いまだかつてない盛り上がりを見せる現代短歌。その中でも最も注目すべき歌人・木下龍也と鈴木晴香による共演がOHTABOOKSTANDで実現! 新進気鋭ふたりの新作短歌連載。

きみの目とトイプードルの目が合ってその交点にある硝子窓

見るだけのつもりのペットショップからいのちをひとつ抱いて帰る

ゆびをなめられてよろこぶ表情をはじめてとおくとおくから見た

浴室で子犬を洗っている腕を見るたび撫でたくなってしまって

人間に尾のないことを確かめるためにふたりで洗い合ったり、

閉じるべきまぶたが2枚増えてから夜がぼくらに手こずっている

あぐらとはペットを股でねむらせるために続いてきた座り方

もう寝た?って、囁くたびに延びてゆく夜をまた思い出せますように

引っ越しのお祝いを口実にしておそらく母はきみに会いたい

正装をして母を待つ恋人の恋人であるぼくはパーカー

はじめましてじゃないみたい きみというより私に似ているきみの母

お辞儀するきみを無視して母さんがぼくに渡してくる萩の月

「広いわね」「まあふたりだとちょうどだよ」「そっか、子猫も家族だもんね」

3180グラムを産んだ日を未来の話みたいに聞いた

お母さんと呼ぶのはすこしこそばゆくマルセイバターサンドこぼれる

「恋人はいないの?」「なんで?いるじゃんか!?そこに!!!」と指せば母が泣き出す
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この続きは、12月15日(木)17時公開予定。
Credit: 文=木下龍也・鈴木晴香/写真=木下龍也/イラスト=じまこ