ピックアップトラック大国のアメリカでは、ピックアップトラックで海や山に出かけ、同じ車でドレスアップしてレストランにも行く。そして長期の休みになると大きなキャンピングトレーラーを引いて旅に出る。
だからこそ大きくて、ラグジュアリーで、パワフルなモデルが求められるのだ。
各社はフルサイズと、それより小さなミドルサイズのピックアップトラックを製造。それぞれどんなモデルかを見ていこう。
[ミドルサイズ]
■先祖はマツダ生まれ?
フォード レンジャー

レンジャーの歴史は古く、1972年にマツダからOEM供給されたクーリエにまで遡る。当時、アメリカでは大排気量車ばかり製造していたので、ミドルクラスのトラックがなかったのだ。
ところが’70年代に日本車メーカーがアメリカに進出したことでミドルモデルクラスのピックアップトラックが人気となったため、フォードは慌ててマツダ製トラックを自社ブランドで販売したというわけだ。

1980年代になるとフォードは自前でミドルサイズのピックアップトラックを製造。それがレンジャーこのだ。
おもしろいのは’90年代に入ると、’70年代とは逆に、レンジャーがマツダにOEM供給され、アメリカ市場でマツダプロシードとして販売されていた。

最新のレンジャーはミドルサイズならではの機動性を活かしたスポーティなピックアップトラックになっている。
エンジンは2.3Lターボで、4WD以外に2WDも用意。牽引能力は最大7500ポンド(約3.4t)に達する。5人乗りのスーパークルー(ダブルキャブ)はバング&オルフセンのサウンドシステムを選べるなど、ラグジュアリー性も十分な一台だ
■オフロードが良く似合う
シボレー コロラド

フォード同様、シボレーも1980年代からミドルサイズのピックアップトラック「S-10」を製造。コロラドはその流れを汲むモデルで、2004年から製造されている。
2代目となる最新モデルは大きなグリルと釣り上がったフロントライトでライバルよりもスポーティなイメージを強調している。

トップグレードのZR2はオフロード性能を高めたスペシャルモデル。
標準モデルより2インチリフトアップされ、ボディも3.5インチワイド化されている。キャンプやサーフィンに行くにはピッタリのモデルだ。

■ヨーロピアン的気品
フォルクスワーゲン アマロック

ピックアップトラックはアメリカだけでなく、アジアやヨーロッパでも需要がある。フォルクスワーゲンはそこに目をつけ、新型車を投入した。
それが2010年にデビューしたミドルサイズのピックアップトラックのアマロックだ。

2017年のマイナーチェンジでは新たに3L V6 ディーゼルエンジン(TDI)を搭載。このエンジンは、最大トルクが400N・m、450N・m、500N・mという3つの仕様が用意され、牽引能力は最大3.5t。トランスミッションには8速DSGが選ばれた。
水平基調のグリルを中心に構成されるフロントフェイスは、これぞフォルクスワーゲンというデザイン。

アメリカンピックアップトラックのギラついた感じとは一味違うものに乗りたい人にとって、ドイツのシンプルかつ質感の高いピックアップトラックは新たな選択肢になるはずだ。
[フルサイズ]
■不動の王者
フォード F-150

アメリカでの年間販売台数で、不動の1位であり続けるフルサイズがF-150だ。2020年は78万7422台と、2位のシルバラードより20万台以上も多く売れている。
最新モデルは通算14代目で、2020年にフルモデルチェンジされたばかりの最新型。
厚みのあるフロントフェイスと大型グリルはFシリーズの伝統だ。そこにL字型のLEDデイライトが組み合わされ、先進的なイメージが高められた。

パワートレインは5L V8、3.5L V6ターボ、3.3L V6などに加え、3.5L V6にモーターを組み合わせたフルハイブリッドモデルをラインナップ。ピックアップトラックでハイブリッドが設定されているのはF-150だけだ。
ハイブリッドモデルはF-150の中で最もパワフルで、牽引能力は1万2700ポンド(約5.7t)にもなる。
車体についた高解像度のカメラ映像をもとに、どの方向にステアリングを切ればトレーラーを真っ直ぐバックさせられるかをガイドするトレーラーリバースガイダンスも装備されている。

伝統と革新が融合したF-150は、文字通りアメリカを象徴する車と言えるだろう。
■シボレーで最もタフなやつ!?
シボレー シルバラード

1960年からフルサイズピックアップトラックを製造していたシボレー。1999年からラインナップするのが、シルバラードだ。
現行型は2019年にデビューした4代目。
1973年にデビューした先祖となるC/Kシリーズは縦型4灯のヘッドライトを採用。以来、このデザインがシボレーフルサイズピックアップのアイデンティティになっている。
最新モデルもグリル中央を横切る大きなラインを境にした4つのライトで伝統を受け継いだ。

荷台のゲートはリモコン操作が可能なパワーゲートや、ライバルのF-150同様、カメラを使ってトレーラーを操作するガイド機能も用意されている。
2021年4月にはシルバラードの電気自動車が製造されることが発表された。

ちなみにシルバラードは2020年にアメリカで58万6675台販売されてランキングはフォードFシリーズに続く第2位。
ただ、兄弟車のGMCシエラが25万3016台売れているので、両車の合計販売台数はFシリーズよりも多くなる。
■守備範囲の広い
ラム ラム1500

かつてダッジラムの名称で販売されていたフルサイズピックアップトラック。2009年からはダッジブランドから独立し、ラムというブランドになった。
日本では1990年代にバンとともにダッジラム(ラムトラック)やSUV版のデュランゴがブームになったこともある。
最新モデルとなる5世代目ラムは2019年にデビュー。
一方でヘッドライトがLEDになり、精悍なイメージも同居。ライバル同様、カメラを使ってトレーラーを操作するガイド機能も用意された。

パワートレインには伝統のHEMIと呼ばれる5.7L V8のほか、3Lディーゼル、さらにマイルドハイブリッドシステムを組みあわせた5.7L eTorque HEMI V8もラインナップされている。

グレードバリエーションも、スポーティなTRX、アウトドア派のレベル、ラグジュアリーなララミーなど幅広い。
タフギアでありながらラグジュアリーカーとしての役割も果たす、アメリカでのピックアップトラックのあるべき姿を体現したようなモデルなのだ。
高橋 満=文