幼い少女がなぜそんな力を持っているのかと疑問に思うところですが、その源は「第二次性徴期の少女の希望と絶望の相転移」だといいます。これだけ聞くと単なるアニメの話だと聞き流してしまいそうですが、この「魔法少女の相転移」について、高エネルギー加速器研究機構でニュートリノの研究に携わる多田将准教授は、「科学的に見ても本当によく練られていると思います」と語ります。
「『まどか☆マギカ』で使われる“相転移”という単語ですが、これは実はれっきとした物理学用語です。簡単に言うと“相転移”とは“状態が変化する”こと。水を冷やすとどんどん冷たくなって、ある一定の温度以下になると氷になりますよね。この状態変化が“相転移”です」
同作では、最初は純粋な存在だった魔法少女たちが、ある瞬間を超えると急に魔女になってします。この現象を“相転移”と呼んでいるのではないかと多田准教授は指摘します。
「“相転移”を起こすためには、ある一定量のエネルギーが必要なのです。たとえば、お湯が水蒸気になるには、一定量の熱量で熱する必要があります。この相転移の際に必要となる一定量の熱エネルギーのことを“潜熱”と呼びます。
インキュベーターが回収しているのも、まさにこの“潜熱”のはず。なお、相転移や潜熱は日常にも存在する身近な存在ですが、なかには宇宙の成り立ちに関わるほど大きなエネルギーを持つものもあり、たとえば、過去に宇宙が膨張したきっかけになる“インフレーション”という現象が起こりましましたが、これは膨大な熱量の潜熱が放出された結果だとされています。
◆ケトル VOL.32(2016年8月14日発売)