「ラジオ体操2.0」とは……
前回までは、フィジカルトレーナーである新田幸一さんによって、時短&高効率エクササイズにバージョンアップしてもらったラジオ体操第1のエクササイズを紹介してきたが、今回からラジオ体操第2へ。
第1よりもダイナミックな動きが多く、運動不足解消にぴったりだという第2。
高地トレーニングを街中で体験できるスタジオ「ハイアルチ」の開発者であり、プロデューサー。長年のトップアスリートたちへの指導経験を活かし、高地トレーニングの効果を最大限に引き上げるメニューを構築。現在は、浦和レッズの槙野智章選手をはじめとしたトップアスリートのほか、大学駅伝の選手たちのトレーナーも務めている。
体をゆするだけで緊張から解放される
-ラジオ体操第2をバージョンアップする前に、ラジオ体操第1との違いを教えてください。
新田 : 動的ストレッチの要素が強いという点です。第1は静的ストレッチがメインでしたから。
-静的と動的、言葉の違いで何となく想像はつきますけど……。
新田 : 静的ストレッチとは、ゆっくり静かに体を動かして筋肉を伸ばす動きがメインとなります。動的ストレッチは、体を大きく動かしながら筋肉を伸ばしていくものです。このふたつは目的が微妙に違って、静的ストレッチは筋肉を伸ばすことが主目的になる一方、動的ストレッチは伸ばすだけではなく、筋肉の温度を上げたり、心拍数を上げることも目的となります。
-動的ストレッチのほうがお得感がありますね。
新田 : どちらにも良さはあるんですよ。
-例えばどんなことでしょう?
新田 : 静的ストレッチは体への負担が高くないぶん、リラックス効果が高いです。ですから、例えば就寝前なんかに行うと睡眠の質が高まります。また、テレビを見ながらとか、“ながら運動”がしやすいのも利点かな。
一方の動的ストレッチは、運動の前後に行うのがおすすめです。動きが大きいので心拍数や筋温が上がり、運動に適応できる準備態勢を整えられるわけです。また筋肉や関節の緊張を取ることで、体の動きをスムーズにすることもできますよ。
-なるほど。じゃあたまのフットサルで「いいとこ見せよう!」と張り切ったはいいものの、体がガチガチで動きが悪い、なんて問題も解決できる?
新田 : もちろんです。そもそも体の動きと心の緊張って連動しますからね。運動するのが久しぶり、というときは少なからず緊張しているものだから、それと連動するように筋肉や関節も硬くなるんです。そこで、ラジオ体操第2の動きは体だけじゃなく、心の緊張を取る効果も高いと僕は思っています。
-緊張するとなぜ筋肉や関節が硬くなるんですか?
新田 : 原因は自律神経にあります。緊張すると体を活動的にする働きをもつ「交感神経」が活発になるんです。この交感神経って、別名「戦いの神経」なんて言われるように、体を臨戦態勢にする。すると、肩や首、膝などあらゆる関節や筋肉を緊張させて、すぐに体を動かせる状態にするんです。
-でも、勝負どころで筋肉や関節が硬くなるのは逆効果な気がします。スポーツでは特に。
新田 : おっしゃる通り、もちろん限度があって、硬すぎれば体の動きはぎこちなくなってしまいます。でも、筋肉や関節がユルすぎても、脚を踏ん張ったり、強く蹴り出したりする動きに対応できない。筋肉を硬くして関節がグラグラしないようにしないと、急激な動作に対応できないですから。
全身を適度に緩めてストレッチ&筋トレ効果を高める
-適度に筋肉や関節を緩めるって難しいですよね。
新田 : そこでまず、ラジオ体操第2の最初の種目「体をゆする運動」なんです。陸上短距離の選手やマラソン選手、サッカー選手などがスタート前に体をゆすっているでしょ。
-はいはい。
新田:全身をゆすると筋肉と関節が適度に緩んで可動域も大きくなります。そのあとに運動やストレッチ、筋トレを行えば、効かせたい部分をしっかり伸ばして刺激を入れることができるようになります。プロサッカー選手たちも実践して効果を実感している、準備運動としてすごくおすすめの体操なんです。
【全身をゆする運動】

