モダンタイムス』が大ヒット」した年だそうだ。

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『海軍厨業管理教科書』に肉じゃがのレシピが掲載された年でもある。

さて、ビールだ。定番の「谷中ビール」を飲もうと思ったが、看板娘のおすすめは3月14日のオープン5周年に合わせて特別に醸造された「谷中霞桜」。おお、最高じゃないですか。1070円のMサイズを注文した。


看板娘、登場

上野桜木のビアホールで、青森出身の看板娘が満開の笑みを咲かせた
「お待たせしました〜」。

「18樽の限定醸造で、もう1樽空いちゃいました」と笑うこちらの女性は26歳の詩音さん。青森県は鰺ヶ沢の出身で、大学入学を機に上京した。

頭の上で揺れているのは早咲きの桜かと思いきや、オリーブオイル専門店のスタッフが作った精緻な造花だそうだ。

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左がオリーブオイル専門店の「おしおりーぶ」、右がベーカリーの「VANER」。

席に戻ってフードのオーダーを迷っていると、詩音さんが「『谷中ビールの牛すじ煮込み』も美味しいですよ」。お値段は660円。

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ビールで煮込むことによって固い牛すじがトロットロになるという。

なんとも贅沢な一品だが、本当にトロットロで驚いた。

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桜色のエールのアテとしては完璧だ。

詩音さんは元々ビールが苦手だったが、この店でクラフトビールの味に目覚める。今ではいちばん好きなお酒を聞かれると「ビール」と即答する。

趣味はひとりカラオケ。お気に入りはKing GnuやOfficial髭男dismだが、SMAPの曲もよく歌うらしい。えっ、世代じゃないのでは?

「お母さんが熱狂的なSMAPファンで、その影響ですね。今日も香取くんがプロデュースするブランド、『ヤンチェ_オンテンバール』とアシックスタイガーのコラボスニーカーを履いてきました」。

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帝国ホテルプラザ1階にあるショップで購入。

お母さんは「新しい地図」関連のイベントに合わせて東京にしょっちゅう来る。先日もそのタイミングで、稲垣吾郎がディレクションし、香取慎吾がアートをセレクトしたレストラン、「ビストロ ジョー」を親子で訪れた。

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メインの鴨肉と締めのデザートが美味しかったそうだ。

実家では3匹の犬を室内で飼っている。名前は「キーストン」、「ティファニー」、ここまではわかる。中央のボーダーコリーの名前は「スマップ」だった。お母さん……。

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「スマップ」くんは1歳の男の子。

「ここのお店はスタッフがみんな面白くて、毎日楽しいです」と詩音さん。

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中央が女将の吉田 瞳さん、右はビール醸造家を志す小峰和秀さん。

ちなみに、女将の着物は「お客様や取引先の方からいただいた物」。店の雰囲気に合わせて女将に着物を着せたいという気持ちはわかる。

「詩音さんはいつも笑顔で元気をもらえますね。気さくに話しかけてくれるので、いろんな仕事も頼みやすいです」。

いわゆる、「谷根千」にも近いロケーション。

日によっては客全員が外国人ということもあるそうだ。

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「どこから来たか」を示すピンマップ。

せっかくなので、看板メニューの「谷中ビール」もいただこう。

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1470円のテイスティングセットを注文した。

いずれも、この店でしか飲めないクラフトビールだ。

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他には湯島に本社を置く「アウグスシリーズ」も。

店は台東区上野桜木2丁目にある。施設名に冠された「上野桜木」は住所そのものなのだ。従って、地域住民にも愛されている。

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店の前にはベンチでは風に吹かれながらビールを飲める。

敷地内には井戸もあり、文字通り「井戸端会議」ができるという心憎い演出。

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じつは業者に頼んで新しく掘ってもらったもの(ちゃんと水も出ます)。

古き良き昭和の雰囲気と、最先端のクラフトビールを堪能したところでお会計。読者へのメッセージをお願いしますね。

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達筆の詩音さん、店の手書きメニューは彼女の筆によるもの。

【取材協力】
谷中ビアホール
住所:東京都台東区上野桜木2-15−6あたり 1号棟
電話:03-5834-2381
https://uenosakuragiatari.jp

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石原たきび=取材・文

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