夫婦でいえば銀婚式の一歩手前。そんな長い年月を連れ添ったアイテムとの間に込められた想いは、移り気の激しいシーンにおいてことさら眩しく映るのだ。
自分らしくいたい、と今なお古着のワークウェアとともに
スロウガン・小林 学さん(54歳)と
「チャンピオン」のリバースウィーブ
財布事情に優しく、ファッションの教材としても有益だった古着。オリジナルが放つ“本物感”は魅力的で新品よりむしろ輝いて見えた、と小林さん。
「古着をよく知っているということは、服をよく知っているとほぼ同義。スウェットでいえば、その指標はやはりチャンピオンでしたね。なにせ、アメリカ海軍のトレーニングウェアにも採用され、学生たちの普段着としても親しまれてきたわけですから」。

古着を今なお愛し探求し続ける求道者のごとき小林さんが昔から着続けるのが、チャンピオン製スウェットの国内需要が最も湧いた1980年代のもの。
「アメリカンカジュアルの礎、フードも立つほどに地厚で丈夫、ミリタリーの薫り、染みたようなプリントやトリコタグ、わがままボディを受け止めるサイズ感、味わい深い佇まい。もう跳ね満確定の一着(笑)。昔から延々着続けている、僕のいわば原点ですね」。
カシミヤのパーカに比べたら着心地はお世辞にもいいとはいえないが、袖を通すことで初心に帰れると小林さん。「このリバースウィーブの存在は、大人になればなるほど大切だと感じます」。
モードの緊張を自然と解きほぐす有効な手段として

エストネーション・鷲頭直樹さん(47歳)と
「ディッキーズ」の874
「安い、丈夫、気取りがない」と、アメリカが誇るワークウェアの良さを鷲頭さんは独自の三拍子で表現。しかも、パリッとした生地感から「自分にとってのスラックス」と言い切るほど愛着は強い。
そんな両者の関係は20代後半から今も続く。
「古着店の洒落た兄ちゃんがはいていたかと思えば、ジェイソン・ジェシーも、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのジョン・フルシアンテも愛用。アメリカンカルチャーに魅せられてきた僕としては、あらゆるカルチャーと密接に関わってきたアイテムだからこそ、今もなお買い続けてしまうんでしょうね」。

そんなディッキーズ信者には着こなす際のこだわりがある。
「874をカットオフし、はいたときにナチュラルなテーパードラインができるように仕上げます。目安は裾幅1cm(笑)」。実に、お直し数cmがモノを言うスーツなどを取り扱ったこともある鷲頭さんらしい。
「アメリカではカットオフする人が多いのですがお洒落目的ではない。ただ丈を詰める、というだけの自然な行為。アメリカの自由なマインドや空気を存分に表現していますよね」。
“Tイチ”だった昔と違い今はニットで品良くが基本

グローブスペックス・岡田哲哉さん(61歳)と
「ハイウェイマン」のライダーズジャケット
いい年の取り方をしたオートバイクやクルマを操る、ダンディな男たちの背中を追いかけた大人はきっと少なくないと思う。岡田さんもご多分に漏れずで、あらゆる資料に目を通し妄想を膨らませてきた。その想いは30代でより鮮明に。
「今の仕事へ転職したことでヨーロッパへ行く機会が増えたのですが、あちらではヴィンテージのバイクやクルマを各々のスタイルで乗り回す方が多い。それがまた格好良かったんです」。
なかでもカフェレーサースタイルへの憧憬がいまだに脳裏に残り、革ジャンの購入へと走らせた。

「当初はルイスレザーのライダーズがターゲットでしたが、こいつを見つけてしまったんです(笑)」。
ハイウェイマン。1898年創業の名門、リベッツ社が1950年代より展開していたブランドだ。聞けばルイスレザーにも素材を提供していたとかで、古着シーンでも滅多にお目にかかれないシロモノ。それを、20年以上経った今も岡田さんは袖を通す。
「憧れの姿に近づける愉悦に浸れる一着。これを着てオートバイを走らせたら最高でしょうね……まあ、免許は持っていませんけど(笑)」。