昔は履歴書の経歴欄が多い人=堪え性のないデキない人、みたいに思われていた時代が確かにあった。しかし今や転職は、より幸せな人生を送るためのいち手段として正しく認識されつつある。
そう話すのは、転職エージョントと某大手企業で人事を経験したのち、現在はフリーランスとして人事のプロフェッショナルとして活動する沖 玲奈さん。スキルアップ&キャリアアップを目指す人たちが歩む、ポジティブな転職事情。
3つの最新トレンドを聞いた。
話を聞いたのはこの人!
沖玲奈(おき・れいな)●IT業界と多くの転職希望者の橋渡し&支援役として活躍。転職エージェント、コンサルティングファームにて人事を担当したのち、独立。息抜きとして始めたランニングにドハマり中。その様子は本人のインスタグラムにて。①『あえて大企業ではなく、ベンチャーにも視野を』
──昔と比べて、転職する人は増えているんですか?
沖 増えていると思いますね。時代的な背景からか、以前より転職のハードルも下がっている印象があります。転職回数を気にする企業も減ってきていますし、IT業界や外資系企業では、転職を複数回している方でも採用するケースはありますので。
──雇用する側も気にしなくなってきたと?
沖 まだ気にしている企業もあるんですけど、あくまでスキルベースで見るところが増えているのではないでしょうか。
──今の転職市場では、どんな企業が人気なのでしょうか?
沖 ITやデジタルに強みを持つ企業ですかね。例えばグローバルの時価総額ランキングを見ても、平成元年と令和元年では様変わりしています。平成の上位トップ5で言えば、大手通信会社や大手金融機関、大手自動車メーカーで、歴史ある大企業が並んでいました。

──私の時代(1979年生まれ)は商社や広告代理店がもてはやされていましたね。
沖 確かに、男女問わず人気の時代でしたね。もちろん今も人気ではありますが、トレンドという意味ではちょっと変わってきています。
──さほど大企業には目が向かなくなった?
沖 キャリアアップを目指して大企業へ転職する方も、当然いらっしゃいます。ただ、同じ業種間の転職であれば、会社の規模のみを重視するのではなく、むしろ役職やポジションを上げたいという希望が今は増えているようです。
──というと?
沖 今の会社だと、上が詰まっていてなかなか昇進しづらい。であれば、現職で培ったスキルを活かし、小規模のベンチャー企業でも責任ある立場で裁量を持って仕事をしたい……そう考える人は少なくありません。
──なるほど。昔とは全然違います。
沖 わかりやすい例は、大手テレビ局勤めの人が動画メディア系のベンチャー企業に転職するといったケースでしょうか。今の時代、「大企業=安定的」というわけではないですし、大企業ほど年功序列の文化がまだ根強く、自分のアイディアを反映しづらい、という相談も目立ちます。
②『“異業種との掛け合わせ”で新時代を拓く』

──逆に、これまでとは違った分野へ行くのは無謀でしょうか?
沖 やり方次第で、可能性はあります。例えば、革新的なアイディアを持ったベンチャー企業でも、それをいざ実現するには社内のリソースだけでは難しいこともありますから。そこで、他企業、異業種との協業や、専門家の知見、アドバイスが求められることはあります。フィンテック(※)に代表されるように、大手金融機関の方を採用するケースもありますし。
※フィンテック=ファイナンス(Finance=金融)とテクノロジー(Technology=技術)を組み合わせた造語。金融サービスと情報技術を結びつけた革新的な動きを指す。
──業界は違えど、これまでの経験が活かせるのはいいですね。
沖 そうですね。まさにフィンテックのように、古くから存在する産業とIT・インターネットとの掛け合わせは今や主流になっていますからね。どの業種も、どの企業も、よりIT事業に注力していますので。
──IT事業に注力、というと?
沖 既存の業界ビジネスと、AIやビッグデータといった先進的テクノロジーを結びつけて生まれる新製品や新サービス、またはその取り組みなどですね。わかりやすいところではネット決済でしょうか。
──ネット決済もそうなんですね。
沖 システムを作るためには、エンジニアだけでなく、金融の知見がある人も必要ですよね。他にも金融に限らず、医療、製造、飲食など、ほとんどの業界でさまざまなIT関連の新サービスが展開されていますが、その都度、専門家の知識や経験が必要となってくるわけです。
──40代だとITと聞くだけで尻込みしがちですが、これならアリですね。
沖 今後も年収を上げていきたい、新しいスキルを身に付けたいとなると、やはり何かしらITの知見があるほうが時代のニーズには合っている気がします。確かに同じ業種間で転職するのも手ですが、今後、幅広い分野での活躍を見据えれば、時代の波に乗れるといいのかなと思います。
──40代のオッサンでも大丈夫ですか?
沖 経験や志向にもよりますが、もちろん大丈夫だと思いますよ! 年齢そのものは関係ないというか、むしろ若手よりも経験値は高いでしょうし、それこそ40代後半の方が転職したケースもあります。
③『“スキルシェア”で企業をサポート』

──そのほか、異業種へ挑戦するケースはありますか?
沖 これまでの経験を活かして、コンサルタントやアドバイザーとして何かの事業の課題解決に関わってみるのはいいかもしれません。身近な友人の会社を手伝ったり。経験がモノを言うことも多いので。
──どういうことですか?
沖 “コンサルタント“と聞くとハードルが高く感じるかもしれないので、“スキルシェア”と呼びましょうか。例えば、大手コンサルティングファームと呼ばれる企業などでは、大手メーカーや金融機関、公務員など、各業界で経験を積んだ方を採用する事例もあります。
──なぜ?
沖 これまでの実績や知見を評価し、アドバイザーとしての立場で採用する、ということです。
──主にどういったことをするのでしょう?
沖 企業やサービスの課題を見つけて「実際にどう改善していくか」を、自分の経験や今のマーケット、トレンドに基づいてアドバイスをしていくことですね。
──コンサルタントの専門的知識がマストではない、と?
沖 専門知識が不必要だとは言い切れません。しかし、別領域の自分の経験や知識を使ってうまくアドバイスすることで、スムーズにことが運ぶケースは多々あります。相談にくる方のなかでも、新しいことをやりたい、自分の経験を活かしてほかのことをやりたい、という方は多いです。

──なるほど。転職するにも、考え方からアップデートしなきゃいけなさそうですね。
沖 あくまで、自身のスキルや実績も重要ですので、今の仕事環境でしっかりと結果を残すことも大事です。逃げるように転職するだけでは、また同じ結果になりかねませんからね。
◆
転職がネガティブな意味をはらんでいた時代は終わった。自分の生き方、働き方に合った職場を探すのは、とてもポジティブな行動なのだ。
そして、転職の必須アイテムは経験値とスキル。
佐藤 裕=写真 菊地 亮=取材・文