私ごとで恐縮だが、毎年必ず発売日にiPhoneを買い換えている。

例年、9月のどこかの週の火曜日の深夜に発表が行われ、その週の木曜の夜から新宿にあるauの旗艦店にディレクターズチェアを持ち込んで並び、翌朝に整理券をもらい、その当日の夕方に再び店頭に足を運び予約する。

たいてい5番手以内で予約ができるので、発売日当日に行われるセレモニーにほかの“行列仲間”とともに登壇し、喜びを共有するのが年に一度の恒例行事だ。

 


“新しい生活様式”で、今年のiPhone行列は自粛傾向

それがどうだ、今年は。コロナウイルス感染拡大への配慮から、セレモニーはオンラインでやるという。そもそもここ数年はAppleに右に倣えで、各キャリアもオンラインでの予約を奨励している。

iPhoneをいち早く手に入れるためにわざわざ並ばなくてもよくなっていることから、行列は私を含めて一部の奇特なマニアだけが細々と続ける儀式になった。

毎年行列に並ぶiPhoneマニアは「iPhone 12」のど...の画像はこちら >>

しかしこれが新しい日常というものだろう。今年以降、画期的なApple製品を求めて多くの人が列を成す光景は目にすることはおそらくないだろう。

一抹の寂しさはあるが、風雨に耐え忍ばなくとも、ウェブで然るべきタイミングで速やかに予約手続きを踏めば、ほぼ確実に発売日には手元に届く。行列にわざわざ並びたいマニア以外の大半の人たちにとっては歓迎すべき事態だし、私もそう思った。

なぜなら、いとも簡単に予約ができたことに感動を覚えているからだ。これまでの苦労は何だったのか。実はこんなにみんな手軽に買っていたのか……ぜんぜん知らなかった。

毎年苦労して手に入れていたことで喜びもひとしおだが、苦労しなくても新しいiPhoneの素晴らしさは揺るがない。


待ちに待った年に一度の御開帳。今年はブルーの相棒です

毎年行列に並ぶiPhoneマニアは「iPhone 12」のどこに感動した? スペック、デザイン……
手元に届きましたよ「iPhone 12 Pro」(右)。左は先代のiPhone 11 Pro。ケースの厚さが半分になってる!

発売日に無事手元に届いた「iPhone 12 Pro」は256GBのパシフィックブルーだ。箱のサイズはここ数年のものと比べても半分以下と、驚異的に薄くなっている。

これはLightningコネクタ付きの「EarPods」と、USB電源アダプタが同梱されなくなったことによるもの。イヤホンやヘッドフォンは好みで選ぶ時代だし、USB充電器のひとつやふたつ持っているのは当たり前。買い換えのたびにいらないアクセサリが増えていく……と感じていた私のようなユーザーにとっては歓迎すべき変更だ。

パッケージの簡略化による地球環境への貢献と、端末価格への還元が多少なりとも期待できると、頭を切り替えて喜びたい。

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御開帳〜。

そして年に一度の秘仏の御開帳は、最も興奮する瞬間だ。

紙製パッケージは相変わらず丁寧に仕立てられていて、紙箱のフタを持ち上げるとスリットから空気がゆっくりと吸い込まれていき、しっとりとした抵抗感とともに開けきるまでに少し時間がかかる。この瞬間が上品でたまらない。

鎮座している美しいブルーの筐体に息を吞む。少しグレーがかった青色は上品極まりなく、昨年の「iPhone 11 Pro」のミッドナイトグリーンと甲乙付けがたい大人の発色だ。

来年の秋まで寝食をともにする相棒に、まずはごあいさつ。こんにちは。

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電源を入れていないので、「こんにちは」と言っても何の反応もない。


「iPhone 12」シリーズの最大の魅力は、一新したデザイン

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さて、今年のモデルの魅力を紐解いていこう。見比べれば一目瞭然だが、今年はデザインが一新した。

「iPhone SE」シリーズが採用してきたフラットな前面と背面に四隅がエッジィに切り取られたスレート状の端末は持ちやすい。と同時に、美しい。名機として知られる「iPhone 4」から「iPhone 5s」のデザインによく似ている。

