「今まで東京に住む理由は、学校や職場に近いからでした。でも、いずれはどこでも仕事ができるようになるだろうし、実際に東京でしかできないのはラジオの仕事だけだな、と思っていたんです。住む場所やそこで生まれる時間の使い方は、今後人々のアイデンティティになると思ったのがきっかけでした。東京にいた方がかっこいいという固定観念も崩れつつあった。そう思ってから、東京以外で暮らすことに目を向け始めました」
今年の2月頃までは週の半分を東京、半分を長野と行き来する生活を続けていた武藤さん。
「長野で生活し始めてから、友達とお茶をしたり、仕事先で雑談したりと、自分の知らないことを聞く機会は急に減りました。しかも友達はアーティストやモデルなど、特殊な仕事の人が多い。会話をする人の職種が自然と偏っていることにも気づいて。自分の半径2メートルより外の世界の人が、どんなことを感じ、どんなことをしているのかを知ることが、今の自分に必要だなと思ったんです」
二拠点生活という選択も大きな決断ですが、コロナウイルス騒動により、人との付き合い方や距離感は、劇的に変化していきそうです。
「よく『老後は田舎や山で暮らしたい』と考える人が多いですが、リモートワークなどが普及したことで『なんで老後って言ったんだっけ。今からでもできるじゃん』って気づく人がたくさん出てくる、と思いました。今、いろいろなコンテンツをオンラインで視聴できたり、人と簡単にZoomでつながれたりする。やりたいことが住む場所に縛られない環境が出来上がってきたからこそ、これからは地方が盛り上がりそうだと思いました。
私も長野に住む前は、働き方で自分らしさを出そうとしていました。でも、長野に来てからは『どう自分らしくあるか』を考えるようになった。自分にフィットする生き方や暮らし方を探してみるだけで、ポジティブな気持ちになれるんだなと思いました」
コロナ騒動は、交通費や時間をかけることなくオンラインで話す気軽さを世に知らしめましたが、武藤さんは、だからこそ「これからは『会うこと』の価値が一層上がる」とも語っています。騒動はまだまだ収束が見えませんが、今後はオンラインとオフラインをどう使い分けるかが、大切なキーワードになりそうです。
◆ケトルVOL.54(2020年6月16日発売)