ミニバン天国の日本において、華々しいデビューを飾ったベルランゴ。やっと正式に販売が開始されたが、去年にリリースされた特別仕様車は約5時間半で完売するという事態に。
まだかまだかと心待ちにしていた人も多いであろうこの車の魅力を、識者6人に語ってもらった!
CITROËN BERLINGO シトロエン ベルランゴ
いちばんのポイントは、ハコ形車でここまでセンスがいいものが、これまであまりなかった点だろう。ミニバンのよくあるネガティブなイメージを払拭。
となると、ラゲッジスペースの広さや荷物の積み下ろしのしやすさ、ゆったりできる居住空間などは、ほかの多くの車種より優れるわけで、人気が出ないわけがない。しかも、どこからでもアクセスできる天井の収納ボックスや、ガラスハッチなど痒いところに手が届く感じもいい。
輸入ミニバンの新たな選択肢
いかにも日本的な3列シートミニバンのギラギラ感はちょっと……というファミリー層や、遊び道具をザクザク積んでゴンゴン走るアクティブなユーザーに人気の車といえば、2列シート&スライドドアのハイトワゴン、ルノー カングーです。フランス系では長らくそれ一択だったのが、そこに今年加わったのが、シトロエン ベルランゴとプジョー リフターというわけですね。
リフターと今回紹介するベルランゴは実質的な兄弟車ですが、微細に味付けが異なっていましてリフターはちょっとSUV風味。ということで、よりカングーに近いのがベルランゴということになります。
ボディはカングーよりちょっと大きめ。全幅も全高も1850mmと“ドラえもん体型”で、そのぶん横方向にも広く使えて、ゆったり座ることもできます。
乗り心地の良さはシトロエンが積極的に推すチャームポイントですが、そこはベルランゴでも健在。体をもちっと包み込むシートの掛け心地も相まって、ストレスなく長距離を走り続けることができます。
そう、長距離といえばベルランゴが搭載するのは1,5Lディーゼル+8速ATですから、全域で燃費よろしくお財布に優しい。
渋滞疲労を軽減する賢いクルーズコントロールはじめ、先進運転支援機能も充実しています。日光浴大好きなフランス人の造った車らしく、ベルランゴには凝った天窓も付いていますから、後席の子供にも喜ばれますよ。

渡辺敏史
出版社で自動車/バイク雑誌の編集に携わったあと、独立。自動車誌での執筆量が非常に多いジャーナリストのひとり。車の評価基準は、市井の人の暮らしにとって、いいものかどうか。
ルーフトップテントを付けたい
僕はアメリカに住んでた頃からシボレーのバンに乗ってレースなどのメカニックをしながら車中泊でサーフィンやスノーボードを楽しんでいました。
今でも1979年式シェビーバンに乗って家族で旅やアウトドアを楽しんでいます。また、仕事のパートナーでもある妻も車好きで、2002年式ルノー カングーの初期モデルに乗っています。
仕事はアウトドア好きが高じて10年前に妻とふたりでCielBleu.というブランドを立ち上げギアの製作から始まり、現在はクリエーター、プロデューサーとして活動しながらキャンパーバンに特化した車のカスタムもしています。
そんな僕から見て、ベルランゴは使い勝手のいい遊べる車。まずポイントはハッチバックであること。悪天候でもアウトドアを楽しむには、コレは絶対。雨除けになり荷物も濡れにくいですから。
欲を言えば、もう少しレトロっぽさと武骨な“道具感”が欲しいですね。もし僕がベルランゴをカスタムするとしたら、まずは宿泊用にルーフトップテントを載せて、リアシートは寛げるようにフラットなベンチシートに。車内は荷物置きとリビングスペースとして、寝る場所は屋根の上。よく走って燃費も良さそうだしレジャー使いにもってこいの一台ですね!

茨木一綺
妻・美伽さん(通称アネゴ)とふたりで、アウトドアギアのデザイナーユニット、CielBleu.として活動。バンライフビルダーの第一人者でもある。趣味はキャンプにサーフィン、スノーボード。

ベルランゴで暮らしにアートを
南仏に暮らす知人(ちなみに日本人です)から教わった、「art de vivre(アール・ド・ヴィーヴル)」という仏語の言い回しは勉強になった。英語だと「art of life」で、日本語にすれば「アートのある暮らし」といったあたり。「自分らしく、美しい生活を楽しむ」というニュアンスもあるらしい。
こう書くと難しそうであるけれど、そんなことはない。例えば食事のときにはテレビを消して音楽を流すとか、来客があるときには部屋に花を飾るとか、普段の生活に美的センスを盛り込んで楽しく暮らそうということだ。
で、シトロエン ベルランゴをひと目見て、「アール・ド・ヴィーヴル」という言葉を思い出した。人や荷物をたくさん積める実用車でありながら、フロントマスクをはじめとして細部まで丁寧にデザインされている。インテリアも決して高級ではないけれど、「出かけよう!」という気になるポップな楽しさに溢れている。生活の道具であっても、きちんと装うあたりがフランス的だ。
走らせると、路面からのショックを柔軟に吸収する乗り心地の良さもフランス車っぽかった。ベルランゴの基本骨格は同じグループに属するプジョー 308などと同じ。つまり、中身は最新のセダンに近いのだ。ディーゼルエンジンと8AT(ちなみに日本製です)の組み合わせも洗練されている。
生活車が洒落てて上質。実は、これがいちばん難度の高い車選びかも!?

