「『G線上のあなたと私』には、いわゆる”嫁姑問題“がリアルに描かれていますよね。彼女のように現実的な要素をストーリーに組み込む恋愛マンガは珍しい。あと、これは翻訳的な視点になるのですが、いくえみ作品では会話の中でその場にいない誰かについて話すことが多いですよね。指示語や固有名詞が省略されていることもあるので、誰のことを指すかをしっかり考えながら読みます」
確かにいくえみ作品は登場人物が多く、多重的にストーリーが進むこともあるので相関図も複雑。一方で文化圏が違えど強く共感できる点もあるようです。
「いくえみ男子は少し孤立気味で、人間関係が得意ではないですよね。これは北米男性の特徴と非常に似ているんです。クールなフリをして、実は女性への接し方がわからないところが特にそっくり。そんなふうに人間のあまり魅力的でない部分、闇や葛藤、厄介な現実をありのままに描くところが面白い。だからこそ読者の抱える状況や悩みにシンクロして寄り添える存在になっているのだと思っています」
ちなみに近年ではバブス・ターやベラ・ブロスゴルのように、日本の少女マンガに影響を受けた北米出身のマンガ家も徐々に登場しているそうです。ジョセリーヌさんに、いくえみ作品の読者にオススメしたい作家さんを教えてもらいました。
「いくえみ作品と同じように、愛や人生、人間関係を様々な視点で捉えている作家だと、ルーシー・ナイズリーやジュリアン&マリコ・タマキですね。いくえみ先生のファンなら楽しめるはずです」
マンガがその国の中だけで消費されていたのは過去の話。国境を超えて愛される作品は、お互いの文化理解を助ける大きな手がかりになるだけに、マンガの重要性は今後ますます増していくのかもしれません。
◆ケトルVOL.57(2020年12月15日発売)