プロスノーボーダーであり、スノーボードメーカー「ゲンテンスティック」のシェイパーでもある玉井太朗。
作り手のマインドを持った滑り手は、どんな視点で道具を捉えているのか。
滑ることも作ることも「感性を形にする」点で同じ
東京から北海道のニセコに移住して30年になる。
あの日、完璧な地形と斜度を備えたコースにはフレークの大きな雪が降り積もっていた。けれどそこには誰のトラック(滑走後の溝)もなく、一日中滑っても、そのパウダーを滑り切ることはできなかった。
玉井太朗はパラダイスを見つけたという手応えとともに、ここに移り住んだのである。

単に雪を滑ればいい、ということではない。目を凝らせば斜面の中に、滑るべきラインは無数に見えてくる。
その中からベストを嗅ぎとり、コンディションを狙いすましてイメージ通りのラインを描く。これこそ、玉井の求めるスノーボーディングだ。

20代前半から始まったプロスノーボーダーとしての活動において、アラスカ、北米、南米、中央アジアなどさまざまな山にトラックを刻んできた。
どんな場所でも、斜面に対する向き合い方は同じ。自分が納得できるベストなラインを描きたい、という思いだ。

かつて玉井は、スノーボードはダンスに似ていると言った。それは自分の感性を身体で表現する、という意味においてだ。そして玉井にとってスノーボードをシェイプするという行為も、感性を形にするという意味では滑ることと同じである。
なにしろ性分なのだから仕方がない。玉井は初めてスノーボードを履いたその日から、これを作ることにも興味を持ってしまった。

「生まれついての性格で、舞台を見ていても照明や小道具といった裏側が気になるタイプ。滑っていても、これはいったいどうなっているんだ、こうすればもっと良くなるんじゃないか、っていつも思っていた」。

そうした思いが募り、1998年に自身のスノーボードブランド「ゲンテンスティック」を創立。純粋な想像力の表現として、スノーボードの製造を始めることになったのだ。
玉井太朗●1962年生まれ、東京都出身。北海道ニセコ在住。幼少の頃よりスキーに親しみ、サーフィンを経験。
二木亜矢子=写真 林 拓郎=文 加瀬友重=編集