「今日の朝だよ。カッツの吊り込みをやってもらったの。

ここにあるとないとじゃ、気持ちが全然違う。この画が目の端に入ってくるだけで、ずっと気分高くいられるんだよね」。

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フォトグラファーであり、ファッションブランド・マディソンブルー副社長の地主 晋さん。彼の自宅にうかがったのは、アレックス・カッツの画が運び込まれた当日。

ダイニングテーブル脇の白壁に、幅203cm、縦91cmの大きな作品が横たわる前で、顔がほころぶ地主さんの表情が印象的だ。

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現代アーティストWAKUが「海」を表現したネオン作品。「若い作家の熱い創作エネルギーに触れるのも楽しい」と地主さん。

地主さんがご夫婦で大好きだというアレックス・カッツはブルックリン生まれの画家。アメリカン・ポップアートの先駆者で、透き通るような色使いが印象的だ。その作品を日常に置くために、前面アクリルには映り込みと紫外線を防ぐ特別加工を施したものを選んだ。

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アレックス・カッツはアメリカン・ポップアートの先駆者。2022年にはグッゲンハイム美術館にて大規模回顧展が開催予定。

アートを興味はあっても、購入することに一歩を踏み出せない人がいれば、ぜひ、地主さんの暮らしぶりを覗いてほしい。なぜ、アートが必要なのか? という問いに対するひとつの答えがここにある。


初めてアートを購入したのは30代の終わり

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玄関に飾られているのは、花瓶のなかで枯れてゆく花を撮り続けてきたファッションカメラマン・田島一成の作品。

今年63歳になる地主さんが初めてアートを購入したのは30代も終わりに近づいた頃。まさにオーシャンズ世代だった彼は当時、タイポグラフィで知られるカリフォルニアのアーティスト、ジェフ・カンハムの作品にひと目惚れした。

「あのときは“アートを買う!”という気負った感じは全然なくて、『これいいな、欲しいな』っていう単純な衝動だった」。

その作品は今も、リビングのいちばん目立つ場所に飾られている。

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地主さんが初めて購入したアート作品。色鮮やかなタイポグラフィが有名なサンフランシスコ在住のジェフ・カンハムが、32点の画を合体させて1枚の大型作品に仕上げた。

「横浜であったグリーンルームのイベントで、ジェフ本人が自分の画を一点一点、壁にピン留めしていて。本人は1枚ずつ売ろうと思ってたようだけど、全体を見た瞬間に僕の目が釘付けになっちゃって……。本人に『このままほしい』って言ったら『いいよ』って(笑)。

当時は円高だったこともあって、手頃だったのもラッキーだった。家に届いて、自分で壁に一枚一枚張り込んでいったんだけど、完成したときは声を上げて喜んだよ。アートを初めて家に飾ったときのあの感動は、ずっと忘れられない」。

子育てで忙しい頃はアートを購入する余裕はなかったが、ギャラリーを巡り、画集や写真集でアートに触れていたという地主さん。だが、カンハムの作品を購入してからオリジナルを持つ喜びを知り、以来20年、夫婦で好きな画を少しずつ集めてきた。

 


アートが家にひとつあるだけで、世界は変わる

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こちらはベルリン在住の現代美術家、塩田千春の作品。

「今、持っている作品は全部で十数点くらい。僕たち夫婦は自分たちの生活空間に馴染むものを選んできたから、家を住み替えるたびに一緒に移動してきた。スペースが足りなくてストレージに預けることはあっても、手放した作品は一点もないよ」。

地主さんはフォトグラファー、奥様の中山まりこさんはスタイリストであり、マディソンブルーのデザイナー。

ふたりの職業柄、アートが身近にあるのは当然かもしれないが、“アートが好き”というレベルを超えて、どこかアートの持つ力に“摑まれている”感じもする。

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とは言え、誰もが最初はアート作品など持っていない。地主さんも例外ではないし、安い買い物でもない。コツコツ買う必要があるが、まずは一点買うだけでも気持ちに変化はあるのだろうか。

