「看板娘という名の愉悦」とは……

クリスマスが近付き、街の駅前にはイルミネーションが灯り始めた。JR京浜東北線、東急多摩川線、東急池上線が乗り入れる蒲田駅もそのひとつ。

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飲食店が軒を連ねる中央通りを進むこと2分。目指す日本酒バル、「ほいさっさ」に到着した。

蒲田の牡蠣&和牛バーが楽しかったのは、全部日本酒と看板娘のせいだ
インパクト抜群の店構え。

牡蠣、和牛、そして日本酒を売りにしている。年中無休、午後1時オープンという男気溢れる店だ。

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食材は高級なのに値段はリーズナブル。

店内を覗くと、蒲田ではあまり見かけないお洒落な内装。

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看板娘も働いています。

思わず飲みすぎて「全部日本酒のせいだ!」と叫ぶためにも、やはり日本酒を注文したい。

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厳選された日本酒が常時60種類以上。

看板娘にオススメを聞くと、「『雨後の月』はいかがですか? 系列店の店長が酒造の社長と懇意で、うちでも全面的に推しているんです」。

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ここまで並べられると壮観だ。

「雨後の月」の中でも、今の推しは限定醸造で新酒の「十三夜」。十五夜の月より美しいといわれる未完の美がテーマのお酒だという。グラスで660円。よし、いただきましょう。


看板娘、登場

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「お待たせしました〜」。

今回の看板娘は、弱冠26歳で店長を任されている愛里沙さん。

千葉県柏市で生まれ育ち、今年の1月からここで働いている。

さて、フードはもちろん牡蠣と和牛。「和牛の“愛”盛り」(1590円)と「牡蠣のウニいくらのせ」(690円)というラインナップで攻めよう。

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盆と正月が一緒に来た。

日本酒はワイングラスで提供するスタイル。和牛はたたきとユッケを贅沢に盛り付け、「牡蠣のウニいくらのせ」は1人1個までしか注文できないお宝メニューだ。

なお、この店には「ファン倶楽部」制度があり、入会するとさまざまな特典が得られる。会員数は現在、541人。

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入会者は壁に牡蠣の殻を飾るシステム。

愛里沙さんは子供の頃から運動が好きだったという。小学校では体育クラブに入り、おもに長距離走をやっていた。

「祖父が別の小学校の体育の先生だったので、家に帰ってからも近くの公園で猛特訓を受けていました。その甲斐あって、小6の大会の800m走で優勝できたんです。小5までは入賞止まりだったから、めっちゃ嬉しかった」。

口数の少ない祖父だが、このときばかりは大いに喜んでくれた。

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奥から母、祖母、妹、祖父、姉、そして愛里沙さん。

ここに写っていない父は柏市内で「玉川」という蕎麦店を営んでいる。

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こだわりは石臼挽き自家製粉の古式手打ち蕎麦。

父の実家が長野の蕎麦屋で、その支店として柏に出した形だ。

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人気は「田舎十割ざる蕎麦と天ぷらのセット」(2000円)。

中学に入るとバスケ部で汗を流す。同時に、放課後や休みの日は友だちと駅前のゲームセンターでプリクラを撮ったり、サイゼリヤでおしゃべりをするようになる。

「サイゼのお気に入りは安くてボリュームたっぷりの『ミラノ風ドリア』(笑)。あと、『小エビのサラダ』もプリプリのエビと特製ドレッシングとの相性が抜群です」。

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これで税込300円という「ミラノ風ドリア」。

高校では駅伝部に入部、再び長距離ランナーとしてひたすら走る日々が始まった。千葉県は、とにかく成田高等学校が最強で愛里沙さんの学校はずっと2位だったという。

「今でも悔しいのは、3年のときに走り過ぎで疲労骨折したこと。なんとか治療して最後の駅伝に出場したんですが、最終区の私が1位を抜けなくて。かなり距離を詰めていたから、私が万全だったらと思うと……」。

このときも祖父はゴール間近のトラックで、ゴールする愛里沙さんをじっと見守っていた。

「高校卒業後は調理製菓専門学校に入学しました。調理師になりたかったんですよ。美味しい料理を作れればいい奥さんになれるし、ぶっちゃけ作れないよりは作れたほうがいいじゃないですか」。

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りんごのタルトだろうか。

この頃、アルバイトしていたのが新橋の居酒屋。卒業後、懐石料理店で働いていた愛里沙さんのもとに当時の店長から電話が掛かってくる。用件は「居酒屋を始めるから一緒にやらないか」というもの。こうして、「ほいさっさ」系列1号店の立ち上げメンバーとなった。

ちなみに、取材時は料理長の息子と奥さんが遊びに来ていた。料理長は愛里沙さんについて、こう言う。

「いいところなんか、バンバン出てくるよね。男性客を笑顔で魅了するのが得意。

愛里沙ちゃん目当てで来るお爺ちゃんもいるから(笑)」。

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料理長がかぶっている帽子が欲しい。

そんな看板娘は茶目っ気も大いにある。女性2人組が生ビールを注文すると、カウンターで「あっ!」と言ってジョッキを倒す。じつは、食品サンプルでしたというオチだ。

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「初めてのお客さんだけにやるサービス」とのこと。

店の前はひっきりなしに人が通る。顔なじみの客がスタッフと立ち話をするシーンも見かけた。

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蒲田ならではの距離感かもしれない。

さて、そろそろお暇をしようか。トイレは2階にあると言われたが、四方を見渡しても見つからない。

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なんと、隠し扉。

看板娘同様、お茶目な店である。というわけで、お会計。こんなに楽しいのは、全部日本酒のせいだ。

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小道具の拡声器で見送ってくれました。

最後に読者へのメッセージをお願いしますね。

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13時オープンとあって昼飲みも最高だろう。

 

【取材協力】
ほいさっさ
住所:東京都大田区蒲田5-18-14
電話番号:03-6715-9547
https://kamata-hoisassa.owst.jp

「看板娘という名の愉悦」Vol.129
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文

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