N.ハリウッドのデザイナー、尾花大輔さんは20年間服をつくり続ける中で、“真のコンフォータブルな服とは?”という自問自答を繰り返してきた。
その結果、たどりついたのが「頭をゼロにして着られる服」という考え。
はたしてその真意とは? 彼が手掛ける二つのブランドからその答えを紐解いた。
意識するのは時代性に左右されない無味無臭な服
——「楽な服」という大きなテーマについて、尾花さんはそもそも服づくりをするときに楽かどうかを意識されることはあるんですか?
「もちろんありますよ。特にここ4~5年は、こうやってインタビューに答える中でもコンフォータブルという言葉をよく使うようになったと思います」。
——それは着心地についてですか?
「もう少し広い意味ですね。古着のリメイクから服づくりを始めてミスターハリウッドというショップをオープンしてから、今年の12月で丸20年を迎えます。当初は自分の歌舞いた部分をアピールしたり、主観的に服をつくったりしていました。でも、それを続けていくうちに、気付けば自分だけのブランドではなくなってきたという意識があります。
というのも10年を1期だとすると、3期目に入るわけです。昔は若かったバイヤーさんたちも今ではすっかりいいオジサンになっていたり、初期からのお客さんの息子さんがウチの服を買ってくれてたりする。自分自身が着たいものをつくる、というのは今も変わってないけれど、そういう“皆さんのブランド”という世間への責任感が出てきた気がします」。
——その責任感は、具体的にはどんな部分に現れてきたんですか?
「常に意識していることは、生活の中で本当に必要な服と、ホビーとしての服との棲み分けですね。前者は文字どおりですが、ホビーな服とは高感度なファッション好きだけに刺さるような趣味性の高い服を指します。
きっとホビーの人たちはそれでいいと思うけれど、多くの大人はそこでそういうものを着ないですよね。先ほど話をしたとおり、多くの人が愛用してくれるブランドになったからこそ、生活に溶け込む身近なデザインの服がより大事に思えてきたんです」。
——確かに、一概にファッショナブルな服が正義とは言えないですよね。
「そうですね。何年か前にノームコア(極めてシンプルなファッション)なんていう言葉が流行ったけど、そこには服装で他者から判断されたくない、という力強い意志があったと思うんです。今やキーワードとしてのノームコアは色褪せて消えていったけど、意志の部分ではどんどん進行していって、定着しましたよね。
そういうマインドをもっている人の一部にとっては、着るものを選んだり、色使いを考える時間とかが無駄だったりストレスの原因だったりして、当時はそんな価値観が少なからず衝撃的でしたけど、今はどんどんそういう時代になってきています。ユナイテッドアローズさんと一緒に取り組むようになって4年が経ちましたけど、そこではこんな時代にコンフォータブルでいられる、みんなのための服がつくりたかったんです」。
——それがユナイテッドアローズ&サンズ バイ ダイスケ オバナ(以下サンズ バイ D.O)というワケですね。
「はい。もちろん、ユナイテッドアローズはいろいろな角度の“ホビー”が集まったセレクトショップで、そこに加えるとしたらどんな服だろう?とまず考えました。

——サンズ バイ D.Oのデザインイメージが固まったのはどのタイミングですか?
「最初にアローズさんが提案してくれた、小松マテーレ(旧 小松精練)の生地を見たときですね。いくつかの生地があった中で、『このポリエステル生地のボコボコとした質感、すごく良くない?』となって」。

——その生地はそんなに特別な魅力があったんですか?
「質感だけではなく扱いやすさにも惹かれました。天然繊維と比べてシワが気になりにくく、乾きやすい。型崩れしにくくて、傷も付きにくい。夏は涼しく感じ、冬は暖かみがある。そして動きやすい。快適という点ではスウェットも好きなんですが、どうしても毛玉ができたり伸びやすかったりしますよね。
——なるほど。サンズ バイ D.Oの洋服はすべてこの生地でできているんですか?
「そうです。もう4年もやっているから、企画や生産、MDチームに店頭も、そろそろ新鮮みが欲しいと思っているだろうなと思って、これを超えるような生地がつくれないかとずっと試行錯誤をしているんですが、結局この品質をどうしても超えられないんです。
服自体の形のマイナーチェンジはありますけど、良かったものは極力変えずにシーズンを超えて展開し続けています。服好きの間で“定番”っていう言葉は昔からあったものだし、雑誌でも良く使われているけど、なんでもかんでも定番とひと括りにする間違った解釈の人が多いなと思っています。そんな意味でも、これこそ本当の定番と呼べるんじゃないかな」。

——定番になり得るものをデザインしていくうえで、意識したことがあれば教えてください。
「快適さについていえば、生地だけに求めても限界があり、当然フォルムが重要になってきます。だけど、動きやすさばかりを追求して大きくなりすぎちゃうとだらしなくなってしまうので、そうならないよう、意識しながら適度にゆとりを持たせるようにしています」。
——昨今のビッグシルエット全盛の流れをそのまま追っている、というわけではないんですね。
「そうですね。

——トレンドの影響を受けすぎていないという点も、流行りを常に追いかけるのに疲れた大人にはありがたいですよね。
「はい、サンズ バイ D.Oはそんな方たちの支えになれるコレクションだと自負しています。また、僕は古着屋上がりだから、例えばスーツでも年代ごとにラペルの変化とか、素材感や仕立てに違いがあるっていうのをずっと見てきました。
ただ僕のブランド、N.ハリウッドではその時代時代のトレンドに左右されない“無味無臭な服”を目指しています。それはフォーマル、ドレスウェアを現代的に創作するN.ハリウッド コンパイルでも一緒なんですが、ディテールの一つひとつを見れば時代的な要素があっても、全体を見たときにはそれを感じないようなものをつくっているつもりです。
つまりエイジレスなデザイン。特に最近のコンパイルはそれに加え、シルエットもゆったりさせているので楽な着心地を堪能することができるはずです。このアプローチの仕方は、サンズ バイ D.Oの“頭をゼロにしたときに着られる服”にも通じているかなと」。

——尾花さんの想いや熱量を知ると、これまで以上に気になってきました。
「ありがとうございます。サンズ バイ D.Oでいえば、アローズの皆さんと一緒に何度もテストを重ねていて、実用性に納得がいかずにお蔵入りになったものも少なくないんですが、だからこそ世に出るものは研ぎ澄まされたものになっていると思います。
考える時間のいらない自分だけのユニフォーム

ファッションデザイナー尾花大輔さんが手掛ける、ユナイテッドアローズ&サンズとのカプセルコレクション。素材の風合いを活かしたセンスの良いプレーンな服を展開する。
[1]身幅ゆったりで、肩の落ちるモックネックカットソーは今季の新型。袖口のパイピングリブがアクセントに。
[2]ボタンレスでフロントポケットもシームに沿わせた、ミニマルなチェスターコート。オーセンティックなシルエットゆえ、汎用性が高い。
[3]ワイドシルエットのクリース入りイージーパンツ。右のポケット内にはキーチェーンなどが装着できるループが付く。
[4]ノッチドラペルのジャケットもやはりボタンレス。
西崎博哉(MOUSTACHE)、河津達成(S-14)、渡辺修身=写真(人物) 鈴木泰之=写真(静物) 菊池陽之介、星 光彦、平野俊彦=スタイリング yoboon(coccina)、MASAYUKI(The VOICE)=ヘアメイク 髙村将司、増山直樹、今野 壘、谷中龍太郎、菊地 亮、増田海治郎=文