この素朴な疑問に、地主さんは即答する。

「全然違うよ。部屋にひとつあるだけで全然違う。アートにはやっぱりパワーがあるんだよね。自分の家の壁を見て、『ここに何か置きたい』『何かを飾りたい』というパッションがあるなら、何か一点、選んで置いてみるといい。世界がブワッと変わるから」。

作品を何かひとつでも置くと、世界が変わる。置くと置かないとでは全然違う、そう断言する地主さんだが、アート初心者に向けてこうも助言する。

「ユニークピースは高いから、エディションがある作品から始めるのもいいよね」。


“One and only”のパワーは何にも代えがたい

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「玄関のロビーにしか飾れなかった」というほど大型の作品は、スイスの画家、ロバート・ボシシオのキャンバス画。池尻大橋の104 GALERIEで出会い、地主邸にやってきた。

アート作品には大きく分けて“ユニーク”と“エディション”がある。

ユニークは世界にひとつしかないオリジナルの作品を指し、一方のエディションはシリアルナンバーが明記された数量限定の作品で、分母の数だけこの世に存在する。その分、エディションはユニークより手軽に手に入れることができる。

「エディションの中でも、リトグラフやシルクスクリーンは買いやすい。それに、画じゃなくても、写真作品なら手頃な値段で買えるものも多いよね。日頃からギャラリーをチェックするといいよ。『MEET YOUR ART』みたいなサービスもいいだろうね。アートと向き合うと自分の目が肥えてくるし、欲しい作品も増えてくるはずだから」。

「人生が豊かになる」写真家・地主 晋が40歳で気付いたアートを買う喜び
アメリカから帰国後、フォトグラファーとして活動する息子の写真も気に入ったものがあれば購入し、壁に飾っている。

でも、と地主さんは続ける。

「将来的にはユニークを目指してほしいと思う。やっぱり“One and only”の強さは何にも代えがたいから。世界に一点しかないオリジナルのパワーはすごくて、自分もそのエネルギーに負けないように生きようっていう力にもなる。

その画を描いた作家と常に触れ合っている気分にもなれる」。

アートには力がある。もっと言えば、アートは観る者に力をくれる。

「その画が映える大きな壁のある家に住みたいなとか夢も膨らむし、そのためにはもっと仕事を頑張ろうとも思える。自分の生き方にアートが影響してくるんだな。アートは人生を豊かにしてくれるよ」。


アーティストのチャンスが増え、我々との接点にもなる「MEET YOUR ART」

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約20年かけて集めてきた作品に囲まれながら話す地主さんの言葉や佇まいは、強い説得力を持つ。「自分もアートを買いたい」という気にさせられる。

幸いにもこの時代、アート購入の敷居は低くなり、手段も増えている。そのひとつが、先ほど地主さんも言及した「MEET YOUR ART」だ。「アートと出会う」をコンセプトにした、YouTube上に開設されたアート専門チャンネルである。

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こちらは「MEET YOUR ART」の公式ホームページ。

チャンネルの番組内では、俳優・森山未來がMCとなっていろんなアーティストと対談したり、アートに関する情報や知識を広く紹介。

番組で紹介したアーティストの作品はECサイトで購入できる仕組みで、並ぶ作品の多くがユニークピースとなっている。

掲出した途端にソールドアウトになる作家も多く、アートを購入するきっかけや、若いアーティストの活動支援のプラットフォームとして急成長している。

「新人の作家が出やすい環境が増えるのはいいこと。MEET YOUR ARTがキュレーターとして信用できるブランドになれば、あそこから買おうかなってなるし、そうやってアートのシーンが盛り上がっていくといいね。アートを楽しむためにも、自分が信頼できるギャラリーやサービスは見つけておいたほうがいい。そのひとつに今後、なり得るんじゃないかな」。

若いアーティストを応援する地主さんも期待を寄せる「MEET YOUR ART」。人生を変えるファーストアートとの出会いが、そこで待っているかも?

 

[問い合わせ]
MEET YOUR ART
https://shop.mu-mo.net/MEETYOURART

山本 大=写真 ぎぎまき=取材・文

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