いやいや、まさか世界の人々の服装が感染症をきっかけに大変革を迎えるなんて想像もしていなかったですねえ。

仕事もプライベートも「新ノーマル」の社会ではそのステージが一挙に外から内へとシフトした。

服装もそれに従い「いかに室内で快適に過ごせるか」が最大の目的になる。節分じゃないけど「服は内!」というわけだ。

林 信朗●1954年生まれ。数々の男性ファッション誌編集長を務め、フリーの服飾評論家に転身。映画登場人物の装いに精通し、世界中のファッションを見てきた確かな知識とともに紹介してくれる。

しかしだなあ、この「服は内!」、けっこう難題なのだ。なぜだかおわかり? 答えはね「他人の目」が家には存在しないからなのですよ。

仕事でも、プライベートでも外にいる限りぼくたちは常に「他人の目」にさらされている。だから服装に気を使うし、お洒落のしがいもある。ファッションには舞台と観客が必要なのだ。だが、ひとり暮らしの家には「他人の目」はない。家庭を持っている人でも家族は他人とは呼べないでしょう? パートナーは他人だが、それも最初のうちだけ。

一年もすればお互いにダレて、しだいに遠慮というものがなくなってくる(笑)。

それが見事に表れるのが服装なんですね。ユルく、だらしなく、代わり映えしなくても平気になってしまうのですよ。着替えといえば「パジャマからパジャマ」というプログラマーがいるというハナシをぼくは娘から聞いたことがある(笑)。これでは、元も子もないじゃないか。ファッションは終わった、である。

そこでぼくが提案したいのがローブとガウンである。生地、形もいろいろだが、ざっくり「室内で着るジャケット」と捉えてくださってもけっこうです。こいつを着ることでホームライフにもぐっとスタイルとメリハリがつく!

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さて、ローブとガウンというと皆さんのアタマの中で浮かぶのは、ガウン=英国貴族が暖炉のそばで葉巻をふかしながら寛いでいるときに羽織っている、前を帯状のベルトで結んだベルベットの上着ですかね。ローブはバスローブでお馴染みの、風呂上がりに着るタオル地の羽織りものというところでしょうか。

両イメージとも間違いではないが、大本をたどれば、ローブもガウンも長くゆったりとした、主に被りものの上着のことで、中世ヨーロッパでは男女の隔てなく着ていたんです。それが、時代とともに儀式などで着るフォーマルで伝統的な「見せるための服」という意味合いが強くなったんですね。

たとえばローマ法王のお召しになっている服はどれもローブと呼んでさしつかえない。英国のオックスフォードやケンブリッジ大学などの黒いビロンとした制服、裁判官の法服もガウンでありローブでもあるんです。忘れちゃいけないのがボクサーのピカピカしたガウンで、あれなんかいかにも儀式的じゃないですか。

知識としてそういう服飾史を押さえておいたうえで言いますよ、ぼくらが着るローブやガウンは儀式的なものではなく、最低限のクラス感を持ちながら、カジュアルな気分で羽織れる「室内ジャケット」なのであると。

その一番手が、テリークロスつまりタオル地のバスローブなのです。

先述したが、皆さんもホテルでお試しになったことが何度もございましょう。こいつに着慣れすると人生が二段階ランクアップしたような気がします。その名のとおり、バスを使ったあとに着るのが第一義である。そのためにタオル地でできている。

「林さん、あのバスローブってやつは裸に直接着るものなのでしょうか? それとも下着の上に?」と以前聞かれたこともある。それはどちらでもよろしい。だが、もともとの目的が体についた水分と、風呂上がりの汗を吸収するだから、裸が本来なんでしょうな。

しかし、家族の手前、前がはだけたりするのがマズイならアンダーパンツだけははくようにしようよ。

「ガウンとローブは室内専用ジャケット」リモート時代の部屋着の新常識
『勝手にしやがれ』フランスを代表するトップスター、ジャン=ポール・ベルモンドが主演を飾ったヌーヴェルヴァーグの名作。当時26歳にしてこの色気、「素肌にバスローブ」がその理由のひとつだろう。スーツを着こなす姿もクールだった。 © Photofest/AFLO

欧米映画にもテリークロスのバスローブはイヤというほど出てきます。しょうがないんですな。日常生活に欠かせぬ一部なんですから。

フランスのヌーヴェルヴァーグ映画の最高傑作、ゴダール監督の『勝手にしやがれ』でも主人公ミシェル(ジャン=ポール・ベルモンド)がアメリカ人のガールフレンド、パトリシアのアパルトマンに転がり込み、一夜を共にする。ミシェルがベッドで着ているボールドストライプのバスローブが海を連想させてくれて実に爽やかだ。

