コスパ良しな「コレ買っ時計」とは?
実は奥深いカジュアルウォッチの世界を深掘る本特集。これまで、類稀なる好奇心を持つ“時計界の散財王”ことエディターの安藤夏樹さんに
>大人がハマる「カジュアルウォッチ」の世界
>押さえておくべき「デザインが面白い」腕時計
について聞いてきた。

エディター 安藤夏樹さん
1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリー雑誌の編集を務めたのち、現在はフリーの編集、ライターとして活躍。時計だけでなく木彫り熊収集家など、幅広い見識と強い探究心を持つ。
“時間を知る”以外の機能を腕時計に搭載したことによるギミックの面白さ。その魅力はまさに、百聞は一見に如かず。なかでも安藤さんがその楽しさをよく表しているという5本を見せてもらった。
1:広末もびっくりした!? ドコモのポケベル時計

「まずはメジャーなところから」と言って安藤さんが取り出したのは、オールブラックのデジタルウォッチだ。縦長のケースがスタイリッシュで、なにやら仕事ができそうな佇まい。ん? よく見るとディスプレイの下にボタンがあり、ケース上部にはNTT DoCoMoの文字が。
「そう、これは1992年に発売された時計型のポケベルです。広末涼子のドコモのCMが’96年ですから、どれだけ時代を先取りしていたのかがわかりますよね」。
ちなみに’90年代には、モトローラやスウォッチからもポケベル機能が付いた腕時計が発売されていたという。

「初期のポケベルは数字のやりとりしかできませんでしたが、のちに数字を文字化できるように進化しました。ちょうどその頃、ウェアラブルのポケベルも増えたんです」。
そして今作は「日本の著名なインダストリアルデザインファームであるGKデザイングループがデザインを手掛けています」とのこと。どうりですっきりとした洗練のビジュアル。デザインも機能も面白い、いいとこ取りの1本なのだ。
2:時代が追いつけなかったコンピュータ内蔵時計

シルバーカラーのスクエアケースに、存在感のある大型液晶ディスプレイを搭載。画面下のオレンジボタンが、なんともいいアクセントになっている。まるでロボットのようなフェイスデザインが無性に男心をくすぐる。
「’98年にセイコー インスツルが発表した、ラピュータというモデルです」。この時計はプログラミングまでも楽しめる画期的な“ウェアラブルコンピュータ”。
「パソコンとジャックで繋ぐことで、データを共有して管理できます。まあ、実際に繋いだことはありませんけどね(笑)。セイコーは1984年にUC-200(UCは腕コンの略)を発表して以来、情報端末として使える腕時計を複数発表しています。
ちょっとオモチャっぽい見た目がいいんですよね。あえてスーツに合わせても面白いんじゃないかなって思いますよ。絶対タダモノじゃない印象になるし、元々は本当にビジネス的な機能を持った時計なのですから」。

実際にボタンを押して動かすと、ピッピッピとレトロな電子音が鳴り響く。ゲームウォッチ的なサウンドが、なんともノスタルジックな気分にさせる。
「実はこれ、ゲームもできるんです。オセロとか。やったことはありませんけど(笑)」。

兎にも角にも、腕になんらかの機能を載せるというワクワク感。それはいつの時代でも、回避不能な男のサガなのだろう。
3:電気ショックでアレを治すヘンテコ時計

さて次。いきなり「これ、なんの仕掛けがあるかわかりますか?」と質問を投げかける安藤さん。厚みのある独特なケースの左下には、意味ありげなドットが。よく見るとこちら、スピーカーのようなデザインになっている。録音機能? トランシーバー?
「ロボットが呼べます。というのはもちろんウソです。でもある意味それくらいブッ飛んだギミックです。実はなんと、いびき防止時計なんです。見た目もイケてるでしょ?」
なるほどね~、っていや、ちょっと待ってください安藤さん。時計でいびきを防止するとは、どういうこと?

「スイッチを入れておくとマイクがいびきの音を拾って、裏面の電極から電流が流れるんです。ほら、ケースバックに突起がついているでしょ。ここから電流が発生する。着けたまま寝て、いびきをかくと、ウワッ! となるわけです。
なんともヘンテコな機能を備えたこの時計、発売当時は新聞の通販広告ページだけで売られていたという。安藤さんはレトロテイストな見た目に惹かれ、フリーマーケットにて200円でゲット。怪しげな新聞広告までチェックするとは、さすが時計界の散財王……なのか!?
4:持ったら火傷するぜ!な驚きの機能

「ではこちらは?」と、またも安藤さんからギミッククイズが。あれ? この企画ってそういう主旨でしたっけと思いつつも、次こそは正解しようと必死になる編集部。しかし、今回も我々の想像の遥か上をいく機能を備えた時計だった。
「はい時間切れ! これはケース左上から火が出るライターウォッチでした!」と、それこそ目から火が出るような衝撃の回答が。いや、こちらは“メカ”から火が出るわけですな。さすがは散財王、とんでもない時計をお持ちで。

「本来はガスを入れれば火が点くはずですが、だいぶ昔のものですから現状ではパッキンが怪しいので試していません。そもそも火を点ければ熱を帯びるわけで、時計という精密機械にとって“あり得ない”機能かもしれません。でも、この“禁じ手感”が面白いでしょ」。
映画のスパイ道具を思わせるコンパクトかつスクエアな1本は、正確な年代もブランドも不明なんだとか。であれば逆に、ルーツを想像して楽しんでみるのも大人の嗜みかもしれない。
5:当時の夢を腕に載せたテレビ時計

「最後はこの世界初の液晶テレビウオッチをご紹介しましょう」と安藤さん。「電波を受信するレシーバーやヘッドフォンと一緒に使うことで、腕元でテレビが見られるという1982年当時の夢のアイテムですね」。
今や、地上デジタル放送に切り替えられたため本来の機能は果たさない。しかし、そんなことはもはや関係ないのだ。

「この時計は未来的なルックスから、映画『007 オクトパシー』にも登場。ジェームズ・ボンドが使用しています。どのように使われたかはぜひ映画で確認してみて下さい。あともうひとつ言っておきたいのは、時計自体は違いますが、レシーバーのデザインはプロダクトデザイナーの深澤直人さんが担当しているということ。彼が諏訪精工舎(現在のセイコーエプソン株式会社)に在籍していた頃に手掛けたんです」。
人に歴史あり。
最大の“ギミック”は、大人を童心に帰らせること?
「ほかにも、ボイスメモやらピアノウォッチやら、ナイフ付きウォッチやら。まだまだギミックが面白い時計は尽きません」と語る安藤さん。
ギミックを積んだカジュアルウォッチは、いい大人を童心に帰らせる。それこそが最大の機能と言っても過言ではない。
あなたはどんなギミックに、心躍るだろうか。
コスパ良しな「コレ買っ時計」とは?
複雑機構ならいいワケじゃない。有名ブランドならいいワケでもない。カジュアルに付き合えて大きなリターンがあるのが理想。見た目もコスパもいい「コレ買っ時計」を、さまざまな切り口で選抜。
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増山直樹=文