今年の夏は子供を連れてお祭りに行きまくった。浴衣や甚兵衛を着て集まる子供たちの楽しそうな様子を眺めつつ、子供のころの夏の雰囲気の思い出をつまみに飲む酒がたまらなくうまい。
子育ての特典
子育てには「思い出の追体験」という側面がある気がする。
たとえば先日、妻が一度娘を連れていってあげたいということで、家族3人で駄菓子屋に行った。現存していることが信じられないくらいに昔ながらのその店で、娘は目をキラキラに輝かせ、「これほしい! これも!」などと楽しんでいる。僕らはそれを微笑ましく見つめつつも、懐かしの駄菓子たちに内心テンションを上げ、ついあれもこれもとかごに入れてしまう。娘はお菓子よりもちょっとしたおもちゃなどを欲しがり、あぁ、そういえば僕も幼いころ、母に手渡された500円玉を握りしめて駄菓子屋へ行き、お菓子ではなくて、上限の500円を使ってマシンガン形の水鉄砲を買って帰って怒られたりしたなぁと思い出す。子育てには、強制的に思い出の追体験ができるという、ある種お得な特典がついてくるのだ。
「お祭りづくしの夏」という回にも書いたが、今年の夏はその後もお祭りに行きまくった。石神井公園の伝統行事「灯籠流し」では、数組の保育園のクラスメイト家族で、僕の好きな角打ちのできる酒屋「伊勢屋鈴木商店」に集まり、店頭のテーブルで、子供たちが灯籠に好きな絵を描いた。実は我が家では、事前に商店街の店で灯籠を買っていて、すでに娘は家で描き終わっていたんだけど、それが気に入って池に流したくないというので、保存することにし、現地で買ってもうひとつ描くことに。浴衣や甚兵衛を着て集まる子供たちの楽しそうな様子を眺めつつ、我々パパ軍団は、当然ビールで乾杯。この、子供のころの夏の雰囲気をつまみに飲む酒が、たまらなくうまい。つくづく、お得だ。
お祭り三昧
石神井公園で大々的に行われた「地区祭」にもまた、数組の家族で集まった。地元のダンス教室などの子供たちが練習の成果を発表し、周囲には地域の小学校や保育園などが出店する屋台が並ぶ。そういう場なので値段も安く、ぶ厚いハムステーキや焼きそばが、だいたい200円くらいで買える。それをつまみにさっそく飲もうと思いきや、なんと会場に酒が売っていない。そこで炎天下のなか、友達のお父さん(すっかり飲み友達になって「〇〇ちゃん」と呼ぶ仲だ)と、ちょっと距離のあるコンビニまで酒を買いに行く。その道中の、なんだかのんびりとした、子供のころの夏休みのような感じ。とても良かった。まぁ、目的は酒なんだけど。
「プールとビール」という回で書いた区民プールにも、今年も行くことができた。前回同様、娘がいちばん仲のいいNちゃんとそのお父さんと4人。ひとしきりプールではしゃぎ、泳ぎ疲れてプールのあと特有のほんのりとした倦怠感に包まれた体で、公園のほとりで食べるセブンティーンアイス。その甘さが体に染み渡ってゆく感じ。まさか大人になって、またこんな感覚が味わえるとは想像もしておらず、そのふいの懐かしさにちょっと感動すらしてしまった。
偶然前を通りかかって見つけた、謎の空き地で開催された地区のお祭りでは、手持ち花火が自由にできた。公園で気軽に花火などができない昨今、そういう場は貴重で、お決まりのように数組の家族で向かう。わなげや射的をひととおり楽しむ子供たちを眺めながら、こっちは飲食スペースで酒盛り。花火解禁の時間になると、同じことを考える人々が多すぎて、芋洗状態のなかでいっぺんに子供たちが手持ち花火を始めたシーンはシュールでちょっと笑えたけれど、きっと娘にとってはいい思い出になったはず。
夏の空気を味わいながら
ある日曜、父親同士で気が合い、だいぶ仲良くなってしまったIちゃんのお父さんと、「今日ヒマなんで、おたがい娘連れて石神井公園で遊びません?」ということになった。ところが約束の時間寸前になって、娘が昼寝を始めてしまう。起こすのもかわいそうなので、とりあえず僕ひとりで待ち合わせ場所に向かった。
Iちゃん親子と合流し、どうしようね~なんて言いながら、しばし園内をふらふら。やがて池のほとりの売店兼茶屋「豊島屋」の前にたどり着いたので、僕がIちゃんに聞く。「ここで売ってるエサとひものセットを買って、ザリガニ釣りでもする?」。ところがIちゃんは答える「そんなのやだ! ぼこちゃん、まだ来ないの?」娘と仲良くしてくれてありがたいことだが、そりゃあおっさんふたりとただ散歩するだけの休日なんて、子供にとってはつまらないだろう。心の底から申し訳ない。
Iちゃんはしきりに、「ぼこちゃんまだかな~」と言っている。それに対してお父さんは「こういうなんにもない時間っていうのが、すごく貴重なんだよ」と言っている。僕的には完全に同意だが、Iちゃんにしたらたまったもんじゃないだろう。
1時間ほどして、妻が娘を連れてやってきてくれた。Iちゃんの顔はぱっと笑顔になり、ふたりで遊具で遊びはじめる。僕とIちゃんのお父さんは顔を見合わせ、「これでひと安心ですね」と言いあい、ベンチに座って、子供たちの姿を眺めながらちびちびとビールを飲むのだった。
夕方になり、蝉時雨にはいつのまにかヒグラシの声が混ざりはじめている。日中のうだるような暑さも、いくぶんではあるけれど落ち着きはじめた。そうそう、昔もこうだったよな。と、娘に追体験させてもらっている「夏の空気」を、胸いっぱいに吸い込むように味わいながら飲むビールが、なんともうまかった。
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パリッコ『缶チューハイとベビーカー』次回第41回は、2023年10月6日(金)17時配信予定です。
Credit: 文・イラスト=パリッコ