「Running Up-Date」とは……
某有名スーツ専門店で商品企画を担当する池さんは、大学デビューや社会人デビューならぬ“30代デビュー”したランナーだ。
これ、ランニングの世界ではよくある話。
池さんも30歳をきっかけに走りはじめ、フルマラソンで順調に記録を伸ばし、今やベストタイムは3時間14分というシリアスランナーだ。
やればやっただけ記録が伸びるフェアなスポーツ
「若い頃はタバコを吸っていたんですけど、30歳のときに子供が生まれることになって、キッパリ禁煙しました。禁煙すると体重が増えてしまいがちだって言いますよね。なので、禁煙と同時に走り始めたんです」。
適度なワークアウトとしてランニングを選択した理由は主に2つ。ひとつは「いつか佐渡国際トライアスロンに出てみたい」という最終目標があるから。そう、池さんは佐渡島の出身なのだ。
もうひとつはサッカー部に所属して、ウインガーとしてプレーしていたこと。タッチライン沿いでのスプリントを繰り返すというポジションの特性上、ボールを使った練習のあとに5kmほどランニングすることがルーティンだったため、走ることへの抵抗がほとんどなかった。
ただし、ランナーとして30代デビューしてからしばらくはそこまでモチベーションが高くはなかったという。
「転機となったのは東京マラソンです。走り始めたからと試しに応募してみたら、なんと当選して走れることになったんです。
高校時代のサッカー部は弱小校で、小中学校では野球をやっていたけれど、そこでも達成感は得られなかった。でも、マラソンは違った。
個人種目だし、走る技術以前に体力や筋力、心肺機能がモノをいうだけに、やったらやっただけ記録が伸びる。そこが球技やチームで勝敗を競うアクティビティとは違うところだ。
「趣味でフットサルを続けていたのですが、走る面白さに目覚めてからはマラソンが中心に。フットサルに行っても、捻挫してマラソンのトレーニングが積めなくなったらマズいから、自然とほどほどにセーブするようになりました(笑)」。
中級者の壁を超えるためのブレイクスルー
しかし、いつまでも右肩上がりで記録が伸びていくとも限らない。
「サブ3.5、つまりフルマラソン3時間30分がなかなか切れませんでした。2、3度トライしたでしょうか。そこで、トレーニングで走る頻度を減らしてもいいので長い距離を走ることにしたんです」。
それまで毎日のように10~20kmを走っていたが、距離の長短にメリハリをつけ、フルマラソン本番前に30km走や35km走を何度か走るスタイルへとアップデートさせた。
「RUN KEEPERというアプリが目標レースやタイムに合わせた練習メニューをサジェスチョンしてくれるので、それを参考にしたところもあります。
練習で長い距離を走る前は、マラソン後半に足をつったりしていましたが、それが無くなりました。多摩川の近くに住んでいるので、河川敷のランニングコースを調布方面に向かったり、はたまた羽田空港に向かったり。空港のカフェで休憩するのがまた気持ちいいんですよね。
二子玉川付近の玉堤のあたりも、野球やサッカーのグラウンドがあるので、子供たちがスポーツに打ち込んでいる姿を横目に走れるのでモチベーションが保てます」。
全国の店舗へと出張する機会も多いので、そういうときは近隣に川がないか探して、土手沿いを走るようにもしている。福島県の阿武隈川あたりは眺めが良く、走りやすかったとのこと。
ランニングのおかげで損得抜きの人脈が広がる
「走るようになって、そでまではデスクワークでの肩コリや腰痛に悩まされていましたが、そういうものとも無縁になりました。それからものごとに取り組む集中力も増したように感じます。
走るときは常に時計の画面を見て、ペースとにらめっこしているのですが、そのペースにいい意味で敏感になるとともに、仕事における細かい作業が苦にならなくなっています」。
ちなみにランニングを通じて人付き合いも広がり、繊維業界の海外出張では取引先のランナーと一緒にイタリアの街を走ることもある。
ランニングにおける直近の目標はフルマラソンで3時間10分を切ること。1kmあたり4分30秒のペースが必要で、ベストタイムより5秒ほど速いレースペースへと底上げする必要がある。
「距離を踏むトレーニングのときはこの目標のレースペースで走ります。練習の段階で35km走れれば大丈夫だろうと。2年前からはジムに通って、筋トレで体幹を鍛えるようにもしています。
あと、いずれは故郷の一大イベントである佐渡国際トライアスロンに出てみたいですね。島民の部で1位の友人がいるのですが、このあいだフルマラソンのタイムで上回ることができたんですよ。フルマラソンでサブスリーを達成したらトライアスロンも考えようかな、と。水泳は経験があるので、あとは自転車だけになりますから」。
いい年こいてスポーツで目標を掲げること、上を目指して創意工夫を重ねる日々は、私生活や仕事にハリをもたらしてくれるエンジンになる。
ランニングは努力すれば記録を伸ばしやすい、ある意味ではフェアなスポーツ。そういうのって、なんか、いいよね。
RUNNER’S FILE 20氏名:池 大輔
年齢:38歳(1981年生まれ)
仕事:スーツ専門店 商品企画
走る頻度:レース前は週5、オフ期間は週3
記録:フルマラソン 3時間14分(2020年、勝田全国マラソン)
「Running Up-Date」
ランニングブームもひと昔まえ。体づくりのためと漫然と続けているランニングをアップデートすべく、ワンランク上のスタイルを持つ “人”と“モノ”をご紹介。
連載「Running Up-Date」一覧へ
礒村真介(100miler)=取材・文 小澤達也=写真