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育児をしながらどう酒を飲むか。コロナ禍で、3年も続けて娘には夏らしい思い出などほとんど作ってやれなかった。

今年の夏の終わりごろ、休みの日に「パパ友」と娘たちを地元のプールに連れていこうという話になった。

初めてのLINE交換

先日、初めて保育園の「パパ友」とのLINE交換をした。

0歳児クラスから今の保育園に通いだした娘も、早5歳。それだけ通ってはじめてのことだ。まぁ、娘はすっかり友達も増えたようだが、コロナもあって、保育園以外で家族同士で遊ぶというような機会がほとんどなかったから、仕方のないこととも言える。なのでそもそも、僕に相手を“パパ友”と呼べる資格があるほど深い付き合いではないんだけど、ここではもう、そう言わせてもらいたい。

交換をしたのは、娘がクラスでいちばん仲のいいNちゃんのお父さんだ。保育園の送り迎えに行くと、たいてい娘とNちゃんは、ふたりでキャッキャと遊んでいる。顔が似ているとかではないものの、その姿がまるで双子のようで微笑ましい。

また、園の行事、たとえば「夏まつり」なんかに参加して、保育士さんたちが考えてくれたいくつかのゲームをスタンプラリーのようにめぐる場合など、娘は必ず「Nちゃんといっしょのがやりたい」とついて回る。もっと主体性を持ってほしいとこっちが心配になるほどに、Nちゃんのことが好きなようだ。

そんなNちゃんのご両親は、常に笑顔の爽やかな素晴らしい人たち。それに、たぶん僕よりはだいぶ年下と思われるが、ふたりともものすごく人間ができている。

なんというか、オーラからして余裕がある。

たとえば保育園のお迎えのタイミングがちょうど一緒になり、近くの公園で少しだけ遊んで帰りたいということになったとする。するとたいてい、「じゃあ時計の針が下に向くまでね(つまり、30分になるまで)」などと約束し、遊ばせてやる。ところが約束の時間になったって、子供たちが素直に言うことを聞くはずがない。「もう時間だよ~」と言っても「まだ!」と言って遊び続ける。そんなやりとりを何度も繰り返していると、どうしてもイライラしてきてしまい、僕などはすぐ「ぼこちゃん、約束したでしょ! 言うこと聞かないなら、パパ先に帰っちゃうよ!」などと、語気強めに言ってしまったりする。しかしNちゃんのお父さんは、決してそういうことがない。根気強くお子さんと向き合い、「よ~し、じゃあ自転車のところまでパパと競争だ」などと、うまいこと誘導したりしている。心底、僕もああいう男になりたいと思う。

浮き輪がない!

さて、そんなNちゃんのお父さんとLINEの交換をしたのは、夏の終わりごろ。休みの日に父親ふたりで、娘たちを地元の「石神井プール」に連れていこうという話になったのがきっかけだ。コロナ禍で、3年も続けて、娘には夏らしい思い出などほとんど作ってやれなかった。それでも、屋外のプールで友達と遊ぶくらいのことは、そろそろやらせてあげてもいいだろう。

そう思い立って勇気を出してお誘いしてみたところ、「ぜひぜひ! ではLINEで相談しつつ日程を決めましょうか」となったわけだ。

それが実現したのが、今季のプール営業が終わるぎりぎりの、9月の初め。幸い絶好のプール日和だったが、むしろ暑いくらいのなか、一日あちこち回って、けっこう大変な日でもあった。

まず、娘がしばらく前から通いはじめた習い事があり、午前中はそこに連れてゆく。その出発前にふと気づく。そういえば、うちにはまだ子供用の浮き輪がないよな。さすがにはじめてのプールで浮き輪がないというのは危険だろうし、楽しさも半減するだろう。と。

そこで僕が習い事に連れていっているあいだ、妻が近隣の、子供用品を扱っている店に電話をかけまくって、浮き輪の在庫がある店を探してくれた。ところが季節が季節だけに、なかなか見つからない。やっとひとつだけ残り在庫があった店は、最寄りの石神井公園からは西武池袋線で4駅の、ひばりヶ丘にある店だった。

家に帰るなり、僕はひとり、昼食もとらずにひばりヶ丘へ。

プールの待ち合わせ時間は午後2時だから、タイムリミットは1時間半ほどだ。大急ぎで向かい、無事浮き輪を確保。娘が最近急速に興味を失いはじめている「アンパンマン」のデザインだけど、まぁ、ないよりはいいだろう。

そんなこんなで、約束の時間になんとか、娘とプールに着くことができた。

区民プールは天国

石神井プールは、まるでリゾートだった。

子供用の浅いひょうたん形のプールには、すべり台がひとつある。娘たちは大はしゃぎし、何度も何度もそれで遊んでいる。その様子を僕ら大人は「監視」という名目で、浮き輪を枕がわりに、プールに浸かって見守る。その浅いプールがなんというかもう、ジャグジーみたいな快適さなのだ。子供用プールに大人だけで入るということはできないから、これは今の時期だけの役得とも言える。

入道雲がもくもくと広がる青い空。ギラギラの日差しなんだけど、どこか秋の気配も混ざりはじめた空気。

快適な温度のプール。そして、心の底から楽しそうな娘たち。まさか近所にこんな楽園があったとは。

その後、娘たちは意外にも水をこわがらず、大人用の深いプールでも遊んだ。ここで浮き輪が大活躍。僕が引っぱったり押したりして足のつかないプールをぐるぐると泳ぎまわっている間、ずっと楽しそうに笑っていて、本当に連れてきてやれてよかったと思った。

1時間半も遊ぶと、こっちの体力も限界だ。娘たちも「あいすがたべたい」などと言いだしたので、プール遊びは終了。

Nちゃんとお父さんは、「どこでアイスが食べられるかな?」なんて話している。そこで提案。石神井公園にある三宝寺池のほとりに、「豊島屋」という古い茶屋がある。僕の大好きな店だ。

お菓子やアイスはもちろん売っているし、軽食やちょっとしたつまみ、それから酒類もある。あそこならのんびりできるかもしれません、と伝えると、じゃあ行きましょう! ということになった。

まずは娘たちにソフトクリームを買ってやり、さて僕らはどうするか。妻は、Nちゃんのお母さんとは以前からLINEのやりとりをしていて、確かご夫婦ともにお酒が嫌いでないと聞いたことがある。そこで慎重に探りを入れるような感覚で、「あ~、こういうタイミングでビールっていうのも……うまそうですよね~」などと言ってみる。すると、「いいですね!」という反応が返ってきた。

やった~! 珍しくヘトヘトになるまで体力を使い、また、全身がプールのあと特有の気だるさに包まれた状態で、キンキンの缶ビールを飲むなんて、想像しただけで最高に決まってる。

大人たちは「みそおでん」と「ソーセージ」を頼み、開放的な畳敷きの座敷席に4人で座る。心の底から楽しそうにソフトクリームを食べているふたりの子供たち。その横で僕らは、ビールを1缶ずつ。

ごくり……ごくり……と大切に飲むそのひと口ひと口が、のどを通ったあと、体じゅうの全細胞にじわーんと行きわたっていくのがわかる。

想像しただけで最高に決まってはいたんだけど、そのうまさは、僕のちっぽけな想像なんてはるかに超えていた。

2022年の夏の記憶に深く深く刻みこまれる、まさに、奇跡のビールだった。

あぁ、すでに今から、来年の夏が楽しみだな~。

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Credit:
文・イラスト=パリッコ

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