10月9日に主演映画『望み』が全国ロードショーとなる俳優の堤真一さんに、人生を楽しむためのヒントをインタビュー。
人気俳優の究極の“FUN-TIME”は、これからの時季がまさに本番。
夜な夜なガレージにこもって、酒を片手に仕事のことを考える
「困ったことに、趣味が本当にないんです」。
撮影中、堤は眉間にシワを寄せて難しい顔をしながらレンズを睨む。フォトグラファーから「もっとリラックスした感じでお願いします」という言葉を受け、我に返り、相好を崩す。
ふっと力みが抜けた瞬間、思い出したように関西弁の交じった独特のトーンで静かに語り出した。
「今はまだ暑いのでできないのですが、家に薪ストーブがあって、秋口になると薪をくべるんです。ひとりでその炎を見ているときが最高に落ち着く。炎の前では何もせずにただただボーッとするだけ。炎の前にいるだけで何もしなくていい。いつの間にか何時間も時が経っていて、あれは本当に不思議です」。
熱を帯びた口調から、薪ストーブの炎にいかに癒やされているかがうかがい知れる。だが薪ストーブが活躍するのは11月から3月くらいまでの寒い時季のみ。では、それ以外の時期の“FUN-TIME”はどうなのか。すると「うーん、何だろう」と唸りながら、再び冒頭のような表情に。

しばらく黙考したのち「酒かな? いや、違うなあ……」とぼそり。堤と酒といえば、現在テレビやネットで流れている自身が出演するビールのCMだ。豪快に、そして心の底から美味しそうに飲む姿が印象的。プライベートでもあんなふうに飲んでいるのかと思いきや……。
「CM撮影のときは美味しいつまみがたくさん準備されていて、環境が整っていますからね。もちろん、あんな感じで飲むこともありますが、普段はだいたいシャッターの閉まったガレージの中で飲んでいます(笑)。
そのときは次の作品のことを考えたりしているので、自分にとってはくつろいでいるという感覚はないですね。日によっては急にセリフのことが気になって台本を開き始めることも。台本を読み出したら止まらなくなって、気付いたら朝方になっていた、なんてこともざらですから。薪ストーブの炎みたいに、リラックスしているからあっという間に過ぎちゃうのとはまた違うんですよ」。
薪ストーブ以外のリラックスタイムでひねり出したのが、家で過ごす時間。今回の外出自粛要請期間中に、その気持ちはさらに高まったという。
「緊急事態宣言が出たあとは、仕事がすべてなくなってずっと家にいたので、今となってはなかなか仕事モードに戻れず。これまでロケで何週間も家に帰らないなど、仕事優先の生活が当たり前だったのに、今回家で長く過ごしたことで、気付いちゃったんです! 家での居心地の良さに(笑)。
もし収入がなくなったら、今よりももっと家賃の安いところに引っ越せばいいし、生きていく道なんていくらでもあるわけで。今もこうやってインタビューをされていますが『なんで仕事してるんやろう?』って、疑問に思ってみたり(笑)」。
スタッフやキャストに導かれた石川一登という難役

主演映画『望み』は家族をテーマにしたサスペンス。絵に描いたような幸福に包まれていた家族だが、長男が行方不明になった日を境に亀裂が生じていく。堤は一家の大黒柱、石川一登を演じている。
「役を自分に引き寄せると、どうしても感情的な部分が態度に出そうで……、芝居をしていく中でこういうことをしないんだって気付いたんです。
ただそうなると、表現という部分が完全に閉ざされてしまうという、すごく難しい役でした。感情はあるけど、それをもろに表現しない人を演じたので、そういう意味ではあまり芝居をした感じがしなかったです。
最初に自分が思っていた役のイメージから変わり、現場にいながら役をつくり込んだ感じです。それは、そういう空気をつくってくれた周囲のキャスト・スタッフの皆さんのおかげだと思っています」。
劇中ではネガティブな憶測と中傷が駆け巡り、日に日に精神的に追い詰められていく。
うーんと苦しそうに考える姿が、劇中で息子を慮る一登と重なる。だが出てきた言葉はことのほか明るいものだった。
「マイナスな気持ちは一瞬一瞬ごまかしていくしかないでしょうね。そのことだけを考えていたら頭がおかしくなってしまうでしょうから、酒でも飲んで現実逃避をしますか(笑)。
あ、でもそんなときこそ家の中ではなく、屋外で焚き火をするのは最高でしょうね。延々ずっと薪をくべながら何をするわけでもなく。本当は屋内のストーブじゃなくて、自然の中でキャンプをしたりしてリラックスできるのがいちばんいいですよね」。
キャンプの準備は万端!あとは自分のスケジュールだけ……

キャンプには以前から興味があったという。まだ未経験だがグッズだけは一式揃っている。「準備は万端なんです」と、苦笑交じりにこぼす。
「形から入るタイプで、ずいぶん前から道具だけはあるんです(笑)。
キャンプとは別に、今後新たにやってみたいことがあるそう。ある意味、大きな“望み”だ。
「山が欲しいですね。焚き火のために、木を自分で切って薪をためておきたくて。薪って買うと意外と高いので、今は毎年友人が所有している山に行って分けてもらっているんです。切ってから2年くらい干さないと薪にはならないので、結構手間がかかり……。
あと薪作りのためだけではなくて、暖かい時季に、みんなでキャンプができたら最高だなと。これは本当に、近々実現させたいと思っています(笑)」。
堤 真一●1964年、兵庫県生まれ。主演映画『望み』が10月9日(金)に全国ロードショー。幸福な日常を送る建築家とその家族・石川家。
田邊 剛=写真 中川原 寛(CaNN)=スタイリング 奥山信次(バレル)=ヘアメイク オオサワ系=文