ポップな色使いが楽しいアメリカ・オレゴン生まれの断熱ボトル「ハイドロ フラスク」。日本での販売を手掛けるアルコインターナショナルの降幡昌弘氏はこう語る。
「何より僕たち自身が変わりました。仕事も遊びも全力で楽しむべきだと」。
Brand Profile ハイドロ フラスク
米オレゴン州ベンドにて2009年に設立。シングルウォール(一重構造)ボトルが主流だった当時のアメリカで、「ダブルウォール」という真空二重壁構造の断熱ボトルの販売を開始。人気はすぐに拡大し、現在ではアメリカのスポーツ・アウトドアボトル市場で約35%のシェアを獲得。全世界で300億円の売り上げを誇る企業へと成長した。
“遊び心”の源泉はとことん自由な社風にあり
ずばり今、エシカルな感度の高い人たちがこぞって愛用しているボトルブランドがある。それが「ハイドロ フラスク」だ。ステンレスの真空二重壁構造で保冷・保温性に優れた断熱ボトル。機能性に加え、そのポップな色合いと多彩なラインナップが人気の秘密だ。

「オレゴン州の中心都市であるポートランドから、南東へ約250km。1年を通じてアウトドアのアクティビティを楽しむ人たちが訪れる、ベンドという街で生まれたブランドです。国立森林公園の麓にあって、冬はスキーヤーの聖地としても知られています。
そう語るのは、2017年より日本でのハイドロ フラスクの販売を手掛けるアルコインターナショナルのCEO、降幡昌弘氏だ。降幡氏は毎年、ハイドロ フラスク本社でのミーティングに参加。初めて本社を訪れたときには大きなカルチャーショックを受けたという。
「子供を連れて出社する社員がいるかと思えば、愛犬の散歩に出かける社員もいる。フロアには大きなキッチンカウンターがあり、ビールとシードル(リンゴの発泡酒)のサーバーまで設置されています。ミーティングは朝6時半集合で、ヨガもしくはランニングどちらかのコースを選ぶところから始まります(笑)。夕方5時までみっちり働いたら、あとはもうパーティなんです」。
豊かな自然に囲まれて、自由に、楽しみながら働く。この働き方こそが、ハイドロ フラスクのボトルから漂う“遊び心”の源泉なのかもしれない。
地道なPR戦略が爆発的人気を生む
さて真空二重壁構造の断熱ボトルという製品自体は、日本人にとってはそう珍しいものではない。しかし’09年設立という若い企業ながら、全米のボトル市場での売り上げは現在第1位。米ビジネス誌「インク500」の「成長著しい米国企業ベスト500」や、スポーツ誌「アウトサイドマガジン」の「就職すべき会社リスト」にも選ばれ、アメリカでは誰もが知るブランドとなっている。
「“いつでも冷たいビールを飲みたい”というのが断熱ボトルを開発したきっかけ。ポートランド近辺はクラフトビールが盛んな土地柄です。たくさんのブルワリー(醸造所)があり、ビール好きが多い。この“いつでも冷たいビール”というのが画期的でした。意外なことに当時のアメリカでは、ボトルに対して保冷あるいは保温という価値観がなかったのです」。

大手アウトドアショップの「REI」、食料品チェーンの「ホールフーズ・マーケット」、ハワイ発のコーヒーショップ「アイランドヴィンテージコーヒー」などで販売を開始。少しずつブランドの名前を広めていった。そして地道だがきわめて効果的なPR戦略により、’15年頃から人気に火がつく。その戦略をごく簡潔に言えば「ボトルを配ること」である。
「南カリフォルニアやハワイといった“ビーチマーケット”に着目しました。山ではなく海。
さらにはクイックシルバーやタウン&カントリー、ビラボン、オニールといった企業の、営業担当者にもボトルを配ったという。
「彼らは取引先のショップやビーチスポーツのコミュニティに顔を出しますよね。そこで会った人たちが、ハイドロ フラスクのボトルを目にする。そうしてサーファーやヨガを楽しむ人たちに広がっていったんです」。
小さなボトルがライフスタイルを変える

現在、ハイドロ フラスクにはさまざまなボトルがラインナップ。多用途に使える「ハイドレーション」にはじまり、「コーヒー」「ビア&スピリッツ」「フード」などなど。350ml缶をホールドするクーラーカップや、別売りの飲み口のバリエーションも豊富だ。

「まずは手にして、使ってみて、『いいね』と実感していただく。これを“シーディング(Seeding)”と呼んでいます。種まきという意味です。そのうちに、ボトルがいつもそばにいる愛犬のような存在になっていくんです。そして休日にはボトルを連れて外に飛び出して行ってほしい。それが僕らの本当の狙いなんですよ」。
ハイドロ フラスクが設立当初から掲げているメッセージは“ぬるさから世界を救おう!(Saving the World from Lukewarm!!)”である。いつでも冷たい飲み物を楽しみたいという、誰もが思うシンプルな気持ちだ。そして今年からもうひとつ、よりシンプルなキャッチコピーが加わった。それは“Let’s GO!”。さあ、外に行こう。こんな小さなボトルひとつが、力強く僕らの背中を押してくれるというわけだ。

「サーフィンでもキャンプでもいいし、近くの公園に散歩に行くだけでもいいと思います。僕らが実際に売っているのは小さなボトルです。でもそのボトルは言い換えれば“遊び心の種”で、手にした人のライフスタイルを変えてくれるものなんです」。
鈴木泰之=写真 加瀬友重=編集・文