ジュニア期(6〜14歳)の筋トレって大丈夫? 子供の年代別筋...の画像はこちら >>

「子供のスポーツ新常識」とは…

オリンピックに出場するような一流のスポーツ選手たちが生い立ちを語るときに、「両親や兄弟の影響で幼少の頃からスポーツに勤しみ、トレーニングをしていた」という話をよく聞きます。

このような話を聞くと、「トレーニングはできるだけ早く始めたほうが良い」「早く始めたぶんだけ効果がある」という考えを持ってしまいがちです。

しかし、これには落とし穴があります。


最適な時期に最適なトレーニングをすることが大事

「どれだけ早くトレーニングを始めたか」ではなく、「どの時期(年齢)に、どのようなトレーニングを行っていたのか」、大切なのはそこです。

ジュニア期(6~14歳)の子供の体は、大人の体の縮小版ではありません。その点を認識したうえで、やるべき時期にやるべきことを与えてあげる。当然、個人差はあると思いますが、ここでは一般的な例を示したいと思います。発育・発達パターンを元に、以下の4段階に分けて考えてみましょう。

■11歳以下
神経系の働きが顕著に向上することから、複雑な動きやスキルを学習し、獲得する能力に優れているとされています。水泳、投球動作、サッカー、ラケットスポーツ、ゴルフなど、日常生活に無い活動や道具を使って行う動作はこの時期に始めたいもの。敏捷性を向上させるような複雑な動作の繰り返しがこの年代では重要です。

■12~14歳
呼吸・循環系の能力が向上する時期であり、全身持久力の向上が見込まれます。そのため長距離走や球技に親しんだり、サーキットトレーニングなど、長時間の運動を習慣化することが大切です。

■15~18歳
骨や筋肉の発達が著しい時期です。特に男子は筋力や瞬発力の向上が得られます。

そこで、筋力の強化を目的としたトレーニングに本格的に取り組み始める時期です。

■19歳以上
総合力として競技能力の改善に期待できる時期です。つまり、それ以前の年代で獲得した運動能力を土台として、最後に総合力を発達させるように努力することが大切です。

ジュニア期(6〜14歳)の筋トレって大丈夫? 子供の年代別筋トレのコツを解説
『各年代で獲得すべき能力』

これら4段階から考えると、小学校期ではスポーツを遊びとして体験する機会を多く作り、スポーツ技能の優劣ではなく体の多様な動きを習得し、洗練化することが大切です。

中学校期では競争の楽しさを覚えますが、体はまだ成熟していませんので専門的なトレーニングにはまだ早い時期。しかし、高校に入れば筋肉や骨といった体を構成する要素が整いますので、競い合うことを目的とした「パワーアップ」を計ることが可能な段階となります。

つまり、本格的な筋トレでパワフルな動きを獲得するのは高校期からでも遅くないのです。


「筋トレをしすぎると背が伸びない」は間違いである

筋トレ、すなわち「筋力トレーニング」とは「骨格筋の出力・持久力の維持向上や筋肥大を目的とした運動の総称」のことです。

では、筋トレとウエイト・トレーニングではどう違うのでしょうか? ウエイト・トレーニングを辞書で調べてみると、「重量物(ダンベル、バーベルなど)または自重(自分の体重)などを用い、筋肉に負荷をかけて体を鍛えるトレーニングのこと。筋力増強・増量などを目的とするトレーニングの総称」となっています。

このように、バーベルやダンベル、専用のトレーニングマシンなどを使用して負荷をかけるトレーニングだけでなく、実は自重を利用した腹筋や背筋も、ウエイト・トレーニングと考えられているのです。ここではこうした認識の元にお話しします。

ジュニア期の子供たちに重量物を持たせて筋トレすることは、ひと昔前までは“厳禁”とされてきました。

その理由として「背が伸びなくなる」「ケガをする」などといわれたもので、特に「ウエイト・トレーニングは子供が行うものではない」と位置づけられていました。

しかし、この考え方は間違いで、スポーツの上達には個人差があることを認識したうえで、その子に合った負荷で楽しく筋トレをさせれば、決して危険でもマイナスでもありません。

ジュニア期(6〜14歳)の筋トレって大丈夫? 子供の年代別筋トレのコツを解説

上の図のように、適度な重量負荷であれば、ジュニア期でもトレーニング前後で筋力の発揮に十分に成果が得られることがわかってきています。腕立て伏せや腹筋・背筋運動といった自重で負荷をかける筋トレではうまく鍛えられない部分を、他人に負荷をかけてもらったり、危険のない範囲でウエイト器具を使用してトレーニングすることは、筋肉や神経の発達をバランスよく促すことにつながるはずです。


スキル習得のために必要な筋肉があれば良い

誰でもできないことをできるようにするために、練習をすると思います。その際に何を考えるでしょうか。今できないことの少し先、今の能力よりも少し上を目指すはずです。子供たちの体にとっては、その「少し上」の能力に目線を向けてあげることが大切です。子供たちの体はとても速いスピードで成長しています。そのため、次のスキルを覚えるために、それに必要な程度の筋肉は準備する必要があるのです。

そして、その筋肉が動き方を覚えることがスキルの獲得につながります。「走る」「跳ぶ」「投げる」といったスキル(力強さではありません)を習得するために、体中のさまざまな筋肉に刺激を加え、使える筋肉を作ることが大切なのです。

ただし、ジュニア期のウエイト・トレーニングは、重たいバーベルやダンベルを持ち上げて、パワフルなムキムキの筋肉をつける目的で行うものではありません。そもそも、子供の筋肉は大人と違い、筋トレを行ってもムキムキと肥大することはないことを付け加えておきます。

気をつけなくてはならないのは、「どっちが重たいものを持ち上げることができるか」「この筋トレを何回できるか」といった“競争”にならないようにすることです。子供たちにとって、ダンベルの重さや反復回数といった“数字”は、かけっこのタイムなどと同様に彼らのライバル心をかきたてる格好の材料です。

重量や回数の勝ち負けこだわってしまうと、トレーニングの本来の目的を逸脱し、筋肉に無理な負荷をかけてしまって体のバランスを崩すようなことにもつながりかねません。

「子供のスポーツ新常識」
子供の体力低下が嘆かれる一方で、若き天才アスリートも多く誕生している昨今。子供とスポーツの関係性は気になるトピックだ。そこで、ジュニア世代の指導者を育成する活動を行っている、桐蔭横浜大学教授の桜井智野風先生に、子供の才能や夢を賢くサポートしていくための “新常識”を紹介してもらう。上に戻る

連載「子供のスポーツ新常識」一覧へ

桜井智野風=文
桐蔭横浜大学 教授。同大大学院スポーツ科学研究科長。運動生理学 博士。骨格筋をターゲットとしたスポーツ科学・生理学的な研究を専門とする。
公益財団法人 日本陸上競技連盟 指導者育成委員会コミッティーディレクター。スポーツの強化策としては、「ジュニア世代と接する理解ある指導者や親を育てることが一番重要である」という考えのもと、ジュニア対象の指導者育成のために全国を飛び回っている。
編集部おすすめ