「Running Up-Date」とは……
「ユナイテッドアローズ」グループのブランド、「コーエン」の企画課長を務める沼田真親さん。
本連載でも何度か登場した、スポーツミックスのセレクトショップ「アンルート」の立ち上げメンバーとして、ファッション業界ランナーの間では少しばかり知られた存在だ。
ところがご本人に話を聞いてみると、「走ることは好きとは言えない」のだと言う。一方でランニングはいまだにずっと続けている。ええと、それってつまり、どういうこと?
走ることは、ぶっちゃけ楽しくない
「ランニングを習慣にするようになってから、かれこれ9年が経ちますが、誤解を恐れずに言えば、ランニング自体を楽しいと思ったことはないんですよ。
ぶっちゃけツラい(笑)。冬は寒いし、夏は暑いし、早く終わらないかなと考えながら走ってます」。
と、ある意味で非常に心強~い、正直すぎるコメント。

とはいえ、いつもいつも、毎回ツラいだけでは続くわけがない。
「たまに、それこそ年に2~3回くらい、走っていて『うわ~』ってハイになる瞬間が訪れます。それは心から気持ちの良い状況のとき。
陽射しや気温、景色の取り合わせなどによるんですけど、ひと言では言い表せない高揚感を味わえるときがあります。そういうのがあるから辞められませんよね。それがいまだに走り続けている理由のひとつです」。

それからもうひとつ、沼田さんの言葉を借りると、ランニングのある生活は広義の“ファッション”であり、だからこそ走ることにコミットしている。
すなわち競技としてのランニングというより、バランスの良い生活をしたいという気持ちが根っこにある、と。
ヘルシーな生活は、お洒落な服と肩を並べる価値がある
「2011年に、当時担当していた『グリーンレーベルリラクシング』で、スポーツイベントに協賛しようという企画が持ち上がりました。
アパレルメーカーも服を作ったり、仕入れたりして販売するだけでなく、“生活を彩る”という意味でのファッション全般に関わるべきだな、という話になったんです」。
その企画は「RUN&BIKE」というイベントとして形になった。このイベントをきっかけに、自身も試しに走ってみた。

「ライフスタイルやカルチャーとしてのランニングが、アメリカの西海岸をはじめ、世界中で同時多発的に盛り上がり始めていた頃です。もともと、バランスのいい生活をしたいというのが頭のどこかにあったんですよね」。
ヘルシーなコト、モノの価値が相対的に高まったと言うべきだろうか。ファッション畑にいる人間として、服だけでなくその周辺にも目を向けるべき、というわけだ。

「もとを正せば、東日本大震災だったり、9.11やリーマンショックといった社会的にインパクトのある出来事を経て、本質的な豊かさに興味を向ける人がどんどん増えてきたと思います。
自分自身、単に着飾ることよりもそういった方向性が肌に合っていました。カルチャー全般に興味があって、服はそのうちのひとつなので。
そこにランニングが加わってきて、すっぽりハマった感じです。
Tシャツと短パン、手持ちのスニーカーで出来るという手軽さもよかった。
「ほかのスポーツと比べて圧倒的にシンプルですよね。とりあえずシューズさえ用意すればいい。十年前はまだまだ子育てに手が掛かったこともあり、短時間で気分転換できるという点も打ってつけでした。
当時の自分が置かれていた状況にも親和性が高かったんです。走りながら自分の体と対話することで、生活の潤いになりますし」。
長く続けるには、走った自分を思いっきり肯定すべし!
ということで、かれこれ10年選手は目前。一時は「アンルート」という、よりスポーツにコミットした業態も手掛けていたほどだ。現在は主にウィークエンドランナーとして、週末に1時間くらい走るのが習慣だ。
「二度ほどフルマラソンの大会にエントリーをして、サブフォーを目指したこともあります。それぞれ自分なりに熱心に走り込みをして臨んだのですが、結果的に目標はクリアできず、しかも大会が終わったあとにバーンアウトしてしまいました。
しばらく走る気が起きなくなってしまって。目標を定めて自分を高めていく作業は、自分の性分に合わなかった。言い方はアレですが、ダラダラ続けているほうがいいと肝に銘じました」。

「朝走ったら、その日が1日すがすがしい。『よし、今日も走ってやったぜ!』という満ち足りた気持ち、達成感を得られます。良いテンションのまま、休日に突入できます。
体の面では基礎代謝も上がる。少々我慢してでも、走ると1日のクオリティが高くなるんですよね(笑)。その変化こそがメリットで、早起きして貯金しているような感覚でしょうか」。
対人スポーツ、チームスポーツでなく、自分ひとりで完結するところもポイントだった。
「あくまで自分の中の充実であり、自己肯定なんですよね。『自分、バランスいい過ごし方してるっス!』っていう。
実際に体重が落ちて健康的ですし、誰かに痩せたねって言ってもらえると単純に嬉しいですよね。ファッション畑の人間として体型維持は気にしたいところで、褒められるとそれをキープしたくなるじゃないですか」。

そんなスタンスだからこそ、気分が乗らないときは無理してまで走らない。雨の日、雪の日も走らない。
「だから走るという動作自体に楽しさは感じないのですが、走ることでの充実感はあります。何気ない日常の暮らしがいきいきとする。今後もマイペースで走り続けていきますよ」。
走ることは面白くないと感じている。でもランニングのメリットは知っているアナタにとって、沼田さんのスタンスはとっても興味深く感じられやしないだろうか。
ユル~く走り続けていたって、10年選手になれるのだ。別に何かが向上しなくたって全然OK。
氏名:沼田真親
年齢:50歳(1970年生まれ)
仕事:アパレルメーカー 企画課長
走る頻度:週末に1時間弱
記録:サブ4.5時間(2017年、湘南国際マラソン)
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「Running Up-Date」
ランニングブームもひと昔まえ。体づくりのためと漫然と続けているランニングをアップデートすべく、ワンランク上のスタイルを持つ “人”と“モノ”をご紹介。街ランからロードレース、トレイルランまで、走ることは日常でできる冒険だ。 上に戻る
礒村真介(100miler)=取材・文 小澤達也=写真