-「全身をゆする運動」、あまり激しくないけどこれも動的ストレッチにあたるわけですか?
新田 : それほど大きく筋肉や関節を動かさないので、普段あまり運動をしないという人でも負担になりません。その点で運動不足の人でも安心して行える体操ということになりますね。
全身の力を抜いて軽く跳んで体をゆするようにしてください。足は床から離れないように意識して、足首、膝のバネをうまく使うのがポイントです。軽い動きなので、心拍数もそれほど上がりません。そのため、運動前後だけではなく、デスクワークの合間や、ちょっと緊張をほぐしたいと感じたときに行うのもおすすめです。
-続けてもうひとつ、「腕と脚を曲げ伸ばす運動」です。これは覚えてるなあ。
新田 : 「腕と脚を曲げ伸ばす運動」は脚の筋肉をしっかり伸ばすことが狙いです。ですから、両腕を上にあげるときには、カカトをできる限り高くあげるようにしましょう。すると太モモ、ふくらはぎの筋肉に、ストレッチだけでなく筋トレ効果も期待できます。
【腕と脚を曲げ伸ばす運動】

-先ほどのお話のとおり、「全身をゆする運動」で筋肉や関節を適度に緩めることで可動域が広がり、その後のストレッチや筋トレ効果が高まる、という仕組みですね?
新田 : そういうことです。
-「腕と脚を曲げ伸ばす運動」は通常のテンポでやるのもけっこう大変だけど、スピードアップして30秒全力でやったら、かなり息があがりそう。
新田 : 「腕と脚を曲げ伸ばす運動」に関しては、リズミカルに関節を動かすことと、動きにメリハリをつけることを意識してください。スピードアップしてもそこは注意してほしいです。膝を曲げるときはしっかかり曲げる、腕を伸ばすときはしっかり伸ばすなど、可動域を目一杯使って一つひとつの動きをできるだけ丁寧に行いましょう。
●トレーニングの流れ
STEP1 ウォーミングアップ
90~100bpmの速さで「全身をゆする運動」+「腕と脚を曲げ伸ばす運動」を規定回数を行う。
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STEP2 スピードアップトレーニング
「全身をゆする運動」と「腕と脚を曲げ伸ばす運動」をそれぞれ30秒間全力で行う。
↓
STEP3 クールダウン
90~100bpmの速さで「全身をゆする運動」+「腕と脚を曲げ伸ばす運動」を規定回数行う。
【スピードアップトレーニングの動画はこちら】
「ラジオ体操2.0」
誰しも子供の頃に、一度はやった記憶があるだろう「ラジオ体操」。
ハイアルチ 吉祥寺スタジオ
住所:東京都武蔵野市吉祥寺東町1-17-18
電話番号:0422-22-7885
営業:10:00~22:00(平日)、10:00~19:00(土・日・祝)
http://high-alti.jp/
空間をまるごと低酸素状態にしたスタジオで行う「ハイアルチテュード(高地)トレーニング」を、気軽かつ、リーズナブルに体験できる日本初のハイアルチテュード専門スタジオ。専門トレーナー指導のもとでのトレーニングなので、安全に効率よく鍛えられる。都内では、吉祥寺のほかに、三軒茶屋、代々木上原にスタジオを構える。

千葉県船橋市出身。1977年生まれのオーシャンズ世代。市立船橋高校サッカー部時代は選手権全国優勝を経験。U-20日本代表選出され、1996年にジュビロ磐田とプロ契約。引退後はジュビロ磐田で2015シーズンまで広報や運営に携わる。2020年より高地トレーニングスタジオ『ハイアルチ』吉祥寺のGMを務める傍ら、並行して、女子サッカークラブのアドバイザーやモデル業も行うなど精力的に活動中。
楠田圭子=取材・文 渡邊明音=写真