長らく続いたデカ厚ブームウォッチの反動から始まり、徐々に高まりつつある“小径ウォッチ”ブーム。
そんな新しいトレンドの有用性を証明する、パテック フィリップ、カルティエ、チューダーの小径モデル3本をお届けしよう。
① どんな手首にもフィットする37.5mm
パテック フィリップ カラトラバ・パイロット・トラベルタイム Ref.7234
200種類以上にも及ぶパテック フィリップの現行コレクションのなかでも異彩を放つ「カラトラバ・パイロット・トラベルタイム」。
2015年、前身であるRef.5524の発表当時、一見すると「これがパテック フィリップの時計なのか?」と疑問が浮かぶ独創的なスタイリングは、世界中の時計関係者の間で多くの議論を巻き起こした。
レトロな顔立ちとは裏腹に、Ref.5524は最新のデュアル・タイムゾーン機構を搭載し、特許取得のシステムによる2個のプッシュボタンの操作によって、現地時刻表示の時針を1時間単位で前進・後退することができる優れた機能を備えている。
続いて、2018年に登場した後継モデルでパテック フィリップは、前述したRef.5524のルックスやスペックはそのままに、ケース径を42mmから37.5mmまでサイズダウンするという離れ業をやってのけた。
ここで行われた小径化とは、「どんな手首にフィットするミディアムサイズの提案」という意図に基づくもので、シェアウォッチのトレンドを先取りしていたことが見て取れる。
② 35mmのカルティエ

カルティエ パシャ ドゥ カルティエ
2020年、待望の復活を遂げたパシャ ドゥ カルティエ。そのルーツは、1943年にモロッコの中央部の都市マラケシュの太守(パシャ)に納めた防水時計にあると言われている。
カルティエはこの時計を再解釈したパシャ ドゥ カルティエを1985年に発表。そして今回新たに生まれ変わったパシャ ドゥ カルティエは、過去の栄光にすがることなく、未来へと前進する姿勢が随所に表れている。
プレシャスなリュウズ、最先端の技術を導入したインターチェンジャブル ブレスレット、優れた耐磁性能、安心感ある100mの防水性などがそれに当たる。
豊富なバリエーションがあるなかで、ここではステンレスケースの35mm径をオススメしたい。
防水時計を出自に持つボリュームのあるケースデザインであるため、実際のサイズ以上に大きく見えるので男性でも違和感なく着用できる。

使いやすさを重視するならブレスレットのタイプを選ぶのが正解だろう。付属するブルーのアリゲーターストラップに付け替えるとドレッシーなスタイルに様変わりする。
優雅なフォルムが生む、数字では測りきれない絶妙なサイズ感の魅力。稀代のジュエラーであり、1世紀以上前から時計製造に多くの関心を寄せてきたカルティエだからこそなせるワザである。
③ 引き算の美学が宿る36mm

チューダー ブラックベイ 36
2018年の日本本格上陸以来、破竹の勢いを見せるチューダー。そのラインナップを見渡すと魅力的な小径モデルをいくつも見つけることができる。
ここで取り上げるブラックベイ 36は、主力コレクションのひとつである「ブラック ベイ」から派生した3針モデルだ。シンプルなデザインの内側には、“ダイバーズウォッチの名手”であるチューダーのヒストリーがふんだんに詰まっている。
「ブラック ベイ」のインスピレーションの源は、かつてチューダーが手掛けた2つの異なる年代のダイバーズウォッチであり、コレクターの間で“スノーフレーク”と呼ばれ親しまれているスクエア型の針がひときわ目を引く。
だが、チューダーが目指すゴールは、いわゆる複刻モデルの類ではない。なぜなら、彼らが提唱する「ネオヴィンテージ」とは、あくまでもモダンな腕時計を目指すものだからだ。
このモデルの特徴は、36mmという小ぶりなケースにソリッドなベゼルを採用した“引き算のデザイン”にある。
それゆえ、3針のドレスウォッチとは毛色の違うスポーツウォッチらしいフォルムを残しながら、オン・オフ問わず着用できるエレガンスを湛えているのだ。
戸叶庸之=文