「看板娘という名の愉悦」とは……

はい、大晦日です。いろいろあり過ぎた2020年だが、そんな年のラストを飾るのは渋谷の人気カフェ。

渋谷駅西口を出て、大規模再開発の工事現場を横目に陸橋を渡る。

渋谷のカフェで、ダンスに魅せられた看板娘が書き初めで書いた「...の画像はこちら >>

さらに、イルミネーションに彩られたさくら坂を上る。

渋谷のカフェで、ダンスに魅せられた看板娘が書き初めで書いた「漢字」とは
春には両脇の桜が満開となる絶景スポット。

こうして到着したのが「桜丘カフェ」だ。

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駅から徒歩4分なのに周辺は静か。

2009年のオープン以来、都会の喧騒を忘れてくつろげる“癒し系カフェ”として多くの人に愛されている。人気のテラス席は2018年に大幅にリニューアルされた。

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こちらのテラス席も前回同様、タバコが吸える。

入り口にはなぜか巨大な馬の置物。「エントランスからインパクトを与えたい」と考えたオーナーのこだわりだそうだ。

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アルコール消毒と検温体制もバッチリ。

店内はこだわりのアンティーク家具を配し、間接照明を多用した開放的な空間。

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看板娘の姿も見えますよ。

従来は朝5時まで営業していたが、現在は11時オープンの18時半がラストオーダーだ。この間はすべてランチタイムとなり、お得な料金設定となっている。

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「シブヤビール」(890円)というのを目ざとく見つけてしまった。

聞けば、地ビールの元祖・サンクトガーレンと共同開発した商品で、高級マカ入りのエナジービールだとか。元気が出る渋谷の新名物、いただきましょう。


看板娘、登場

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「お待たせしました〜」。

2020年のトリを務める看板娘は渚央さん(25歳)。これで「なお」と読む。

「由来ですか? たしか、お母さんが海が好きで……。詳しいことは忘れましたが、他の『なお』と漢字が被らないようにしたと言っていました」。

「シブヤビール」とのお勧めマリアージュは「渋谷キーマカレー」(1100円)だという。インドから直接仕入れる10種類以上の香辛料を独自にブレンド。仕込む間際にスパイスを挽くのがこだわりで、「お願い!ランキング」では川越シェフが99点を付けた。

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これが最新の渋谷スタイルだ。

さて、渚央さんは横浜市青葉区出身。青葉区といえば? と聞くと、少し考えて「区のマスコットの『なしかちゃん』です!」。

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青葉区に多く咲く区の花「梨の花」から生まれた。

渚央さん、意外にも小学生の頃は男子とばかり遊んでいた。

「授業に出ないで学校を抜け出して、男の子たちと公園に行ったり、自転車で走ったり。青葉区は坂が多いから立ち漕ぎメイン(笑)。

先生からめっちゃ怒られたけど、反抗したかったんでしょうね」。

初バイトは高校時代。「友達があまりやってないから」という理由でドーナツ店を選ぶ。掛け持ちでハンバーガーショップでも働いた。

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当時のお気に入りはサイゼリヤの「タラコソースシシリー風」。

大学では、派遣事務、コールセンター、コンビニ、居酒屋とさまざまなアルバイトを体験する。

「コンビニはファミマ、ローソン、セブン、全部やりました。飽きっぽいんですかね(笑)。居酒屋が大変で、入ったばっかなのに『トレイにジョッキを10個乗せて運べ』っていわれたんです。『無理』と思ってすぐに辞めました」。

なお、小6の終わりから通い始めたダンススクールが、結果的に人生を変える。中学高校とダンスを続け、進学した大学に馴染めなかったので、他大学のダンスサークルに入った。

渋谷のカフェで、ダンスに魅せられた看板娘が書き初めで書いた「漢字」とは
大学3年生のときに出場したダンスコンテストでの1枚。

「大学を卒業したら普通に就職するはずが、サークルの後輩とかに教えるようになると、ダンスのほうが楽しいなと思って。

今はこのお店で働きながら、地元と都内でインストラクターとして教えています」。

飽きっぽいはずの渚央さんだが、この店は1年以上続いている。

「自由なところがよくて。髪色は自由だし、ピアスもOK。自由で楽しい職場です。あと、面白キャラの料理長がメニューの中から作ってくれる賄いがめっちゃ美味しい。私は『ポークジンジャー』ばっかり食べています」。

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フルーツを使った秘伝のタレが決め手。

激賞された料理長にもご登場いただこう。

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「めっちゃ美味しい賄い」を作る料理長の小野田正隆さんと。

「渚央のいいところ? 挙げたらキリがないよね。かわいいし、愛嬌があるし。僕らが接客してもサバサバした対応のお客さんも、この子が行くと急にニコニコします(笑)」。

そうこうするうちにラストオーダーの時刻が過ぎ、お客さんが帰って行く。

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朝5時までこの空間にいられる日を望みます。

渋谷のカフェで、ダンスに魅せられた看板娘が書き初めで書いた「漢字」とは
棚には絵本やフリーペーパーなど。

記事が公開される4時間後には正月。というわけで、渚央さん、書き初めをお願いします。テーマは来年の抱負だ。

「えっ、小学生以来かも。私、字がめっちゃ下手なんですよ」と半泣きで書いてくれたのが下の漢字。

渋谷のカフェで、ダンスに魅せられた看板娘が書き初めで書いた「漢字」とは
来年も「踊」ります!

いいじゃないですか!

「ダンスの魅力ですか? 音楽に合わせて踊るから、振りがうまくハマったときとか楽しい。あと、人に教えるようになってわかったのは、自分で踊るのとはまったく違うということ。なかなか伝わるように説明できなくて、そこもダンスの奥深さかもしれません」。

渋谷のカフェで、ダンスに魅せられた看板娘が書き初めで書いた「漢字」とは
「ここに貼っとこうか」と小野田さん。

渚央さんに人生の何割ぐらいをダンスが占めているかを聞いてみた。答えは「半分ぐらい」。予想を超えてきた。これからも応援しています。

渋谷のカフェで、ダンスに魅せられた看板娘が書き初めで書いた「漢字」とは
“夜カフェ”の元祖と呼ばれた「宇田川カフェ」の系列店でした。

最後の最後に、読者へのメッセージをお願いしますね。

渋谷のカフェで、ダンスに魅せられた看板娘が書き初めで書いた「漢字」とは
踊るような文字は決して“下手”ではない。

 

【取材協力】
桜丘カフェ
住所:東京都渋谷区桜丘町23-3篠田ビル1F‎
電話番号:03-5728-3242
www.udagawacafe.com/sakuragaoka/

「看板娘という名の愉悦」Vol.133
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文

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