サトータケシ
車関連を中心に、フリーランスのライター/エディターとして活動中。この秋に感銘を受けたのは、ランドローバー ディフェンダーの完成度の高さと、マセラティ MC20の神々しさだったとか。
本稿もこの車内で書きました
ベルランゴをセカンドカーに使っています。仕事の移動やテレワーク用のオフィスとして、また買い物や娘の送り迎えにとマルチに活用。
運転していても、マイルームとして過ごしても楽しい車。15年以上にわたり何台も乗り継いでいるファーストカーでも、ベルランゴほどテンションが上がったことはありません。
正直、デザイン的にミニバンってあまり好きじゃなかったんです。特に多くのものが“顔が大袈裟”で……(笑)。でも、ベルランゴは違います。シトロエンならではのモダンで洒落たアイコニックなフェイスやサーブルという都会にも自然にもマッチする外装色を展開。
発売したばかりで街ですれ違うこともなく、走行中に同じシトロエン乗りたちから珍しがられ、意識されるのもうれしい瞬間です。僕がアレコレ積んでいることからも実証済みですが、収納スペースが広いのもいい。
オンラインミーティングを車内でやっていると、ミーティング相手から「車の中まで仕事させてすみません」と恐縮されます。違うんです。

滝田勝紀
電子雑誌「デジモノステーション」の編集長。家電スペシャリストとして、楽天の買い物SNS「ROOM」では40万人以上のフォロワーを抱える。コネクトクロス代表。

ミニバン市場、もっと面白くなる!?
フランス車の「フルゴネット(コンパクトなワークバン)」ってガサツでも汗クサくもない。本格スペック&ワークスタイルだけど日本や北米のものとは、デザインや質感が違う。だから支持されてきたジャンルだと思います。
日本の路上でのフルゴネットの始祖は、まだ同潤会アパートがあった頃の、東京・代官山のフラワーショップのルノー4じゃないかと。いつも八幡通りに停まっていて、あの洒落たオーラが個人的には原体験になっている気がします。それを下地にルノー カングーが初代も2代目もヒットして、今回のシトロエン ベルランゴにいたる、という流れです。
フルゴネットのいいところは、乗用車ベースだから乗り心地や走りで我慢がないこと。欧州でベルランゴはずっと商用車としてベストセラーですが、2代目まではATがなく、日本には正式導入されず終い。
リアル商用仕様はリアウインドウがはめ殺しですが、日本で発売されているのは、後席でも開放感を味わえるパノラミックルーフとか使い方は自由自在の天井収納があったりと、遊び心が刺激される仕様に。
日本でも商用バンをカスタムした、“遊びギア化”することは多々ありますし、ベルランゴは車中泊こそしんどいものの、ファミリーで遊ぶのにもってこいの車。そして、商用車離れした軽妙洒脱なセンス。ミニバン天国の日本、まだまだ期待したいですね。

南陽一浩
出版社勤務を経てフリーのライターに。地方やパリなど、フランスに13年間住んだあと、帰国。自動車や旅行、男性ファッションなどフランスの話題を多々取材する。AJAJの新米会員。
止まないうれしい悲鳴
同じシトロエンのミニバン、グランドC4 スペースツアラーの立ち位置が「ピープルムーバー」であるのに対し、ベルランゴは「何かをしに行くための車」というポジショニングです。そういったコンセプトはウケるだろうなとは思ってましたが、想像以上でした。
ベルランゴは2018年2月のジュネーブショーで世界初公開されたのですが、その直後から弊社コールセンターへのお問い合わせ数は過去にない数に達し、その約7割が「ベルランゴはいつ日本に入ってくるのか?」という内容でした。
それはもう過去に例がないほどの状況でしたので、予定を急遽、前倒しして「デビューエディション」という特別仕様車を本国に交渉して造ってもらいました。で、昨年10月と11月にそのオンライン予約受け付けを開始してみると、それぞれわずか5時間半で完売してしまったのです。
ベルランゴがこんなにもウケた理由は、まずひとつは「妙にワクワクする車だから」ということなのでしょう。昔熱中していた何らかの趣味を、「ベルランゴを使って、もう一度やってみようかな?」みたいな気持ちにさせてくれるんですよね。
そしてもうひとつは、アクティブで、なおかつ確かな審美眼もお持ちの人々の受け皿になれたということ。「使える」と同時に「デザインも良好」で、なおかつ最新の安全装備も充実している車って、実はこれまであまり存在していませんでしたからね。

森 亨
男性ライフスタイル誌の編集部で長らく旅行やグルメ、時計、車などの分野を担当したのち、2018年から現グループPSAジャパンに。趣味はマウンテンバイクでレースにも参戦するほど。

谷津正行=文