看板娘という名の愉悦 Vol.52
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。
飲食店にとって店の名前は非常に重要だ。例えば、「傷ついたダンサーが集まるBAR」という看板を見かけたら、そう、入らざるを得ないだろう。

傷ついたダンサーが夜な夜な集まって、踊ったりお酒を飲んだりしているという色っぽい光景が脳裏に浮かぶ。入り口のドアを開けると、看板娘がカウンターの中で働いていた。

席に着いてドリンクメニューをチェックする。

ふと閃いた。せっかくなので「オーシャンズ」というカクテルを作ってもらおう。

おお、グラスの中に深いブルーのOCEAN(大海原)が閉じ込められている。

小腹が空いていたので、限定メニューの「牡蠣と大葉の炊き込みご飯」も注文。

さて、今回の看板娘は涼葉さん(24歳)。「すずは」と読む。
「ここはスタッフ全員がダンサーなんです。今日はショータイムもありますよ」。
演目は「宮益大夫 –花魁坂-」。ほどなくして、ママが舞台挨拶に立つ。これを皮切りにショーが始まった。
ママのエマさん。ショーは想像を超える本格的なものだった。
アップテンポの曲に合わせて、ママを含めた6人のダンサーが舞い踊る。ショータイムの30分はあっという間に過ぎた。拍手喝采、である。
ショーが終わるとママが各ダンサーを紹介する。涼葉さんは「当店の看板娘でございます」と紹介されていた。
照れる花魁。わざわざ席まで挨拶に来てくれる花魁。涼葉さんは高校の部活でダンスを始め、高校卒業後はニューヨークのスタジオにダンス留学もした。
「朝から夜まで踊りっぱなしの生活でした。ママともそこのスタジオで知り合ったんです。
ところで、「傷ついたダンサーが集まる」ということは涼葉さんも何かしら傷ついているのだろうか。
「傷ついたこと……。あっ、私、嵐の大ファンでニノ推しなんですけど、活動休止のニュースはびっくりしましたね。お父さんからのLINEで知って、携帯の画面を見つめたまましばらく体が固まったほどです」。
そんな涼葉さんは音楽好きで、夏フェスには毎年のように参戦している。
「すごく楽しかった」という昨年のROCK IN JAPAN FESTIVAL。ママに涼葉さんの印象を聞いてみた。
「私と干支ひと回り年齢が離れているのに、それを感じさせないしっかりとした子。ダンスの練習も熱心だし、今がちょうど伸び盛りの時期です」
「褒めすぎですよ~」と照れる看板娘。そんなママに対する涼葉さんの愛は、ママの誕生日に寄せたメッセージにも見て取れる。
なお、涼葉さんは居酒屋のランチタイムのアルバイトも掛け持ちしており、この日は以前いっしょに働いていた先輩も遊びに来ていた。彼女にも看板娘の印象を聞いてみよう。
見つめ合うふたり。「いつも笑顔なので、それを見ているだけでずいぶん助けられました。あと、すごく気が利く子でバイト中も常に先を読んで動いていましたね」。
さすが看板娘。皆さん、絶賛される。十分に納得したところで、お会計。読者へのメッセージもお願いします。
最後の一文が気になります……。【取材協力】
キズキ ~傷ついたダンサーが集まるBAR~
住所:渋谷区渋谷1-8-5 グローリア宮益坂10F
電話番号:03-6434-1309
http://kizuki.bar
「渋谷の“神様バー”で、巫女に扮した看板娘を静かに拝んだ」
「渋谷の焼酎ダイニングで、酔って裸足で帰宅した看板娘に昂ぶった」
「恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた」石原たきび=取材・文