007の「スカイフォール」という単語について小話を。この言葉はなんら意味を持たない。
映画の脚本家が、煮詰まった深夜に考えついた言葉だそうだ。
 
「おどおどしい地名が必要だった。パッと思いついたものを使ったら、それが結果的には製作者たちに響いたようだ」という証言が残っている。
 
スカイフォール・ロッジは、映画の中でジェームズ・ボンドが幼い頃過ごしたという、陰気なゴシック様式の家だ。少年の頃、両親の死を知らされた場所であり、彼にとっては悪い思い出の地である。建物自体はその名称同様に創作物で、サリー州の荒地に木材とプラスターで作られ、撮影後は跡形もなく片付けられた。

 
しかし、本物ともいえるスカイフォール・ロッジは存在する。グレンエティーブでボンドと"M"が足を延ばした場所から少し進んだ場所にダルネス・ロッジがあり、ジェームズ・ボンドの作者であるイアン・フレミングの家族が所有していたのだ。映画の中でボンド作品への引用が多く見受けられるので、偶然ではないだろう。曲がりくねった道の先にあるロケーションも、スカイフォール・ロッジが反映されたものである。
 
フレミング自身はダルネス・ロッジに住んだことはないが、確実に訪れている。『ドクター・ノオ(DrNo.)』でショーン・コネリーがボンドを演じるのを見たフレミングは、最後から2番目に出版した著書『007は二度死ぬ(You Only Live Twice)』で、ボンドがスコットランドの血統を持つ設定にしたが、これにも影響している。

 
小説の中で、ボンドの両親であるアンドリューとモニーク・ドラクロアはフレンチアルプスでの登山事故で亡くなるが、『スカイフォール』のクライマックスで映る教会の墓場には、彼らを含むボンドの家族の名が刻まれた墓石が置かれているのだ。
 
フレミングは生涯のほとんどをジャマイカの住居で過ごしたが、彼の人生と『スカイフォール』に登場する人物には強い繋がりがある。『スカイフォール』はイスタンブールのシーンで始まるが、一時期"スパイの街"として知られたその土地に、フレミングは1955年に雑誌の取材で訪れている。『ロシアより愛をこめて( From Russia WithLove)』の舞台もここであり、『スカイフォール』で使われたのもある種のトリビュートだった。