「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……
vol.8:「911(タイプ993)」
ポルシェ、1993年~1998年
現在8代目になるポルシェ「911」には、それぞれの世代に992、964などの9から始まるナンバーが付けれている。今回はタイプ993、4代目の「911」のお話。
タイプ993の「911」を語るときは“最後の空冷”から始めるのが王道だろうが、それより先に触れたいことがある、それはサイズ感だ。
タイプ993のベーシックなカレラの場合、サイズは全長4245×全幅1730×全高1300mm。ターボ等になるとリアフェンダーが膨らむので少し全幅は広がるが、このカレラのサイズ、実は現在のトヨタ「カローラ ハッチバック」(全長4375×全幅1790×全高1460mm)よりも小さい。
車のサイズは、年々高くなる衝突安全基準に対応するため、どうしても代を重ねる度に大きくなってしまい、「911」もその例外ではない。
しかしタイプ993を見ると、かつて「911」はコンパクトスポーツカーだったことを思い出させてくれる。当時はその小型ボディの一体感から“ポルシェを着る”という言葉もあったほどだ。
それくらいタイトなボディは、オーシャンズ世代の思う「911」というキャラクターにもしっくりくる。

すべてのポルシェにおいて、多くの人々を魅了するのは“普段使いのできるスポーツカー”であることに尽きると思う。
タイトなコックピットや車の隅々の挙動まで感じられそうなコンパクトさも相まって、ステアリングを握りアクセルペダルを踏むと、いつの間にかその気にさせられ、心地良い汗をかける。高速道路を走っても、タイトな山道でも楽しいし、その気になればサーキットでタイムアタックもできる。
しかしイタリア産のスーパーカーと違い、それこそカローラのように段差を気にせずコンビニへサラッと寄れる扱いやすさも併せ持つのだ。

今でも人気絶大な“伝統の空冷エンジン”
1993年、伝統の空冷水平対向6気筒を搭載してタイプ993はデビューする。ちなみにポルシェにとって空冷エンジン、つまり水ではなく走行時の風を利用してエンジンを冷やす方式が、なぜ“伝統”なのかといえば、ポルシェの創始者であるフェルディナント・ポルシェが最初に作った車「フォルクスワーゲン・タイプI(つまりビートル)」にまでさかのぼる。

「ビートル」、そしてポルシェ社として初の量産車「356」に搭載したエンジンはもちろん、空冷水平対向4気筒だ。フェルディナントが亡くなったあとも、ポルシェ一族は「356」に約17年間に渡り4気筒エンジンを搭載し続けるが、17年も経てば周りのライバルたちの性能も上がって当然だし、また4気筒ではやり尽くした感もあり、「356」を空冷水平対向6気筒の「911」へと発展させた。
今も「911」はRR(リアにエンジンを置き、後輪を駆動)方式で、水平対向エンジンを搭載するという、「ビートル」以来の伝統を守り続けている。違うのはタイプ993の後継、タイプ996から「水冷」になったという点くらいだ。
しかし今でも「空冷」にこだわるファンは多く、タイプ993は「最後の空冷」というプレミアム感を備えるがゆえに、中古車価格は高値安定中。生産中止から20年以上経つモデルとしては異例の価格となっている。

もちろん現行の車よりは少し気難しくて、自分の運転技量がハッキリとわかるタイプ993の「911」。未だに高値と聞くと、もう少しお金を貯めて「最新のポルシェが最良のポルシェ」を体感しようかなとも思う。
けれど現行型のタイプ992のサイズ(4519mm×全幅1852mm×全高1300mm)を見ると、やっぱり人生に一度は、あの小さくてタイトなポルシェを“着て”みたくなるのだ。
「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……
“今”を手軽に楽しむのが中古。“昔”を慈しむのが旧車だとしたら、これらの車はちょうどその間。好景気に沸き、グローバル化もまだ先の1980~’90年代、自動車メーカーは今よりもそれぞれの信念に邁進していた。
籠島康弘=文
※中古車平均価格は編集部調べ。