バスローブというと、つい白とかサックスブルーのような「水」と関連する色を選んでしまいそうだが、逆に家だからこそ大胆な色柄が着られるという楽しみもある。ちなみにこのローブはパトリシアのものじゃないのかなあ。

ミシェルのようにパジャマ代わりに着てしまうこともあれば、コーエン兄弟のカルト作『ビッグ・リボウスキ』ではロサンゼルスのヒッピーくずれのデュード(ジェフ・ブリッジス)がVネックの白Tシャツとブラックウォッチのバミューダショーツ上にバスローブを羽織り、一日中そのカッコで生活している。

「ガウンとローブは室内専用ジャケット」リモート時代の部屋着の新常識
『ビッグ・リボウスキ』近年、サカイをはじめとするブランドがフィーチャーし、コラボアイテムとなっていることからも、やはりファッション的にも注目の映画。主人公デュードのだらしなさが逆に格好いいけれど、そのまま真似するのは要注意かも。 © Everett Collection/AFLO

いかにも定職もないスラッカー(怠け者)、デュードらしいのはこの写真のように近所のスーパーまでローブ姿で買い物に行ってしまうところだ。また、スーパーの店員が見向きもしないところが’90 年代のロサンゼルスらしくユルユル。

デュードに倣ってTシャツ+ショートパンツ、サングラスにサンダルというノンシャランなスタイルを基本にするのはどうだろう。

ローブの色を黒やネイビーにすればぐっと都会的にもなる。日本の夏はロスと違い夜も暑いので、タオル素材は薄くて軽いものを選ぶこと。また、シャツで使うコットンブロードや麻を使ったローブも軽快ですな。

ちょっとキワもの感があるけど『ファイトクラブ』でブラッド・ピットが着ていたマグカップの柄が入ったローブもぼくは忘れられない。鍛えぬかれた肉体のテロリストがなんであんなカワイイ系を?とだれでも思うだろう。でも魅力っていうのはそんなギャップから匂い立ってくるもんなんだ。

「ガウンとローブは室内専用ジャケット」リモート時代の部屋着の新常識
『ダークナイト ライジング』作品ごとに体型をかえるカメレオン俳優、クリスチャン・ベールが筋骨隆々になって演じるバットマン。やはり会社のトップを努めていただけあり、バットスーツを脱ぎ、ルームウェアになってもキリッとしているのはガウンのおかげ? © Everett Collection/AFLO

夏を越えたらコットンのバスローブはバスルーム専用にし、ウールやカシミヤ、シルクなどの高級感あるガウン、ドレッシング・ガウンを着たい。ぼくのおすすめはクリスチャン・ベールが『ダークナイト ライジング』で羽織っていた襟とカフが色違いの柄物。

これにスウェットのスポーティな上下を合わせる。エレガンス×スポーティなスタイルがちょっと素敵ではないか。ガウンは英国のターンブル&アッサー、デレクローズ、アメリカのラルフ ローレンあたりを探せばラッキーな出会いがあると思う。

一点だけご注意申し上げる。

家で着るローブ、ガウンだからと同じものを着続けるのは清潔感と匂い問題が起きかねない。洗濯・クリーニングが可能なように最低2着は欲しいところ。

いつものTシャツやスウェットウェアが「おや?」と思うほど表情を変える。リモート時代のお洒落特効薬がローブとガウンです。

ラフに着るだけで絵になるガウン・ローブが欲しい!

「ガウンとローブは室内専用ジャケット」リモート時代の部屋着の新常識

1_渋い色みで仕上げたタータンチェックのガウンは、糸染めのため長く着ても色落ちしにくい。高品質でソフトなポルトガル製フランネル素材を使用。8400円/エル・エル・ビーン 0422-79-9131

2_裏地に吸水速乾に優れる和紙由来の素材を使ったガウン。表地はライトなウールニットで品がいい。2万1000円/アンダーソン アンダーソン 0120-655-817

3_ハイストリートなブランドがバスローブを作ったら……バックのロゴが利いて、ちょっとワルな風呂上がり姿に。6万8000円/パーム・エンジェルス(イーストランド 03-6712-6777)

4_ブランドが得意のレオパード柄を全面に配したコットンパイルのガウンコートは風格たっぷり。堂々とした態度で着たい。5万5000円/ワコマリア(パラダイス トウキョウ 03-5708-5277)

 

鈴木泰之=写真(静物) 星 光彦=スタイリング

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