「ニューヨーク・トラッド」「ブリティッシュ・アメリカン」などと称され、80年以上にわたり独自のスタイルを表現し続けてきたポール・スチュアート。
そのスタイルをさらにアップデートして深めていくのが、鴨志田康人氏の役割だ。
鴨志田 康人 氏
1957年、東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、ビームスに入社。’89年にビームスを退社後、ユナイテッドアローズの創業に参画する。自身のブランド「カモシタ ユナイテッドアローズ」で「ピッティ・イマジネ・ウオモ賞」を受賞。2019年秋冬コレクションより、ポール・スチュアートの日本におけるディレクターに就任。
Brand Profile
1938年、ラルフ・オストロフにより創業。NYマンハッタンにて紳士服専門店としてスタートする。ブランド名は創業者オストロフの息子の名前に由来。
当初アイビーリーガーのための店だったが、’60年代以降より「ブリティッシュ・アメリカン」と呼ばれる独自のスタイルを確立し、多くのセレブリティを顧客として獲得した。日本初上陸は’81年。
サロンのような感覚でお酒まで楽しめる旗艦店
僕らの感覚よりももう一歩だけ、大人の服。
ポール・スチュアートというブランドが気になる理由はこのあたりにあると思う。だが改めて考えてみると、“大人”っていったい何なんだろう?
「自分なりのスタイルを持つ、ということに尽きると思います。
ディレクターを務める鴨志田康人氏の回答は明快だ。では、ポール・スチュアートに揃う一見普通(もちろんクオリティは最上級だ)の服を使って、どのようにそのスタイルを伝えていくのだろうか。
「ECが主流になりつつある今の時代、服選びはどうしても“単品志向”になりがちです。でもポール・スチュアートの服は、単品では世界観を伝えづらい。そうなるとやはりお店ですよね。スタイルを提案する場所。それがいつの時代も変わることのない、お店の役割ではないでしょうか」。

去る11月7日、新たな旗艦店としてオープンした青山本店。ガラス張りのファサード。
そう、服はもちろんセールスパーソンを含めたあらゆる設えが、ポール・スチュアートのスタイルを物語る装置なのだ。

「このご時世、わざわざお店に足を運ぶのはある意味面倒なこと。ならばこの場所での時間を、より気持ちいいものにしてほしい。
ただ服を見るだけではなく、セールスパーソンとおしゃべりしたり、コーヒーやお酒を楽しんだり。そう、NY生まれのポール・スチュアートとオーセンティックなバーというのは、相性がいいですよね。
サロンのような感覚で、マンハッタン(カクテル)やおいしいスコッチウイスキーをいただく。そんな行為って純粋に、カッコいいじゃないですか」。
揺るぎないスタイルを現代に通用する形で

2019年秋冬コレクションより、日本におけるディレクターを務めている鴨志田氏。毎シーズンの服の企画はもちろん、旗艦店のビジュアルディレクションやコレクションラインの製作など、その仕事は多岐にわたる。
「僕としては“目に見えるものすべての責任者”だと思っています。細かいことを言えばショッパーの監修までやりますよ(笑)」。
鴨志田氏は日本の、そして世界のドレスクロージングを40年にわたり見つめ続けてきた人物だ。就任から2年。ずばり、ポール・スチュアートをどうディレクションしようと考えているのだろうか。
「ビームス、ユナイテッドアローズに長年在籍して、昔と今でずいぶん変わったと感じることがあります。それは市場がインポートに固執しなくなったということ。
つまり“インポート信仰”がある時代は、本国のスタイルや商品構成をそのまま日本に持ってくればよかった。でも今は日本のマーケットに合わせた服を作らなければならないのです」。

鴨志田氏はふと、古い2冊の雑誌を見せてくれた。1975年発行の「メイド・イン・USAカタログ」と、’77年発行の「メンズクラブ増刊・男の服飾読本」。どちらも私物だ。そこには当時のポール・スチュアートが、ニュートラッドの旗手として紹介されていた。
「ポール・スチュアートは、自分が20代の頃から憧れを抱いてきたブランドです。
このスタイルがいちばん輝いていた’70年代、’80年代のポール・スチュアートの魅力を、現代に通用する形でブラッシュアップすること。それが僕の仕事だと思っています」。
古いけど古くない。それがクラシックの真骨頂

さて改めて付記しておくが、ポール・スチュアートの創業は1938年。アメリカのブランドとして客観的に捉えれば間違いなく老舗である。しかしながらいわゆるアメリカントラッドとは一線を画す、独特な色気が漂っている。
「コンサバティブすぎない、洗練された服なんですよね。くしくも歴代の顧客の顔ぶれが、その証しのように思えます。フランク・シナトラやケーリー・グラントといった映画スターや、アート・ブレイキーやマイルス・デイヴィスらジャズマンたち。政治家や企業人よりも文化人が目立ちます。
“自分のスタイルを出したい”人たちが、ポール・スチュアートの服を好んだのではないでしょうか」。
来る2012年春夏のテーマは“オールド・イズ・ニュー”。ブランドを代表するアイテムのひとつ「クリフォードコート」をはじめ、上品なレザーブルゾンやリネンのカーゴパンツなど、シンプルで美しいアイテムが揃っている。

「昔の服は新しい、そう言い切っています(笑)。でも実のところ、いつだって古いもののなかに新しい発見があるんです。
例えば古着店で見つけた服に斬新なテイストを感じたりすることがある。あるいは埃を払うような感覚で、サイズ感や素材を少し変えてみたら、今の気分にぴたりとハマったり。古いけど、古くならないんですよ」。
そして、合わせによってその人なりの味が出せる。それがクラシックな服の魅力なのだ。そんな服が揃う店に通い詰め、自分なりのスタイルを模索していくこと。もしかしたらそれは、とても革新的な行為なのかもしれない。

ポール・スチュアート 青山本店
住所:東京都港区北青山2-14-4 the ARGYLE aoyama 1F
電話番号:03-6384-5763
営業:11:00~20:00(バーは18:00~24:00) 無休
www.paulstuart.jp
鈴木泰之=写真 加瀬友重=編集・文