映画評論家としてテレビやラジオで活躍するコトブキツカサさん。
年間で鑑賞する映画は約500作品にものぼるが、負けず劣らずの熱量を注ぐのが海外ドラマだ。
曰く、「映画の仕事で使った頭を癒やす、最高のご褒美」だという。今回はNetflixやAmazon Primeといったサブスクリプションサービスで鑑賞できるドラマ作品を中心に、推しの3本を紹介してもらった。
話を聞いたのはこの人!①『ブラックリスト』
→普通の映画の10倍の謎解きがあります(笑)

あらすじ
FBIの最重要指名手配犯が自首をする。結末のようなイントロで始まる超大型サスペンスドラマ『ブラックリスト』は、全米ネットワークNBCで2013年にスタート。現在は、Netflixで6シーズンまで配信中。主人公のダークヒーロー、“レッド”を演じるのはジェームズ・スペイダー。
──作品を観たきっかけは?
妻からの勧めです。僕ら夫婦には唯一の共通の趣味があって、それが海外ドラマ鑑賞。一緒に観るものは相談しながら決めますが、『ブラックリスト』に関しては妻が先に知っていて「絶対面白いから観て!」と。
主人公を演じるジェームズ・スペイダーが、まったく主役顔じゃない(笑)。それが僕的に引っかかって、いまいち乗り気になれなかった。それでも妻が「絶対面白いから大丈夫!」と力説してきたんですよ。
──で、まんまとハマったんですね(笑)。
いやぁ、観てみたらこれが本当に面白いんです。国際的な指名手配犯が自首をする。そんな結末みたいな展開で始まるんですが、そこにまず掴まれました。
『ブラックリスト』はアメリカでは大人気で、スーパーボウル中継直後の放送枠が与えられたこともあるほど。当時は2600万人が視聴したらしいです。でも日本ではほとんど話題になってないから、忸怩たる思いがあるんですよ。おすすめです!

──主役顔じゃないという点はどうですか?
思えば『007』シリーズでお馴染みのダニエル・クレイグも初めはジェームズ・ボンド顔じゃなかった(笑)。どちらかというとソ連側の幹部顔。でも今は彼じゃなきゃ! って思えるくらいバッチリですよね。そんな感じです。
──作品のおすすめポイントはどこですか?
謎解きの魅せ方がハンパない。映画の肝になる謎が、普通の映画が1つなら『ブラックリスト』は10個くらい(笑)。

②『ブラック・ミラー』
→1話完結だから毎回テーマが違って面白い!

あらすじ
イギリスで2011年から放送されているテレビドラマシリーズ。シーズン3からNetflixオリジナルに。急速に発展するテクノロジーが引き起こす数々の事件と、そこに絡む人間の闇を一話完結で描くサスペンスドラマ。Netflixでは全5シーズンを配信中。
──作品を観たきっかけは?
『ブラック・ミラー』は1話完結の海外ドラマを探していたときとき見つけて、ヒットしました。
──ちなみにヒットしない作品は何話目あたりで見極めますか?
世間で噂になっているものを、あまり下調べせず観ることもありますが、2話まで観て面白くないものはそこで辞めますね。でも、これは1話目から掴まれました。英国王妃を誘拐した犯人が首相にとんでもない要求をするという設定だったんですけどね。
──作品のおすすめポイントはどこですか?
近未来SFを描くドラマや映画はたくさんありますが、『ブラック・ミラー』が巧みなのは、現代とちゃんとリンクさせている点です。つまり、スマホやSNSといったテクノロジーの利便性と表裏一体の社会の歪み。
僕らでもわかるそうした問題を、手の届く未来という距離感で描いています。しかも1話完結だから、毎回テーマも違って面白い。

──印象に残っているエピソードは?
人間にスコアやランクをつける「ランク社会」のエピソードです。シーズン3の1話目かな。日本でいう、“食べログ”みたいに自分の行動にスコアがつきまとう。
例えば、行列で「先にどうぞ」と場所を譲れば、“いいね!”が集まり、自分のスコアが上がる。逆もしかりで。さらに自分の持っているスコア次第でレンタカーで借りられる車種が決まるという、そんな社会です。
少し先の未来で起きそうじゃないですか。問題提起がピンポイントで、60分の作品なのに1本の映画になるくらい掘り下げ方も深いんです。
③『LOST』
→全121話をもう一度観返しました(笑)

あらすじ
2004年から2010年にアメリカで放送されたテレビドラマ。日本ではAXNが独占放送したが、現在はAmazon Primeで全話視聴可能。南太平洋にある無人島に飛行機が墜落し、人種、国籍、職業がばらばらの生存者48人が生き残るために繰り広げるサバイバル・サスペンス。
──作品を観たきっかけは?
これは、僕が寝るのを忘れるほどハマった海外ドラマです。
──121話というとかなりのエピソード数ですが……。
エピソード数が多いと、観るのを躊躇する人がいますけど、海外ドラマの場合は多ければ多いほどいい。だって、映画は限られた時間で終わっちゃいますが、ドラマは「次はどうなるの?」が毎回楽しめる。
次が気になるっていうのは最大のご褒美ですよね。ちなみに僕の妻は最終話を寝かせるんですよ。すぐに観ると、ご褒美が終わっちゃうからって(笑)。
──どんなところがおすすめですか?
1970年代に『ダラス』っていうテレビドラマがアメリカで放送されました。13年間も続いた、全375話にわたる伝説的な作品です。登場人物それぞれのストーリーが同時進行する展開を初めてやったのがこの『ダラス』で、その後が『ツイン・ピークス』、そして僕にとっての究極が『LOST』です。
神や聖書、テクノロジーといった幅広いテーマを扱っているのはもちろん面白いし、生き残った登場人物たちの人生がひとつずつフラッシュバックされ同時進行していく。
──121話の3周目を観る予定はありますか?
必ず観ます。それくらいおすすめしたい! ただシーズン2と3が中だるみするので、観る人はそこだけ我慢してください(笑)。
シーズン3のラストがハンパなく格好良くて、シーズン4から6まではあっという間ですから!
♢
噂になっているものを気軽に観てみる、ハマれない作品は2話で打ち切る、ヒットするものが見つかったら毎日少しずつ楽しむ。
これが、数多あるサブスク作品を気軽に楽しむコトブキ的処方箋。ぜひ参考にされたし。
ぎぎまき=文