「ぎっくり腰」。何かの拍子で腰に力が入らなくなり、姿勢を変えようとすると激痛が走る……恐ろしい症状である。
日本フィジーク界の第一人者、有馬康泰さんもぎっくり腰に悩まされたひとりだ。
話を聞いたのはこの人!毎日筋トレに励んでいる鉄人がなぜぎっくり腰になったのか。その真相を明らかにするべく、編集部は有馬さんのもとを訪ねた。
散歩中の有馬さんを襲った“魔女の一撃”
ぎっくり腰の強烈な痛みは、欧米で“魔女の一撃”と呼ばれるほど凄まじいという。
一般的にぎっくり腰になりやすいのは筋力の衰えた運動不足の人が多いと思われがち。にもかかわらず、毎日トレーニングを積む有馬さんが発症したのはどうしてなのか?
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──いつぎっくり腰になったんですか?
今年の2月の終わりです。近所で犬の散歩をしていたとき、腰をかがめて頭を撫でようとしたところ、突然ズキッと痛みが走り腰に力が入らなくなったんです。
あれれ、と思って姿勢を変えようとしたら、ビリビリー!と腰から首まで電気が走るような激痛に襲われました。
「これがぎっくり腰ってやつか!」と驚愕しましたね。腰を少し曲げ固定したまま、なんとかして自宅にたどり着きました。
──やっぱり相当痛いんですね!
痛いとか我慢とかいう問題ではなく、ちょっとでも腰を動かすとビリビリー!って激痛が走るんですよ。帰宅してから、さらに痛みがひどくなり、知り合いの治療院で診てもらったら、やはりぎっくり腰とのこと。
その日から辛い日々が始まりました。
とにかく腰を動かさないように生活していました。朝なんか、ベッドから起き上がるのに30分くらいかかるんですよ。

──聞くだけでも恐ろしい。一体、ぎっくり腰って何なのでしょうか?
痛みに四苦八苦しながらも、トレーナーの血が騒ぎ、いろいろ勉強しました。ぎっくり腰は医学的に急性腰痛症といい、急に発症した腰痛全般を指します。
私のように前かがみの姿勢をとったり、急に姿勢を変えたりしたときなど、日常のふとした動作がきっかけで起こります。よく床に落ちたものを拾おうとして……という話を聞きますよね。
痛みの理由は、腰部の疲労が蓄積することによって、腰を支えている靭帯や筋肉に急に負担がかかって断裂を起こし、それが神経を刺激するケースが多いようです。また、腰の中央に連なる椎骨の関節とその周囲の膜、椎間板などが傷ついて神経を圧迫することからも起こりえます。
運動不足だけが原因ではなかった!

──運動不足の人や高齢者がなりやすいというイメージがあります。有馬さんがぎっくり腰になるとは意外でした。
確かに、運動不足や加齢によって腰を支える筋肉が弱くなるのが原因のひとつといわれていますが、実際はぎっくり腰の直接の原因はほとんどの場合不明らしく、一概に「運動をしているとなりにくい」とも言いきれないらしいんです。
私の場合も、毎日トレーニングして、ストレッチも欠かさずやっていましたから。
──つまり、誰にでも起こりうる……。
ただ、心当たりはあるんですね。ぎっくり腰を発症した時期は仕事絡みでやることが多く、思えば3カ月ほど続いた心身のストレスによって自律神経が乱れ、睡眠など生活習慣にも大きく影響を受けていました。
長期間のストレスが発症率を高める⁉
──筋肉ではなく、自律神経ですか?
はい。自律神経とは私たちの意思とは関係なく、呼吸や脈拍、体温、消化、免疫、ホルモン分泌などの生命維持にかかわる働きを担っている重要な神経です。
自律神経には脳や神経を興奮させ、血管を収縮させて血圧を上げる交感神経と、血管を拡張して血圧を下げ、心身をリラックスさせる副交感神経の2種類があります。
心身にストレスがかかった状態が続くと交感神経が優位になり、筋肉は緊張状態が続いてしまってリラックスできません。もちろん、睡眠の質も下がります。こうした心身の緊張状態が長期間続いたことで、ぎっくり腰を発症しやすくなったんではないかと思うんです。
──有馬さんはどのようにして回復したんですか?
しばらくは横になるのも大変で……。ただ、最近の研究によると数日間安静にしたあとは体を動かした方がその後の経過がいい、とも言われています。
確かに腰をかばっているうちに、ほかの部分の筋肉もどんどんこわばってしまいます。私の場合は1週間を過ぎて痛みがましになってきた頃から、痛みを感じない範囲でストレッチを行って、毎日少しずつ可動域を広げていきました。
──ほかにどんな治療をしていましたか?
整形外科にマメに通って、超音波治療を受けました。これは障害のある部分に温かい近赤外線を当てることで、血行を改善したり、緊張した神経を平常な状態に戻したりすることで、症状を緩和する器具です。温めるのは自律神経を整える上でもとても重要で、就寝時には温熱治療器を腰のあたりに敷いて寝ていました。

──僕だったら整形外科へ行くのすら辛い気がします(汗)
自宅でのケアならオムロンの低周波治療器も役立ちました。治療したい部位にパッドを貼り付け、微弱な電流を使った「マイクロカレント」で治療していました。
さすがはプロのアスリートが使っているマシンだけあって、痛みがずいぶん和らぎました。私が使っているのはコードレスタイプの「HV-F601Tシリーズ」です。

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こうした24時間体制の治療に励んだ甲斐あって、有馬さんのぎっくり腰は急速に回復。約3週間の治療と独学のリハビリで通常のパーソナルレッスンに復帰た。その回復の決め手となったのは、有馬さん自身が編み出したトレーニングプログラムだったという。
次回は3週間に及んだリハビリ期間中、筋肉や関節の機能を改善させ、体重の増加も見られなかったという秘伝のメニューを紹介しよう。
【取材協力】
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押条良太(押条事務所)=取材・文