【コマ】
他人の夢の中に潜入する『インセプション』(2010年)の主人公・コブ。彼は常に「トーテム」というコマを持っています。コマを夢の中で回すと、そのままずっと回り続けるため、現実と夢を見極めることができるからです。
実はこのコマ、もともと彼の妻・モルが使っていたもの。以前、この夫婦は愛し合うあまり、深層心理の奥底にある「虚無」という場所に50年も引きこもっていました。そして、モルは何でも思うままにできる夢の世界に惹かれた結果、コマを「心の金庫」に隠すことで現実の存在を忘れようとしてしまいます。
一方、「子どもが待つ現実に還りたい」と思ったコブは、モルに隠れて金庫の中のコマを回し、「コマが回り続けているから現実じゃない」という暗示を彼女に埋め込みました。しかし、深層心理のコマは回り続けているため、現実に還ってもモルは「ここは夢の中」と思い込んでしまいます。結局、彼女は現実と夢の区別がつかなくなり自殺。永遠に回り続けるコマなんて本当は存在しないように、現実から目を背け、都合よく理想の世界を生きるのは不可能だったのです。
このコマは実際に発売されており、Amazonなどで買うことができます。当然、永遠に回る機能は実装されていません。
【コイン】
『ダークナイト』(2008年)のヴィランは、ジョーカーだけではありません。顔の半分が焼け焦げた怪人トゥーフェイスも強烈な印象を残しています。劇中の彼は当初、ゴッサム検事局の正義感あふれる検事ハーヴェイ・デントとして登場します。しかし、マフィアと汚職刑事の罠によって、恋人のレイチェルを失い、自身も重度の火傷を負ってしまいました。虚しさに囚われたデントは、怒りを煽るジョーカーに促されるまま、復讐の鬼となります。
しかし、デントはトゥーフェイスとなっても、一方的に悪人を裁くわけではありません。長年仕えてきた「正義」に裏切られた反動から、常に物事には二面性があるという認識を抱えており、復讐するかどうかをレイチェルの形見となった「幸運のコイン」のコイントスに任せています。表が出たら殺さない。では裏が出たら……。
この残酷な世界では、善人が生き残るとは限らず、悪人が罪を裁かれるとも限らない。
トゥーフェイスのコインは1ドル硬貨で、両面に自由の女神が描かれています。こちらも映画グッズとして購入することができますが、本物は片側のデザインが違っているので、くれぐれも現実に使わないように!
【ポラロイドカメラ】
『メメント』(2000年)の主人公・レナードは記憶が10分しかもたないため、出会った人物や訪れた場所をポラロイドカメラで撮影し、そこにメモを書き添えることで、妻を殺害した犯人を捜す手がかりとしていました。
そんなレナードの前に、テディという男が現れます。レナードは覚えていませんでしたが、彼を撮影した写真は持っており、そこには「信じるな。こいつが犯人だ」と書かれていました。当然、メモを書いたのは自分です。その記述に従い、テディを撃ち殺すレナード。映画はテディが撃ち殺されるまでの過程がさかのぼって描かれ、レナードの「記録」とは違った真実を暴き出していきます。
個人情報が詰まったスマートフォンを持ち歩き、SNSに日々の出来事を投稿しているように、「自分」を証明する記録に囲まれて暮らしている私たち。いつどこに行き何をしたか。
レナードのカメラは「ポラロイド690」という一世を風靡した製品。ありふれたカメラだったことから採用されたわけですが、なんとポラロイド社は『メメント』公開の翌年に倒産。映画同様に驚きの結末を迎えました。
◆ケトルVOL.56(2020年10月15日発売)
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