小学生のときに出合ったバスフィッシング。以来、40年以上にわたりブラックバスと対峙している。
ワールドレコードを釣り上げることを夢見る反町が抱く、こだわりの道具愛とは。
夜明け前から始まった濃密なバスフィッシング取材
午前3時。闇に覆われた湖畔の船着き場は、生ぬるい夜気に包まれていた。湖面は静かにさざなみを立てており、周辺の建物や街灯の明かりと相まってガラスの破片をちりばめたようにちかちかと光っている。
そこへ静寂を切り裂くように、唸り声をあげながら一艇の真っ赤なボートが近づいてきた。「おはよう!」と声をかけつつ、右手を額の近くにあげて敬礼のようなポーズをとりながら反町隆史が颯爽と現れた。
登場するやいなや自ら先頭に立ってこの日の撮影の段取りを手早く組むと、誰よりも早く舵を切り、爆音のようなエンジン音をあげながら、漆黒の湖へと飛び出した。
琵琶湖は毎日表情が変わるゆえに魚の動きも読みにくい

その日は真夏のような陽射しが降り注いでいた。船上ではサングラスをかけていないと湖面が直視できないほど、反射する陽光の眩しさに拍車がかかっている。ボートを停泊させると、反町はルアーをこまめにつけ替えながら、数時間にわたってまだ見ぬ魚体と対峙していた。
「今回は道具の特集だよね?」。反町は手にしていたロッドを置き、サンダルを脱ぐとデッキに腰かけ、脚の膝下部分をゆっくりと湖面に浸しながら、そう語りかけた。そして「あー、気持ちいい」と、ため息交じりに言うと、穏やかな湖を見つめながら、ひとり言のように語る。
「皮肉なことに人間にとって釣り日和のときって釣れない。琵琶湖って今はこんなに優しいのに、東京23区がすっぽりおさまるほど大きいから、天候が荒れると海のようにウネリが激しくなる。それほど繊細な場所だから、琵琶湖に来たときは、たとえ釣りをしないときでも常に湖を観察してるんだよね」。
おもむろに「これ掛けてみてよ」と、タレックスのサングラスを手渡してくれた。掛けてみると灼熱の陽射しも何のその、そこにはあまりにも鮮明な景色が広がっており、思わずひっくり返りそうになった。
「ね?よく見えるでしょ(笑)?」。反町は、悪戯っぽく白い歯を見せて言葉を続ける。
世界記録を狙うには信頼できる道具が不可欠

「釣りのときにこれをかけていると、湖の流れや雲の動きがよく見えるから、急な悪天候でもすぐに察知できるわけ。今までいろんなサングラスを使ってきたけど、これが一番。釣りはひとりでするのがほとんどだから、愛用する道具は信頼できるものじゃないと。
それはボートもロッドも同じで、いかに信頼しているものを使うかということが僕のこだわりであり、大事にしていることかな。世界記録を釣り上げるなら信頼のおけるパートナーじゃないとね」。
さらに「このボートだってそう」と、デッキの縁部分をさすりながら。
「最近のボートは機械で作っているけどこれは手作り。およそ25年前に作られたもので最新式ではないけど、このボートが本当に好きだし信頼しているからこそ乗っている」。
反町の“ギャンブラー愛”は、幼少期の運命的な体験が伴う。当時の状況を、少年のように目を輝かせながら語る。
「当時、友人と釣りをしていたら、夕暮れの薄暗いときに真っ赤なバスボートが急に目の前に現れたの。それがラメでピカピカ光っていて、かっこ良すぎて目を奪われちゃってね。でも少し釣ったと思ったらすぐにいなくなって、それは、ほんとUFOを見ているような衝撃的な出来事だった。
その後、とにかくその船が欲しくて調べたら、ギャンブラーというアメリカ製のボートということがわかって、探し続けてようやく見つけてね。あのときの喜びは今でも忘れないな」。

反町が思う良い道具のもうひとつの条件は時代を感じさせないもの。手首の時計に触れながら。
「先ほどの“信頼”と同じく、道具選びの基準ではポイントになっているかな。そういった意味ではこのパネライの時計もそう。信用できる機能性はもちろんだけど、これには時代に左右されない“不変の美しさ”があるでしょ?
でも世の中に出回っている多くのものって、ほとんどが時代の流れに合わせる。自分が好きな道具は、時代に合わせるわけでもなければ、とらわれるわけでもない。確固たるデザイン性があって、それに時代が合わせてくれるものかな」。
TAKAY=写真 池上 豪(NICOLASHKA)=ヘアメイク オオサワ系=取材・文