2011年。あの震災を経験した僕らは人と人との絆を再確認し、真摯なモノ作りへの思いを強めた。

そして、「ノームコア」という概念のもとで、ベーシックな服を志向した。

あれから時は流れること9年。当時は想像だにしなかった「ビッグシルエットブーム」という潮流を経て、モードブランドもストリートな感性に磨きをかけている昨今。突如降りかかったのが、コロナウイルスの災禍だ。日常の当たり前がガラリと変わった。

こういうとき人間は、過去を顧みるものだ。折しもファッション界においても、盛んに「サステイナブル」が叫ばれるなかでの出来事。そこでオーシャンズは今こそ、「長く着られる服選び」が大事なのでは?と考えた。大人ともなれば、時世も鑑み、ただ欲望の赴くままでいいのかという自戒の念もある。

そこで。長いキャリアを通じて、いい服を知り、かつ普段も親交のある3人を急遽召集。「大人の長く着られる服」について一緒に考えてみた。

藤井隆行、種市暁、橋本敦が徹底討論。「長く着られる服」ってな...の画像はこちら >>

[左]ノンネイティブ デザイナー 藤井 隆行 Age 43
20年続くブレない服作りで、業界の内外に多くのファンを持つノンネイティブのデザイナー。同業として共感できるブランドやリスペクトできるブランドをメインにピックアップ。

[中]フリープランナー 種市 暁 Age 47
ご存じ「種さん」。ファッションに関する引き出しは多数。ルーフトップテントを装備したSUVで愛犬オカラとともに海へ山へと出かけるフットワークの軽さも、最近はコロナで停滞気味。

[右]スタイリスト 橋本 敦 Age 43
メンズ誌・広告・タレントなどで、クールなスタイリング手腕を発揮。独立して20年以上というベテランの域に。最近仕事と趣味用にバンを購入してサーフィンとゴルフも楽しむ2児の父。

——これからの時代、「長く着られる服」がクローズアップされていくように思うんです。皆さん、今から振り返って、結果、長く着ている服はどういったものですか。

藤井 最初から「この服、長く着よう」とは思わないですよね。結果、ワードローブに生き残っているという感じで。

種市 そうだね。僕は、使い続けて味が出るものが残っています。ヴァンズやグイディのブーツはそう。キレイに使い続けることにプレッシャーを感じてしまうから。この間、メルカリでボロボロに履き古されたヴァンズを見つけて「格好いい」って興奮してたら、それを見せた友人がドン引き(笑)。

藤井隆行、種市暁、橋本敦が徹底討論。「長く着られる服」ってなんだろう?
「ヴァンズ」のスニーカー。「ボロくなるほどいい。かつては天日で干したり、虫に食わせたりとセルフエイジングを楽しみました」(種市)。西海岸で愛されるスニーカーブランドからクラシックラインをピックアップ。上から、「オールドスクール」「オーセンティック」「エラ」。上から9000円、7000円、6000円/すべてヴァンズ(ヴァンズ ジャパン 03-3476-5624)

橋本 アシスタントの頃から履きつぶしては買い替えているのはブランドストーンのブーツ。履きやすさはもちろん、雨ロケなど実用性の良さから長いこと愛用しています。

藤井隆行、種市暁、橋本敦が徹底討論。「長く着られる服」ってなんだろう?
「ブランドストーン」のブーツ。1870年創業という老舗で、頑丈さとシンプルな見た目から、ファッション界にも愛用者多数。「最初に買ったのはアシスタントのときで、グリーンのスエードでした」(橋本)。本作は創業150周年の記念モデルでタブが特別仕様に。2万6000円/ブランドストーン(シードコーポレーション 03-6709-9662)

藤井 決して「一張羅」ではないんだけどね。

種市 それそれ(笑)。

橋本 時期によってマイブームがありますけど、今残っているのは、「自分に合わせてリサイズしたもの」。デザイナーがいる前で言うのもはばかられますが、どこかしら気になるとほぼお直しに出しています。

種市 スタイリストっぽい!

藤井 自分のワードローブにいかに馴染むかという点も長く着る際には大事だと思うから、それは理解できる。

——直すことでより長く着られるわけですからね。


今後、注目されるブランドについて

橋本 デザイナーとの相性も人それぞれあると思います。僕は身長が高くないので、ノンネイティブやオーラリー、エヌハリウッドなど、日本人デザイナーの作る服がフィットすることが多いです。もちろん自分に似合わなくてもいいなと思う服はあるので、そういう服は職業柄モデルに着せることで昇華しています(笑)。

藤井隆行、種市暁、橋本敦が徹底討論。「長く着られる服」ってなんだろう?
「オーラリー」のTシャツ。「素材感とシルエットが絶妙で、自分好み」(橋本)と語るのは、仕上がりを想定して素材から作るウェアに定評があるデザイナー、岩井良太のブランド。極細番手のギザコットンを限界まで度詰めして編み上げたハイゲージカットソーは、柔らかく膨らみのある中綿入り。2万2000円/オーラリー 03-6427-7141

種市 身長の話は、逆のコンプレックスがあるなぁ。ビームス入社当初、服がすごく似合う先輩がいて、パンツの裾幅などを細かく設定している緻密な着こなしに憧れましたね。背が大きすぎると、どうしても大味になってしまうから。

藤井 種さんみたいに、リック・オウエンスのサルエルパンツを着こなせないですからね、普通。

藤井隆行、種市暁、橋本敦が徹底討論。「長く着られる服」ってなんだろう?
「リック・オウエンス」のパンツ。「流行と別のベクトルで自由にハイレベルなモノ作りをする姿勢に賛同!」(種市)。通常の4倍にもなる量のカシミヤに縮絨をかけて厚みを出したフエルト素材、ボイルドカシミヤを使用。極力縫い目を減らして実現したハイクオリティな着用感に。16万9000円/リック・オウエンス(イーストランド 03-6712-6777)

橋本 うらやましいですよ。身長がない分、緻密にせざるを得ないので。

——デザイナーの癖を消さないように、自分にフィットさせてお直しするのも、すごいこだわりですね。まさに愛着のなせる業。

それだけ惚れ込める服ということですね。

藤井 コロナを経て、世の中のマインドも変わってきそうです。またシンプル志向が帰ってくるのでは。

——今はストリート全盛で、ロゴものや柄ものは多いですが、早くも落ち着きを見せ始めていますね。今後、風向きが変わっていきそう。

橋本 ノンネイティブのようなブレないブランドというのは、ますます存在感が高まりそう。僕がシルエットを直さない数少ないブランドでもあるし(笑)。

藤井隆行、種市暁、橋本敦が徹底討論。「長く着られる服」ってなんだろう?
「ノンネイティブ」のパンツ。服は基本お直し派の橋本さんが「そのままいただく」ほど、シルエットのきれいさに定評のあるノンネイティブのカーゴパンツ。防風性と伸縮性を兼ね備える高密度の織り素材「プライアンテックス」を採用し、さらに耐水性や撥水性も付与している。3万9800円/ノンネイティブ(ベンダー 03-6452-3072)

種市 その辺、藤井くんはバランス感覚がいいと思う。

藤井隆行、種市暁、橋本敦が徹底討論。「長く着られる服」ってなんだろう?
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恩田拓治=写真(取材) 竹内一将(STHU)、鈴木泰之=写真(静物) 増田海治郎、大西陽子、髙村将司、菊地 亮、秦 大輔、増山直樹=文 長谷川茂雄=編集・文

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