「看板娘という名の愉悦」とは……

江東区亀戸といえば亀戸天神の「梅まつり」が有名だ。今年はコロナ禍を受けて中止となったが、そんなこととは関係なく境内の梅は見ごろを迎えている。

というわけで、亀戸駅の北口を出る。大通りに入ると人々が道の真ん中を闊歩していた。日曜祝日の午後は歩行者天国になるのだ。

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歩くこと3分で、目指す「イサ タコ(ISA TACO)」に到着した。琉球タコスやタコライスが絶品の創作沖縄居酒屋だ。

亀戸の沖縄“風”居酒屋で、看板娘が「メイクで生計を立てる」という夢を語ってくれた

オーナーは沖縄でマリンスポーツのインストラクターとして働いたのち、博多でタコライスの屋台を引いていた人物。その後は郷里の東京に戻り、2017年にこの店をオープンさせた。

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店内には看板娘の姿。

カウンター席に座ると、目の前には美しい琉球グラス。

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「炎の芸術」とも呼ばれ、沖縄県の伝統工芸に指定されている。

さて、何をいただこうか。

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壁に貼られたオススメのドリンクメニューを見る。

ここで看板娘いわく、「しぃ~くゎ~さぁのサワーやハイボールも人気ですが、沖縄といえば、やっぱりオリオンビールですかね」。お願いします。


看板娘、登場

亀戸の沖縄“風”居酒屋で、看板娘が「メイクで生計を立てる」という夢を語ってくれた
「お待たせしました〜」。

那覇市のお隣、豊見城(トミグスク)市で生まれ育ったギミさん。

昨年6月に上京し、都内の美容系専門学校に通う19歳だ。ギミとは苗字の大宜見(オオギミ)から取られたニックネームとのこと。

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タコスとタコライスはサイズが選べるのがうれしい。

ギミさんと相談しながら、完成したラインナップは「琉球タコス2ピース」(680円)、「ハワイアンガーリックシュリンプ」(1280円)、「海ぶどう」(580円)という最強の布陣。

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遠く南国に想いを馳せる。

タコスをひと口齧って驚いた。生地自体がもっちりパリパリで美味しいのだ。バターが香るシュリンプは本場ハワイの味そのもの。海ぶどうは沖縄から取り寄せている。

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独自のスパイスが効いたミートとサルサソースは中毒性がある。

ありがたく食べ終わってからギミさんに話を聞いた。それによると、お洒落なお母さんの影響で、小学生の頃から見よう見まねでメイクをしていたそうだ。

「母の化粧道具を使って、こっそりやっていたんです。『眉毛を整える』という意味がよくわからないまま、大胆に切ってめちゃめちゃ怒られました(笑)」。

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沖縄の伝統な民族衣装、「琉装」で2つ上のお姉ちゃんと七五三。

「豊見城には那覇空港からいちばん近いリゾートビーチがあって、家から歩いて10分ぐらいなんですよ。

中学生のときは部活帰りに友だちと立ち寄って、ジャージとかで海に飛び込んでいました(笑)」。

水着を着ているのは観光客、普段着で泳いでいるのは地元民。一目瞭然で見分けられるという。

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空港から車で約15分の「美らSUN(ちゅらさん)ビーチ」。

高校生になると、メイク熱はさらに加熱。放課後にクラスメイトと一緒にハロウィンメイクをして遊んだこともある。

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そのときの写真も見せてくれた(左端がギミさん)。

小さい頃から飽き性で、将来就きたい仕事も見つからない。結局、一生やって行けると思ったのはメイクだった。お母さんも背中を押してくれて、美容系専門学校のメイクコースに進学した。

「コロナの影響で休校になっちゃって上京したのは去年の6月。今は登校するのが週3、リモートが週2という感じです。メイクの授業も人の顔にやるのはNGで、変なマスクの人形みたいな子にやっています」。

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「マスクだと同じ顔にしかならなくて……」と悩みを打ち明けるギミさん。

部屋のドレッサーにも私物のメイク道具が山のようにあり、すべてを大切に扱っている。

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最近のお気に入りは友だちからもらったチーク。

ちなみに、今日のメイクの概要も聞いた。

「自分の眉毛に眉毛用のマスカラをちょっと足す。まつげは自前。自分にいちばん合う感じ。アイシャドウは目の下の端っこに塗るのがお気に入り。アイラインはチャコールブラウン、沖縄顔なので強くなり過ぎないように。リップは落ち着いたピンクと唇の内側にコーラルピンクみたいな色の重ね塗り。ほっぺは普通のチークです」。

この日は珍しく「イサ タコ」自慢の沖縄3人娘が揃うタイミングだった。

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左から、中部・読谷村出身のキミカさん、南部・豊見城市出身のギミさん、北部・名護市出身で店長のシマさん。

沖縄本島の主要エリアを制覇するメンバーだ。ここで、ギミさんが「沖縄あるある」を教えてくれた。

「那覇近辺って方言はあまり強くないけど、服のTシャツもトレーナーも全部『履く』って言うんです。

標準語だと思っていたので、こっちでできた友だちに指摘されてびっくりしました(笑)」。

厨房で料理の腕を振るうのは店長のシマさん。ギミさんは「賄いで作っていただく沖縄の『フーチャンプルー定食』が最高なんです」と目を輝かせる。

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いわゆる裏メニューだが、店に材料があれば注文できるかも!?

そして、冒頭でご紹介したオーナーとは日下部 勲さん(35歳)。ギミさんって、どんな方ですか?

「最初に面接したときは18歳でしょう。完全に異人種だと思いましたが、物怖じしないし、いったん喋り始めるとシュールな面白さを持っている子です」。

亀戸の沖縄“風”居酒屋で、看板娘が「メイクで生計を立てる」という夢を語ってくれた
お客さんのファンもじわじわと増えてきたという。

「あ、そうそう。店長のシマちゃんは補聴器を付けているんですが、お客さんからの呼び出しが聞こえないときは、真っ先にフォローしてくれます」。

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呼び出し用のピンポンも導入した。

日下部さんいわく、「メニューにソーメンチャンプルーはないし、泡盛も最低限のラインナップ。だから、沖縄居酒屋ではなく『沖縄“風”居酒屋』と呼んでいるんです」。

なお、店名はいさおさんのタコス屋だから「イサ タコ」なのだ。緊急事態宣言期間限定の「晩酌セット」(1000円)も気になるところだ。

亀戸の沖縄“風”居酒屋で、看板娘が「メイクで生計を立てる」という夢を語ってくれた
宣言が解除されても続けてほしいが「原価割れなんです」と日下部さんは笑う。

というわけで、今回はこだわり抜いた沖縄料理と周囲を笑顔にする看板娘に出会えた。

「卒業後はメイクアップアーティストのアシスタントになるか美容師から始めるか考え中」だというギミさん。最後に、読者へのメッセージをお願いします。

亀戸の沖縄“風”居酒屋で、看板娘が「メイクで生計を立てる」という夢を語ってくれた
「お待たせしました〜」カット同様、ピースでキメてくれた。

 

【取材協力】
ISA TACO
住所:東京都江東区亀戸2-30-9 アーバンヴィラ1F
電話番号:03-5858-6088
https://twitter.com/kameido_isataco

「看板娘という名の愉悦」Vol.140
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文

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