カツセ 「僕自身、けっこう頑張って原稿を仕上げたつもりだったんですよ。でも、実際はすごい量の朱字で(笑)。戻ってきたものを確認して、ありがたいと思うと同時に、どんだけ自分に甘いんだという実感もして、もっとストイックにやろうという気持ちになりました」
池田 「一度は『もう大丈夫!』と思って手放したのに、膨大な量の朱字が入って戻ってくるわけですもんね」
カツセ「思った以上でした(笑)。しかも、どこまで直すべきなのかがわからなかったんですよね。Webで原稿を書く時は、編集者からの朱字は基本的にすべて修正するので。それが小説の場合、著者が判断しないといけないから、途端に答えがなくなった気持ちになって。時間をかけて、これはこの表現でいいんだっけ? と1つずつ確認していきました」
著者が仕上げた原稿を印刷所に入稿して、最初に出てきた「初校」を校閲者がチェック。誤字はもちろん、内容に矛盾や事実誤認がないかを確認して著者に渡します。著者は、校閲者の朱字を確認しながら内容を調整し、再び入稿。2度目に印刷所から出てきた「再校」と呼び、原稿量が多いほど、確認作業は多岐に亘るため、著者・校閲者ともにかなりの体力を消耗します。
カツセ 「初校が出てから朱字が入ったゲラが返ってくるまでに2週間くらいあったんですけど、そこでしばらく時間ができたことで自分の文章を冷静に見られるようになったんですねそうすると、言い回しの気持ち悪さや、文章のくどさみたいなものが途端に気になるようになって。
幻冬舎では、初校と再校で校閲者を変えており、さらに精度を高めているのだそう。中でもカツセさんが唸ったのは、書いた本人も気付いていないことだったそうです。
カツセ 「僕は『おつかれさま』という言葉を意識せずに漢字とひらがなで分けて書いていたんですけど、それに対して指摘が入ったことで初めて言葉の役割を考えたんです。その瞬間に言葉に体温が乗っかった気がして嬉しくなりましたね。文字だけで人の距離感を表せるのってすごいなって」
池田「著者によっては文章に朱字を極力入れないこともあるんです。ただ、カツセさんとは初めての仕事だったので、念のため確認させていただきました。重箱の隅をつつくような指摘で鬱陶しいですよね(笑)」
校閲者とのやりとりが、「誰に読ませるか」「言葉にどういう意図を持たせるのか」といったことを考えるきっかけになったというカツセさん。優れた作品が生まれるのも、それを支えるサポートがあってこそのもののようです。
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