娘の顔が自分に似ているようだ。娘の友達のお父さん、お母さんからも言われるし、小学校の同級生からも自分の子供の頃そのものだと言われるから、間違いないのだろう。
DNAの力強さ
我が家に娘がやって来てくれて以来、遺伝子って本当に不思議だよなぁと、心の底から実感する機会が増えた。
娘の送り迎えで保育園に行くと、時間のかぶったお母さん、そしてその娘さんが並んで歩いているシーンなどをよく目にする。なかには顔がそっくりすぎて、違うのはサイズ感だけ、みたいな親子もいる。ところがその子の顔は、保育園にたくさんいるその他の園児の誰とも似ていないのだ。そのたび、DNAに刻まれた遺伝子の力強さを感じざるをえない。
娘の顔がどちらに似ているかというと、友達や、クラスメイトのお父さんお母さんなどからは「パパそっくりだね~」と言われることが多い。確かに、特に鼻口あたりの造形は僕とほぼ同じで、膝の上に前向きに座らせたところを撮ってもらった写真なんかを見ると、まるで画像処理ソフトでコピー&ペーストしたのかと思えるほど。仕事で長く付き合っている人のなかに、小学校の同級生で、いちばんよく遊んでいた友達がいる。そいつに娘の写真を見せたときは、「これ、昔のコバ(当時の僕のあだ名)じゃん!」と言われ、そう聞くと確かに、母の三面鏡をいろんな角度に開いたり閉じたりし、自分の顔を映して遊んでいたころの自分の顔や質感って、こんな感じだったよな~と思い出したりもする。
鼻筋が通って整った顔の妻に似たら、もっと王道の美形顔になっていたのだろうが、どちらかというと今は、愛嬌のあるかわいさといった印象か。骨格が近いからか、ちょっと鼻にかかったような独特の声も、僕に近いのかもしれない。あと、妙に色白なところも。
ただ、しゅっと切れ長の目は、僕ではなく妻に似ている気がする。以前、妻の実家の居間に飾ってある子供時代の写真を見たら、ニコッと笑ったその顔が、今の娘とほとんどおんなじで驚いた。顔というのも成長とともに揺らぎつつ変わっていくんだろうけど、やっぱり僕と妻の子供なんだなぁと感じ、それはなんだか、妙に嬉しかった。
満点の星空と月が輝く夜の海
性格もまた、基本的にきっちりとした妻よりも、どちらかというと僕に近い部分が多くなってしまっているのかもしれない。
娘は現在、とある体を動かす系の習い事をひとつしていて、仲良しのクラスメイトのNちゃんとともに教室に通っている。Nちゃんはこれまた遺伝子のせいか運動神経が良く、通うたびにできることが増えていって、見学しているこちらが驚かされることも多い。対する娘は、成長のスピードがのんびりだ。今週できなかったことが、その次の週も、その次もうまくできないという場面も多い。ところがそんなときの反応が、悔しがるでも、闘志を燃やすでもなく、完全に“ヘラヘラ”している。できてもヘラヘラ、できなくてもヘラヘラ、えへへ~って感じ。それを見るたび、極力人との争いを避け、日々ヘラヘラして生きていたいと願う僕は、あぁ、自分の子なんだなぁと実感する。僕もそれに対し「もっとがんばって!」とか言う気もなくて、楽しそうでなによりだなぁと。そしてたまにうまくいったら「いいじゃんいいじゃん!」と言うくらいで、その温度感が心地よくありつつも、なんだかごめん……という気持ちもある。
それとは別に、僕も妻も共通して、たぶん一般平均よりは絵を描くのが得意なタイプ。また、音楽の趣味が合うという共通点から知り合ったこともあり、今も音楽を聞くのは大好きだ。娘はそういう遺伝子を受け継いでくれているのか、親バカかもしれないけれど、絵がうまい。大好きでずっとハマり続けているポケモンの絵など、少し前は、目、鼻、耳、しっぽ、みたいな感じで、それっぽいものを描くのが精一杯だったのが、6歳の現在は、ちゃんと見本を見つつ、模写の域に足を踏み入れはじめている。また、スケッチブックに絵の具で絵を描くのも好きで、先日突然描いた「満点の星空と月が輝く夜の海」は、空と海の青の濃さを分ける芸の細かさや、青で塗った海の上に白でのせた波の表現などが見事で、かなりの傑作と言わざるをえない。
また最近は、車で出かければずっとポケモンのテーマソングなどをかけさせられ、それに合わせて歌っているし、ダンスにも興味が出てきたようで、ダンス教室に通ってみたいとも言っている。できる範囲で、なるべくいろいろやらせてあげたいものだ。
酒飲みの遺伝子
最後に、判明するのはまだ14年後になるのだけど、娘と「酒」との関係に関しては、どうなるんだろうか。
僕がまず、酒に関する知識とかではなくて、純粋に「好き」という気持ちにおいて、尋常ならざる、たぶん日本でもけっこう上位に入るくらいの遺伝子を持ってしまっている。これは看過できない問題だ。
僕が20代のころに亡くなってしまった父も酒好きで、遺影が、旅行先の旅館で、浴衣姿でニッコニコでビールを飲んでいるところなんだけど、遺影があれって、なかなか珍しいパターンじゃないだろうか。母も量はぜんぜん飲まなくなったようだけど、夕食どきに美味しい日本酒なんかを飲むのが日々の楽しみのようだ。
祖父母に関しては、父方は両方とも早くに亡くなってしまっていて、僕には記憶がない。母方の祖母はどうだったかな。あまりお酒を飲んでいたイメージはないような気がする。ただ、祖父は大の酒好きで、また、酒の肴とか珍しい食材に目がなかったのを覚えている。その血は、確実に僕に受け継がれているだろう。
逆に、妻は外食も酒も好きだけど、日常的に飲むほうではない。ママ友たちとの会合があるとか、美味しいものを食べながら嗜む程度に飲むのは大好きで、また家でも、たまに美味しいクラフトビールなどが手に入るとそれをゆっくりと味わいつつ飲む、という感じ。これは妻の両親にも共通していて、年末年始などに帰省しても、だらだらとずっと宴会しているというようなことはない(僕の親戚たちは父方母方とも朝から晩までだらだらタイプだった)。きっちりと美味しいものを用意して、ビールを1杯、それから、ちょっといい日本酒をキュッと飲む、くらいのきれいな飲みかただ。
以前、「いつか娘と酒が飲みたいか?」という回に書いたが、僕は「将来、娘と一緒に飲みに行きたい!」という願望は、今のところあまりない。酒というのは幸せなものである一方で、害も多くある液体だから、それこそ僕のように「失敗談なら数限りなし」みたいには、正直なってほしくない。まったく飲まなくてもいいし、好きになってもらってもいいけれど、飲むなら飲むで、できれば妻のような嗜みかたができる人になってほしい。
と、書いたところで今日もそろそろ夕方。さて、スーパーに買い出しに行って、今夜はどんなつまみに、どんな酒を合わせようかな~。
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パリッコ『缶チューハイとベビーカー』次回第43回は、2023年11月3日(金)17時配信予定です。
Credit: 文・イラスト=パリッコ