「iPhone SE」シリーズが細々と採用してきたデザインだ。

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iPhone史上初めて“小さくなる”という進化。

とくにサイズ感まで上記のモデルに寄せてきたかのような「iPhone 12 mini」の登場には驚かされた。

まるで車のように、モデルチェンジごとにちょっとずつサイズが大きくなってきたiPhoneシリーズだが、肥大化の結果、最近は「デカい」「ポケットに入らない」といったボヤキが聞こえてくるようになった。

それにより過去シリーズが手放せなかった人も多いようだが(特にオーシャンズ世代)、今年はビッグな乗り換えチャンスだ。スマホを胸ポケットに入れている中年男性が今年以降、再び増えるかもしれない。

 


「MagSafe」対応のファッションアイテムに期待!

またユニークなのが、「MagSafe」という機構。背面にマグネットが入っていて、専用の充電アダプターをくっつけることで高速充電ができるのだが、純正カードホルダーも付けられ、先々の展開が楽しみな仕掛けだ。

アパレルブランドも商機を見いだしているに違いない。

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アクセ感覚でカードケースなどをペタペタ。こりゃ楽しそう。

ちなみに「MagSafe」はかつて「MacBook」シリーズに採用されていたものだ。

マグネットで充電プラグを接続でき、引っかかってもケーブルがすぐ外れて安全で使いやすかった。USB-C接続がスタンダードになったことで廃止されて久しいが、今でも懐かしむファンが多い便利な機構だった。

MagSafeといい先祖返りしたようなスレート状のデザインといい、大胆に小型化を果たした「iPhone 12 mini」といい、Appleはこれまで一度捨てた技術やデザインは復刻させることは珍しい硬派な企業なのだが、丸くなったのか、頑なな姿勢も変わりつつあるのかもしれない。

何にせよ、ユーザーメリットに繋がる変化だ。


満を持して5G対応。過渡期のインフラにつき、期待はほどほどに

外観上の大きなトピックはそれくらいにして、中身の大きな変化は、なんといっても5Gに対応したことだ。「iPhone 12」は全モデル対応だから、どれを買っても5Gなので安心してほしい。

電波インフラの整備が進むにつれ、都市部のユーザーから段々感動の声が挙がっていくだろう。米国ではより高速なミリ波に対応しているが、日本モデルは未対応。一部で不満の声も聞かれるが、さほど大きな問題ではないだろう。

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なぜなら大半の人は5G未経験。たとえミリ波に対応していなくても5Gの速度は凄まじいし、十分に満足できるはずだから。

軽自動車からドイツ御三家ブランドに乗り換えたら走りに感動するだろうが、その上をいく日本未発売の上級クラスがあると言われたってピンと来ないようなもんだ。ましてや試乗すらできないとなれば、諦めもつく。

そもそも5Gの対応エリアは順次拡大中で都心でも接続できないケースは少なくない。まだまだ「繋がればラッキー」くらいの、過渡期のインフラといっていいものなのだ。

 


細かいスペックも目白押し。今年のiPhoneも買いだ

ほかにも「iPhone 12 Pro」「iPhone 12 Pro Max」シリーズには空間を3Dスキャンできる「LiDERスキャナ」があったり、カメラスペックが順当に上がったり、「A14 Bionic」という最新のチップセットが乗ったりと、挙げればキリがないが、新技術を取り入れながらもこれまで同様の使い勝手にまとめてくれるのは、Appleの美徳だ。どれを選んでも後悔することはないだろう。

毎年行列に並ぶiPhoneマニアは「iPhone 12」のどこに感動した? スペック、デザイン……

私は毎年買い換えているが、毎年新たな感動を届けてくれることに感謝の念すら感じている。今年の秋も大豊作だ。「買いか?」と聞かれれば、もちろん買いだ。

 

吉州正行●元リクルート「R25」編集部所属。Appleフリークのお坊さんであり、編集者。埼玉県でお寺の副住職を務めながら、さまざまなメディアや広告で制作業務を手掛ける。相続や遺産の問題にも詳しい。https://money-bu-jpx.com/special/preaching/

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